コラム

インフラシェアリングとは?将来性や今後の課題・技術動向・提供企業を解説

インフラシェアリングとは、異なる通信事業者が通信設備を共用することです。なぜ今、インフラシェアリングのニーズが高まっているのか、また、今後はどのような動きが予想されるのかまとめました。政府の見解や動き、すでに取り組んでいる企業の事例などについても紹介します。

「インフラシェアリング」とは?

インフラシェアリングとは、異なる通信事業者で通信設備を共用することです。新しい通信網を日本全国に敷設する場合、1つの事業者だけでは初期投資費用が高額になるだけでなく、多大な時間がかかります。

しかし、複数の通信事業者が協力して取り掛かれば、短時間で通信網を日本全体に敷設できるだけでなく、各事業者が負担する費用も軽減することが可能です。また消費者も、低額かつ広範囲で新しい通信サービスを利用できるというメリットを享受できます。

インフラシェアリングのニーズが高まった背景

従来、通信事業者は独自に通信設備を設置し、独自の通信網を構築することで、消費者に通信サービスを提供しています。そのため、どの事業者と契約しているかによって、つながりやすさや速度などに差があることが一般的でした。

しかし、インフラシェアリングにより、同じ通信サービスを別の通信事業者で契約することが可能になっています。インフラシェアリングのニーズが高まった背景としては、次の2つが挙げられるでしょう。

  • 5G(第5世代移動通信システム)の到来
  • 基地局用地不足の解消や整備費削減に対応

それぞれの背景について解説します。

5G(第5世代移動通信システム)の到来

5G(第5世代移動通信システム)とは、従来のネットワークに比べて高速かつ大容量、低遅延、同時接続数が多いという特徴がある通信システムです。4Gによって飛躍的にスマートフォンが便利に利用できるようになりましたが、5Gはモバイルネットワーク技術から社会そのものを変えるといわれています。

5Gは4Gと比べて通信速度は20倍、また、遅延は10分の1、同時接続数は10倍になることが見込まれている技術です。5Gが普及することで、スマートフォンやパソコン、インターネットを利用するIoTなどが増えてもスムーズかつストレスのない接続が期待できるでしょう。

しかし、5Gを便利に活用するためには、いち早く全国に基地局などの通信設備を敷設し、シームレスな利用を実現することが求められます。インフラシェアリングを実施し、各通信事業者が協力して設備の設置を進めていくことが必要です。

基地局用地不足の解消や整備費削減に対応

基地局を設置するためには土地が必要です。設置に適した場所に適切な土地が無限大にあるわけではないため、後から通信事業に算入した事業者は用地を確保できない可能性があります。

各通信事業者が個別に基地局などの通信設備を設置すると、事業者は高額な設備費を支払うことになり、通信費に反映されて消費者にしわ寄せが行くかもしれません。また、通信設備は定期的に整備する必要があることも、高額な通信費となって消費者の負担になります。

しかし、インフラシェアリングを実施すれば、各地点の基地局が1つにまとめられるため、用地不足や設備費増などのデメリットも回避しやすいでしょう。消費者も安価に通信サービスを利用でき、よりいっそうインターネット通信を便利かつ気軽に活用できるようになります。

インフラシェアリングの重要性

インターネットの普及により、多くの業務がオンライン化しました。また、場所を問わず情報が入手できるようになったことで、単に情報を取得することではなく、より正確かつ詳細な情報を取得することが重要になってきています。

そのような時代のなか、インフラシェアリングを実施することで、より広い地域で高速かつ低遅延の通信システムの早期普及が期待されるようになりました。事業者の枠を超えて設備を共有すれば、特定の1社、2社が基地局などの通信設備を構築するよりも短時間で通信システムを敷設することが可能です。

また、インフラシェアリングにより事業者あたりの設備投資額が下がれば、中小規模の事業者も新規参入しやすくなります。価格競争が起こり、高速かつ高品質の通信サービスを低価格で利用できるようになるでしょう。

総務省が進めるインフラシェアリングの推進

情報化が進む社会から日本が取り残されることのないよう、また、日本が情報化社会をリードする存在になるためにも、総務省ではインフラシェアリングを推進しています。

2018年に移動通信分野におけるインフラシェアリングのガイドラインを定めて以来、政策としてインフラシェアリングを後押ししてきました。政府の主な動きと5G整備の構想について見ていきましょう。

インフラシェアリングに対する政府の主な動き

インフラシェアリングに対する政府の主な動きは以下の通りです。

時期政府の動き
2018年12月移動通信分野におけるインフラシェアリングのガイドラインを策定
2020年11月以降デジタル変革時代の電波政策懇談会の開催。共同整備の必要性やインフラシェアリング事業者のニーズについて議論を実施
2021年9月内閣官房による成長戦略会議で、インフラシェアリングを全国的に国主導で行うことについてのニーズを確認
2021年10月~総務省による新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会で、インフラシェアの方向性をミリ波と地理的条件不利地域への対応にあることを確認
2021年11月~内閣官房によるデジタル田園都市国家構想実現会議にて、インフラシェアリング事業者の追加や共同整備の国庫補助率増について討議
2022年3月総務省によるデジタル田園都市国家インフラ整備計画にて、構想実現には光ファイバーや5Gなどのデジタル基盤が不可欠であること、補助金制度の実施によりインフラシェアリングを推進することを確認

インフラシェアリング事業者に補助金を支給するなど、国家規模でインフラシェアリングの推進に取り組む動きが加速化していることがわかります。

デジタル田園都市国家構想「5G整備」

デジタル田園都市国家構想とは、デジタル実装を通して地域問題を解決し、すべての人がデジタル化のメリットを享受できる生活を実現するという構想です。また、地方創生関係の交付金なども通して、2024年度末までには地域課題解決に取り組む自治体を1,000団体に増やすことも目標にしています。

デジタル田園都市国家構想は2021年に政府により発表された構想ですが、実現のためにはインフラシェアリング推進による5G整備が欠かせません。インフラシェアリングにより早期に高速かつ低遅延のデジタル通信網を全国に敷設することで、地域の個性と豊かさを活かしつつ、都市部と変わらない利便性と生産性を確保し、持続可能な環境の構築を目指します。

参考:総務省/デジタル田園都市国家インフラ整備計画(概要)

インフラシェアリングの現状と今後の展開

5G向けに割り当てられている周波数は障害物に弱いため、基地局を密に設置する必要があります。インフラシェアリングを実施することで事業者を超えて通信設備を共用すれば、短期間かつ低予算で5Gの利用が可能になるでしょう。

現在、インフラシェアリングはどのように進んでいるのか、また、課題や将来性について解説します。

インフラシェアリングの技術動向

携帯各社では新しい通信サービスである5Gへの設備投資が加速しています。5Gを全国に普及するためには10兆円規模の投資が必要という試算もあり、今後も携帯各社の設備投資は増えるでしょう。

その一方で、政府からの要請もあり通信料の値下げを余儀なくされており、大規模な減収につながっています。支出増と収入減による難局を克服するための方法として、インフラシェアリングに注目するのは自然な流れです。インフラシェアリングにより事業者が手を結べば、投資費用を抑えて消費者に5Gの提供が可能になります。

現在、基地局のシェアを行う事業者も誕生してきました。共同で基地局を設置するだけでなく、環境の整備や維持管理も請け負い、携帯事業者の資金面と管理業務の負担減を目指します。

インフラシェアリングの課題

インフラシェアリングは、5G普及と通信料の値下げを実現するためには不可欠な仕組みといえます。しかし、課題も多く、インフラシェアリングの拡大は容易ではありません。主な課題としては、次のものが挙げられます。

  • 政府ではインフラシェアリングを推進しているが、予算規模が十分とはいえない
  • 5Gを超えたBeyond 5G(6G)に対するニーズに応えられない
  • インフラシェアリング事業者が利用できるリソースについての明確な基準がない

政府ではインフラシェアリングを通して、すべての人が高速かつ低遅延の5G通信を利用できる環境をできるだけ早期に構築しようと構想しています。そのためには短期間に高額の資金を投入する必要はありますが、予算規模が十分とはいえず、構想だけで終わる可能性も否定できないでしょう。

また、5Gの整備に注力している間に、世界ではより高速かつ安定性の高いBeyond 5G(6G)のフェーズに突入している可能性もあります。5G普及に時間と費用がかかりすぎることで、世界のデジタルの潮流に乗り遅れる可能性もあるのです。

インフラシェアリング事業者もいくつか誕生していますが、まだ多くはないため、事業者が利用できる基地局やアンテナ、周波数などのリソースが明確に決まっていないことも課題といえます。将来的にインフラシェアリング事業者が増えること、また、インフラシェアリング事業者を利用する通信事業者も増えることを見越し、早めに明確な基準を構築することが必要でしょう。

インフラシェアリングの将来性

インフラシェアリングを実施することで、通信事業者ごとに基地局を建てて管理するという非効率な展開は減ると予想されます。とはいえ、基地局に通信事業者各社のケーブルをつなぐなどの業務は不可避のため、5G推進の効率性が飛躍的に高まるわけではありません。

しかし、無線でシェアリングできる仕組みが構築されればどうでしょうか。ケーブル接続の業務が不要になるだけでなく、よりスムーズかつ低価格で5G通信を利用できるようになると考えられます。インフラシェアリング事業者の事情もあるため解決すべき課題も多いとは予想されますが、可能性の1つとして期待することはできるでしょう。

インフラシェアリングのメリット

インフラシェアリングには、次のメリットがあります。

  • 設備の設置作業や交渉の手間がかからない
  • 設備投資や運用にかかる費用を削減できる

それぞれのメリットについて解説します。

設備の設置作業や交渉の手間がかからない

通常、通信設備を設置するのは、建物が建ってから店舗や住民が入居するまでの間に限られます。期間が短く、急いで対応する必要があり、スケジュールが合わずに店舗や入居者に迷惑をかけることもあるでしょう。しかし、インフラシェアリングを利用することで、設備の設置作業が不要になります。

また、そもそも建物に通信設備を設置するためには、他の通信事業者や建物のオーナーなどと設置費用やスペースについて交渉することが必要です。通信事業者間で業務提携する場合も、費用の負担や維持管理の分担など、事細かに交渉しなくてはいけません。

ですが、インフラシェアリングを利用すれば、インフラシェアリング事業者と契約するだけで通信設備の設置が可能です。各方面と交渉する必要がなくなるため、手間をかけずに事業を拡大できます。また、契約先がインフラシェアリング事業者だけになることで、トラブルを軽減できる点もメリットです。

設備投資や運用にかかる費用を削減できる

インフラシェアリング事業者を通して通信事業を展開すると、新たに通信設備を設置する必要がありません。また、設備の維持管理もインフラシェアリング事業者に任せられるため、運用にかかるコストも削減できます。

設備投資や運用にかかるコストを削減した分、通信料を下げることで競争力を高めることが可能です。数多くある通信事業者の中から選ばれる事業者になるためにも、インフラシェアリング事業者の利用がアドバンテージになるでしょう。

インフラシェアリングのデメリット

メリットの多いインフラシェアリングですが、いくつか注意すべき点もあります。とりわけ次の2つのデメリットに関しては、インフラシェアリングの利用の前に対策を練っておくことが必要です。

  • 障害発生時の対応に時間がかかってしまう
  • 通信事業者間のサービスの差別化が難しくなる

それぞれのデメリットについて見ていきましょう。

障害発生時の対応に時間がかかってしまう

自社の通信設備のみを利用している場合であれば、通信障害が発生したときも、トラブルの原因を見つけやすく、スムーズに対応することが可能です。

一方、インフラシェアリングで通信サービスを提供している場合は、まずはインフラシェアリング事業者に問い合わせてトラブルの原因を突き止めてもらい、対応をしてもらうまで待つ必要があります。いずれも自社で動くことが難しいため、自社設備でのトラブルに比べ、復旧までに時間がかかるでしょう。

通信事業者間のサービスの差別化が難しくなる

インフラシェアリング事業者を通して他社と同じ通信サービスを利用すると、インターネット通信の品質や速度、つながりやすさなども他社と同じになり、差別化が難しくなります。そのため、速度やつながりやすさなどを全面に打ち出したアピールは難しくなり、価格で競争することになり、利益確保が厳しくなることも想定されるでしょう。

【日本国内】インフラシェアリングを提供する企業

日本国内には、すでにインフラシェアリング事業者がいくつか誕生しています。インフラシェアリングを提供している企業と事業の特徴について見ていきましょう。

インフラシェアリングを提供している企業1:JTOWER

JTOWERは、2012年に設立された日本のインフラシェアリング事業者の中でも古参に属する企業です。JTOWERではアンテナなどの通信設備の共用化を提案し、基地局建設にかかるコスト削減を実現しています。

現在では屋内設備を中心に事業展開しているJTOWERですが、将来的には屋外設備の共用にも注力していく方針です。ドコモやNTT東日本、NTT西日本から既設の鉄塔を譲り受けるだけでなく、自社鉄塔の新設も計画しています。

インフラシェアリングを提供している企業2:シェアリング・デザイン

シェアリング・デザインは2021年に設立されたインフラシェアリング事業者です。JCOMを傘下に持つ住友商事と、イッツ・コミュニケーションズを傘下に持つ東急が各通信事業のノウハウを活かし、通信設備の共用を提案しています。

また、東急は商業施設やホテルなどの不動産を多く所有するため、基地局の確保が容易な点もアドバンテージです。現在では都市部を中心としたインフラシェアリングを進めていますが、将来的には全国展開を目指しています。

インフラシェアリングを提供している企業3:三菱地所

三菱地所では、2022年4月、自社で保有する丸の内ビルディングに共用目的の通信設備を設置しました。基地局の設置場所が限られている大都市圏に焦点を当て、通信事業者が個別に設置していたケーブルや電源を共通化し、スペースの有効活用を目指します。

不動産デベロッパーとして大手の三菱地所ならではの交渉力を活用し、自社物件だけでなく他のオーナーが所有する土地にも共用設備の設置を提案する方針です。また、将来的には1,000箇所以上での共用設備の設置を計画しています。

【海外】インフラシェアリングを提供する企業

オーストラリアの不動産・建設の大手企業レンドリースは、2016年に日本法人を設立し、日本でインフラシェアリング事業を展開しています。設立当初はあまり事業展開の機会がありませんでしたが、5Gの普及に伴い、大きく状況は変わりました。

現在では共用目的の鉄塔を3基建設し、通信サービスの提供を開始しています。また、今後はさらに50基の鉄塔を建設し、大規模展開を目指す方針です。

5G普及の鍵となるインフラシェアリング。今後の動向に注目

高速かつ低遅延、また同時に多数のインターネットデバイスに接続できる5Gの普及により、地方と都市部の情報格差や就労機会格差がなくなり、より暮らしやすい日本の実現が期待されています。5G普及の鍵となるのがインフラシェアリングです。今後の動向に注目し、デジタル社会を乗りこなしていきましょう。

また、5Gの後にはBeyond 5G(6G)の世界が控えています。来るべき通信革命に対応できるよう、常に最新の情報を取得することも大切なことです。インフラシェアリングだけでなく、通信業界全体の流れにも注目して情報をキャッチアップしましょう。

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