ARRとは1年間に決まって得られる収益を差す単語で、日本語では年間経常収益と訳されます。
ARRから何がわかるのか、また、どのような要因があれば成長するのかについてまとめました。
計算方法や参照するときの注意点も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
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ARRとは1年間に得られる収益のこと
ARR(Annual Recurring Revenue)とは1年間に決まって得られる収益を指す言葉で、年間経常収益や年間定期収益と訳されます。
決まって得られる収益だけを指すため、繰り返しが想定されない収益はARRには含めません。
例えば、初期費用や追加購入額などは、そのときだけの収益なので、ARRには含めずに収益として計上します。
ARRの増加は安定した利益の増加と考えることができるため、事業成長を把握する指標としても活用できるでしょう。
実際に企業相手のビジネスでは年間契約を結ぶことが多いため、ARRを重視する傾向にあります。
ARRとMRRの違い
MRR(Monthly Recurring Revenue)とは、1ヵ月に決まって得られる収益を指す言葉で、月次経常収益や月間定期収益と訳されます。毎月繰り返し得られる収益だけを指すため、初期費用やコンサルティング費用などは含まれません。
また、毎月決まって得られる収益は、年間収益の一部でもあるため、MRRはARRに含まれると考えることができるでしょう。
例えば、月額料金5万円のサブスクリプションサービスをA社に提供している場合であれば、A社から経常的に年60万円の料金を受け取れるため、MRRとして5万円、ARRとして60万円を計上できます。
ARRとMRRの使い分け
年単位の契約を結ぶことが多い企業では、ARRを用いることで事業成長や現在の収益を把握しやすくなります。
一方、サブスクリプションサービスなどの月額料金を受け取るサービスを提供しているときや、契約と解約が頻繁に起こるサービスについては、MRRのほうが計算しやすく、また、現状を把握しやすいでしょう。
一般的に、企業向けのサービスは年単位で提供することや契約・解約が頻繁に生じないため、ARRを重視する傾向にあります。
反対に個人向けのサービスは月額料金として受け取ることが多く、また、企業と比べると頻繁に契約・解約が生じるため、MRRのほうが使いやすいと判断することが多いです。
ARRの計算方法
ARRは以下の計算式で求めます。
- ARR=MRR×12
一方、MRRは次の式から求めます。
- MRR=前月のMRR+(New MRR+Expansion MRR-Downgrade MRR-Churn MRR)
New MRRとは、その月に獲得した新規顧客から得たMRRです。開始したばかりのサービスでは、New MRRが重視されます。
Expansion MRRとは、前月よりもサービスをアップグレードした顧客から得られたMRRです。利用するサービスを上位プランに変更したときなど、既存の顧客によりもたらされた利益を指します。
Downgrade MRRとは、前月よりもサービスをダウングレードした顧客から得られたMRRです。
下位プランに変更したときなど、課金額が減少した既存顧客によりもたらされます。
Downgrade MRRはContraction MRRと呼ぶこともあり、同一概念を指すことが一般的です。
Churn MRRとは、その月に解約した顧客から得られたMRRを指します。
前月のMRRをベースとし、翌月以降の増加につながるものをプラス、翌月以降の減少につながるものをマイナスで表示して合算したものが当月分のMRRです。
ARRの計算に含める数値
ARRは、以下のものをすべて含めて計算します。
- 月額料金など、安定して得られる売上
- 既存顧客が課金額を増やしたことで得られた売上
- 既存顧客が課金額を減らしたことで得られた売上
- 既存顧客が解約したことで失った売上
なお、ARRはMRRをベースに求めます。
当月のMRRには存顧客の課金増・課金減・解約などにより変化した売上が含まれますが、翌月以降のMRRには含まれないため、課金額の変化が長期にわたってARRに影響を与えることはありません。
ARRの計算に含めない数値
一方、以下の売上はARRの計算に含めません。
- 初期費用に当たる一時的な売上
- アップセルやクロスセルによる継続しない売上
- 一括課金によって得られた売上
- コンサルティングによって得られた売上
ARRは1年間の売上のうち、継続的に見込まれるものを指す指標のため、初期費用やコンサルティング費用などの1回限りとなることが想定される売上に関しては含めません。
そのため、ARRは損益計算書上の売上とは一致しない点に注意しましょう。
ARRが注目される5つの理由
売上とは別個の指標として、ARRやMRRに注目する企業も増えています。ARRが注目される理由としては、次の5つが挙げられるでしょう。
- SaaSビジネスにおけるKPIとして活用できる
- 企業の時価総額を計算する際に活用できる
- 投資家の判断指標にもなる
- 企業成長を確認することができる
- 売上見込みを概算するときに活用できる
それぞれの理由について、詳しく解説します。
1.SaaSビジネスにおけるKPIとして活用できる
ソフトウェアを利用者に提供する従来型のサービスとは異なり、ソフトウェアをネットワーク経由で共有することで利用者が使用できるようにするサービスをSaaS(Software as a Service)と呼びます。
従来型と比べて納期を短縮できるだけでなく、提供者側が一元的にアップグレードできることや利用料金が低めに設定されていることなどのメリットも多く、導入する企業が少なくありません。
SaaSビジネスにおいては、商品やサービスが目に見える形で売れるわけではないため、新規顧客の増加や既存顧客のアップグレード・ダウングレード、解約により売上を把握することで、より現実的な事業成長を算出できます。
つまり、ARRを計算することで、SaaSビジネスの成長が理解しやすくなるといえるでしょう。
ビジネスの成果を測る指標にKPI(Key Performance Indicatoe)があります。
KPIは目的の達成度を定量的に測る指標のことですが、安定した収益を示すARRをKPIに設定している企業も少なくありません。
ARRをKPIに設定することで、社内において到達目標を具体的な数値として共有でき、業務が円滑に進むというメリットを得られるでしょう。
収益モデルによってARRとMRRを使い分ける
KPIとしてMRRを使用するケースもあります。
ARRとMRRのいずれをKPIに設定するかは収益モデルによって異なるため、ビジネスの特性を見極めて使い分けることが必要です。
例えば、年間契約するSaaSビジネスであればARRをKPIに設定すると目的到達度がわかりやすくなるでしょう。
他にも、安定性が高く継続利用することが前提となっているサービスはARRが適しています。
一方、月単位で契約するSaaSビジネスのKPIにはMRRが適しているでしょう。
また、料金プランが多く、利用者が頻繁に変更する可能性が想定されるSaaSビジネスや、契約・解約が頻繁に生じるSaaSビジネスも、MRRをKPIに設定することができます。
2.企業の時価総額を計算する際に活用できる
安定した収益の増加を示すARRを用いて、将来的な収益予測を具体的に表示することが可能です。
そのため、企業の時価総額を計算するときにも、ARRは使われることがあります。
企業の時価総額は、資金調達の際にも重視されるポイントです。
時価総額が高く、将来的にも増加することが見込まれるときは、金融機関などから資金調達しやすくなるでしょう。
3.投資家の判断指標にもなる
企業の時価総額は、投資家の判断基準にもなります。
特にARRを利用すると、時価総額を計算することができるだけでなく、企業の成長性や効率性なども評価できるため、投資した資本を回収できるのか判断する際に参考になるでしょう。
また、将来的にもニーズが高いと思われるビジネスモデルであれば、継続性もARRによって評価できます。
そのため、投資期間を判断する際にも、ARRを参考にすると想定されるでしょう。
4.企業成長を確認することができる
ARRはMRRの積み重ねにより表示される数値です。
そのため、ARRを把握すれば、企業成長を確認することもできます。短期間における企業成長を確認する際には、MRRの推移が参考になるでしょう。
また、ARRとMRRの2つの指標を併用すれば、SaaSビジネスの長期・短期両方の成長性を詳しく把握することが可能になります。
5.売上見込みを概算するときに活用できる
SaaSビジネスでは、サービスごとに契約期間が異なることも少なくありません。
例えば、1ヵ月あたりの利用料金は高いものの解約手数料がかからない月額料金制を選ぶ方もいれば、1ヵ月あたりの利用料金が低く抑えられている年間料金制を選ぶ方もいます。
間をとって、利用期間が3ヵ月、6ヵ月に設定されているサービスを提供しているSaaSビジネスもあるでしょう。
MRRの推移を確認すれば将来的な売上も容易に概算できるため、利用期間が異なるサービスを提供している場合も、売上見込みを計算しやすくなります。
また、ARRの推移からはより大局的な売上見込みも計算でき、事業計画やキャッシュフローの予測に活用できるでしょう。
ARRを成長させる3つの要素
ARRが成長すると今後の売上増が期待できるため、そのサービスあるいは企業全体における将来性も期待しやすくなるでしょう。
ARRは次の3つの要素により成長します。
- 新規顧客の獲得
- 解約率やダウングレードの減少
- 既存顧客による利用拡大
それぞれがARRにどのような影響を及ぼすのか、また、各成長の要素をどのように実現するのか見ていきましょう。
1.新規顧客の獲得
新規顧客を獲得すると、MRRが増加し、ARRにも反映されます。
また、複数のプランを提供している場合であれば、新規顧客が今後上位プランに変更する可能性もあるため、さらなるARRの成長につながると見ることができるでしょう。
そのため、ARRやMRRを重視する企業では、新規顧客の獲得を最優先課題に設定することも少なくありません。
新規顧客の獲得は、さまざまな手法を用いて実施されます。
例えば、一定期間のみお試しでサービスを無償提供し、期間内に解約しない場合は自動的に有料プランに契約する方法なども用いられることが多いです。
実際にサービスの使い心地などを試してから本契約となるため、短期間で解約することが少ないというメリットがあります。
また、元々契約することを決めていた顧客にとっては数ヵ月間を無料で利用できることがメリットとなるため、サービスや企業に対しての満足度が高くなると想定されるでしょう。
2.解約率やダウングレードの減少
解約率を下げることでも、ARRの成長につながります。
解約率を下げるためには、既存顧客が高い満足度を抱いてサービスを利用することが欠かせません。
顧客が期待する価値とサービスによって提供する価値にずれがあると、満足度が下がり、解約につながることがあります。
提供しているサービスが顧客の求めているものであるかを確認するために、定期的にモニタリングを実施し、必要に応じて調整を実施していくことが求められるでしょう。
また、解約した顧客にアンケートを実施し、解約の原因を分析することも解約率の減少に役立てることができます。
ダウングレードもARRの成長を阻害する原因の一つです。
ダウングレードを減少させるためには、各プランの料金やサービス内容の妥当性を検証し、満足度を高めることが求められます。
ダウングレードを実施した顧客は、最終的にサービスを解約する可能性が高いと考えられるので、ダウングレードの原因を突き止め、改善策を講じることが必要です。
3.既存顧客による利用拡大
既存顧客による利用プランのアップグレード(アップセル)や、別の自社サービスを併用するクロスセルを促すことで顧客の平均単価が増加し、ARRの成長につながります。
また、アップセルやクロスセルをした顧客は短期間で解約するリスクは少ないと考えられるため、解約率の減少にもつながるでしょう。
例えば、ユーザー向けの特別料金を提示することで、クロスセルを促進することなどができます。
ARRを参照するときの注意点
ARRを見ることで、企業の成長性や持続性などを理解することができます。
しかし、ARRは企業の状況を示す一指標にすぎません。
投資判断などにおいてARRを参照するときは、次の2つのポイントに留意するようにしましょう。
- 一時的な収益増はARRに反映されない
- 定期的な見直しが必要
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
一時的な収益増はARRに反映されない
ARRは1年間において決まって得られる経常的な収益を指します。
一時的な収益増や継続性がないと判断される収益についてはARRに反映されません。
例えば、解約料なしで利用できる月額プランをキャンペーン的に提供したとしましょう。
このプランを利用している顧客は、翌月も継続して利用するとは限りません。
そのため、利用料金は売上に入れることができますが、ARRには含めることはできないでしょう。
その他にも、単発的に提供したサービスによって得られる収益は、すべてARRには該当しないと考えられます。
定期的な見直しが必要
ARRは将来的な売上を概算する際に用いることができる数値です。
しかし、必ずしも予想通りにARRが成長あるいは後退するとは限りません。
例えば、大々的なキャンペーンが功を奏し、ARRが予想以上の延びを見せることもあります。
ARRが成長すると将来的な売上の予想も変わるため、定期的に見直しを実施する必要があるでしょう。
また、反対にARRの成長が鈍ることもあります。
このようなケースでは、成長速度の低下にあわせて売上見込みを下方修正する必要も生じるでしょう。
いずれも定期的にARRやARRから算出した数値を見直すことで、より現状に即した将来予測を行うことができます。
ARRも参考に転職先を見つけよう
転職先を決める際、企業の将来性も重要な要素になります。
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