ヘルステックとは、最新技術を活用して医療や健康維持・増進に関する新しいサービスを創造することです。
高齢化社会による医療費の増加や人材不足、医療の地域格差などの問題を解決できるシステムとして注目されています。
本記事ではヘルステックの概要や注目される背景、活躍する分野などを解説します。
代表的な上場企業やベンチャー企業も紹介しますので、参考にしてください。
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ヘルステックとは
ヘルステックとは、健康(ヘルス)と先端技術(テクノロジー)を組み合わせ、医療におけるさまざまな問題を解決するシステムのことです。
ここでは、ヘルステックの意味や市場規模についてみていきましょう。
最新技術で健康をサポートする
ヘルステックとは、最新技術を活用し、医療や健康維持・増進に関するこれまでにないサービスを実現するシステムのことです。
高齢化社会の現代は、医療費の増加や医療分野での人材不足、都市部と地域における医療サービス提供の格差など、多くの課題を抱えています。
ヘルステックは、これら医療分野が抱えるさまざまな問題を解決するものとして多くの期待を寄せられています。
ヘルステックの市場規模
ヘルステック業界の市場規模は、年々拡大している傾向にあります。
経済産業省によると、ヘルスケア産業市場の年平均成長率は約3%で、2025年には市場規模が約33兆円になると推測されています。
市場規模が拡大している背景にあるのは、健康への関心が高まり個人向けのサービスが増えていることです。
さらに、法人向けの健康経営サービスの成長もあげられます。
国による働き方改革の推進やストレスチェックの義務化を受け、社員の健康維持・改善に向けた健康経営の施策に取り組む企業が増えている状況です。
その中でも福利厚生代行サービスの市場の占める割合は大きく、人材確保や離職防止といった目的で福利厚生に力を入れる企業が増えています。
今後も高いニーズが見込まれるでしょう。
将来的に成長が予想されるヘルステック市場ですが、日本では医療や創薬についての規制が厳しく、市場を拡大させるためには法の整備も求められている状況です。
参考:経済産業省「これまでの検討を踏まえた 健康・医療新産業協議会の検討の方向性」
ヘルステックが注目される背景
ヘルステックの市場が拡大し、注目される背景には、高齢化社会による医療費の増加や医師の不足、地域の医療格差などがあげられます。
それらとともに、先端技術の進化がヘルステックへの注目を加速させているといえるでしょう。
ヘルステックが注目される背景について、詳しい内容を解説します。
高齢化社会と医療費の増加
ヘルステックが注目される背景には、高齢化社会がさらに進み、医療費が上がるという問題があります。
日本で最も人口が多い世代は1947~1949年の第一次ベビーブームに生まれたいわゆる「団塊の世代」であり、約800万人いるとされています。
これら団塊の世代が2025年には後期高齢者(75歳)になり始めるため、さまざまな問題が起こると懸念されているのです。
これは「2025年問題」とも呼ばれ、労働人口の減少や社会保険料の負担増大といった問題が予測されています。
医療費や介護費のさらなる増加が予想され、少子高齢化で医療費を負担する若い世代が減少していることと合わせて、医療費の高騰に対応するための対策が求められています。
医師の不足
少子高齢化による労働人口の減少は、医療の現場にも影響を与えています。
医師や看護師など医療従事者不足が深刻化しており、「医療、福祉」のサービス提供に対するニーズは増え続けているのに対し、人材の供給が追いついていません。
人材不足を解消するため、人に代替するテクノロジーの導入が求められており、その役割を果たすのがヘルステックです。
地域の医療格差
地域の医療格差も、ヘルステックが注目される背景のひとつです。
業界全体でも人材不足であるのに加え、都市圏と地方の過疎地域では、医師や医療施設の数に大きな偏りがみられます。
2022年(令和4年)の厚生労働白書によると、人口10万人に対する医師数は東京都が332.8人であるのに対し、岩手県や新潟県は172.7人、青森県は173.6人という格差があります。
診療科でも医師の人数に偏りがあり、外科や産科・婦人科、小児科はとくに他の分野に比べて不足しているのが現状です。
技術の進化
ヘルステックが注目される背景には、技術の進化により、高度なヘルスケアサービスを誰もが簡単に受けられる環境になったこともあげられます。
昨今、スマートフォンやタブレット、ウェアラブルデバイスなどのデジタル機器が身近になりました。
AI解析技術の進化などによってデバイスから健康データを集め、利用者にフィードバックするなど高度なサービスも可能になっています。
健康経営の促進
健康経営に取り組む企業が増えていることも、ヘルステックが注目される理由にあげられます。
健康経営とは、従業員の健康管理を経営課題として考え、積極的に施策を行うことです。
従来、健康管理は個々人が行うものと考えられていましたが、従業員の健康維持が企業の生産性に影響することが認識されている現在、健康経営は経営戦略の一環と考える企業も増えています。
健康経営の実施は生産性を高め、会社を成長させるための投資であるとして、健康経営に取り組む企業が増えている現状です。
健康経営を推進する企業が増えたことで、福利厚生代行サービスやメンタルヘルス管理のサービスなど、支援サービスの需要も高まっています。
ヘルステックが活躍する分野
ヘルステックが活躍する分野は、多岐にわたります。主に活用されているのは、次のような内容です。
- 遠隔・オンライン診療
- 電子版お薬手帳
- AIによる画像診断
- 介護ロボットの活用
- 地域の医療連携
- IoMT
ここでは、医療分野の課題解決に役立ち、とくに注目されるヘルステックの主要分野を紹介します。
遠隔・オンライン診療
ヘルステックでは、通院が困難な患者や在宅医療を行っている患者に対する遠隔・オンライン治療が行われています。
タブレット端末などを利用して、医師が遠隔地から診療を行う方法です。
遠隔診療サービスの活用により、対面での診察を行わずにリアルタイムで受診でき、医療の地域格差を解消します。
医療機関から離れた地域や離島に居住する患者、通院できない患者でも医師の診察を受けることが可能です。
遠隔・オンライン治療ではスマートフォンやタブレットを利用して診療を行うほか、診療予約や処方箋の受取りなどもオンラインで行えます。
また、特別な疾患を専門とする医療機関や専門医が不在の地域でも、専門治療を受けることが可能です。
電子版お薬手帳
お薬手帳とは、処方された薬を記録しておく手帳のことです。
医療機関に提示することで薬の重複や良くない飲み合わせ、同じ薬による副作用の再発を防止できます。
お薬手帳で薬の使用記録を管理することにより、安全に薬を使用できるでしょう。
このお薬手帳を電子化したものが、電子版お薬手帳です。
クラウドで服薬情報を管理し、スマートフォンなどのデバイスからいつでも閲覧できるほか、利用者がデバイスを携帯していない場合も、医療機関はインターネット上で情報を確認できます。
AI による画像診断
近年の医療現場では、CT(断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)といった医療機器が活用されています。
これらの機器を活用することで病気の早期発見・早期治療が可能ですが、医師は膨大な数の医療画像を診断しなければなりません。
それを支援するのがAIによる画像診断です。
画像解析技術によりAIがCTやMRI、内視鏡の画像を分析し、画面上で異変の疑いがある箇所を指摘して病気の有無や進行具合を判断します。
さらに、AI技術では健康診断のデータや治療内容を分析し、将来病気を発症する確率などを予測することも可能です。
介護ロボットの活用
介護分野での人材不足も深刻であり、ヘルステックでは介護ロボットの活用が進められています。
移動や入浴などの介護業務をサポートする介護ロボットが実用化することで、人手不足による介護の負担軽減が可能です。
介護ロボットには介護支援型や自立支援型、コミュニケーション型・セキュリティ型があります。
介護支援型は移乗や入浴、排泄など、介護者の身体に負担のかかる業務を支援するロボットです。
自立支援型は歩行や食事など日常生活における動作をサポートするロボットで、介護される人が自立した生活を送れるように支援します。
コミュニケーション型・セキュリティ型は人とコミュニケーションがとれる機能を搭載していたり、センサーを活用して見守りをしたりするロボットです。
地域の医療連携
ヘルステックは、地域の医療連携にも役立ちます。
医療機関同士で自院の医療情報などを共有し、役割分担により地域の患者が継続的に医療を受けられるようにする取り組みです。
医療機関は、クラウド型の共通プラットフォームに保管されているデータをクラウドで共有します。
情報を連携することで、医師は共有された情報をもとに適切な治療や健康増進のアドバイスができ、スムーズな診療を実現します。
IoMT
IoMTとは「Internet of Medical Things」の略です。
モノとインターネットをつなぐIoTに分類されるシステムで、医療機器とヘルスケアのITシステムをオンラインでつなぐ仕組みです。
一般的なIoTと同じく自動化技術やセンサーなどを活用し、日常的な医療処置や監視業務を支援します。
IoMTを導入すると、医師や医療従事者が患者の医療情報に広くアクセスできるようになり、不要な通院を減らすなど、患者と医療機関双方の負担やコスト軽減を期待できるでしょう。
たとえば、IoMTのひとつであるウェアラブルデバイス(手首や腕、頭などに装着するコンピューターデバイス)から日常の健康状態のデータを保存し、医療情報を患者本人や医療従事者が共有できるようになります。
また、IoMTをすべての医療デバイスにつなぐことでビックデータを収集し、新しい治療方法を獲得することも可能です。
集められたデータは、病気予防や健康維持、介護などにも役立てられるでしょう。
ヘルステックの代表的な上場企業
ヘルステックの分野で活躍する企業は数多くあります。
ここでは、最先端技術でヘルステック事業を推進している上場企業3社紹介します。
株式会社JMDC(ジャムダック)
株式会社JMDC(ジャムダック)は、医療統計データサービスを中心に事業活動をする会社です。
医療分野で社会課題となっている医療費の増大や医療の地域格差、生活習慣病の増大、人材不足といった問題に取り組んでいます。
主な事業として、保険者支援サービスやヘルスデータプラットフォームの運営、医療ビッグデータの構築があげられます。
保険者支援サービスは、主に健康保険組合に対して紙・画像レセプトを含めたレセプトデータや健診データ、台帳データ等をデータベース化し、保健事業におけるデータ活用を支援するサービスです。
また、保険者支援サービスを利用している健康保険組合が利用できる、個人向け健康ポータルサイトを開発・運営しています。
健康情報プラットフォーム「Pep Up(ペップアップ)」です。
Pep Upの発行ID数は500万を超えており、さまざまな健康増進サービスを提供しています。
さらに同社では、健康保険組合より二次利用許諾を得て受領した、レセプトデータ・健診データの匿名加工データから1,000万人を超える医療ビッグデータを構築しており、製薬企業や研究機関等に提供しています。
エムスリー株式会社
エムスリー株式会社は、医療従事者を対象とした医療ポータルサイト「m3.com」のサービスを提供する会社です。
2000年以降に創業した企業のうち、唯一日経225銘柄に選ばれており、日本だけでなく海外でも高い評価を受けているヘルステック企業です。
「m3.com」は2003年に医療従事者に情報を提供するサイトとしてスタートしました。
国内32万人以上、世界650万人以上の医師が利用する、世界最大規模の医療従事者向けプラットフォームとして運営されています。
最新医療情報の提供や医師限定交流サービス、キャリア形成支援など、充実したコンテンツが特徴です。
サイトの運営を通して医療業界の改善につながる価値あるサービスを創出し、人々の健康増進や医療コストの削減に貢献しています。
株式会社メドレー
株式会社メドレーは、医療ヘルスケア関連のインターネットサービスを提供する会社です。
医療介護分野における情報の提供や、人手不足の解決に向けたサービスの提供を行っています。
主な事業活動は、人材プラットフォーム事業や医療プラットフォーム事業、新規開発サービスの3つです。
人材プラットフォーム事業では医療ヘルスケア分野における人材採用システム「ジョブメドレー」を運営し、人材不足の解消に貢献しています。
医療プラットフォーム事業はオンライン診療システム「CLINICS オンライン診療」 をメインに、患者と医療機関双方がテクノロジーの恩恵を受けられるプラットフォームづくりに注力しています。
患者向けのサービスも展開しており、医療の適切な情報提供を行う医療情報サービス「MEDLEY」もそのひとつです。
新規開発サービスでは、介護領域のIT活用や周辺領域のIT活用を推進し、継続的に事業開発を行っています。
ヘルステックの代表的なベンチャー企業
ヘルステックの分野で活躍するベンチャー企業も少なくありません。
テクノロジーと医療を融合し、新たなサービスを創造しています。
ここでは、とくに成長を見せている4社を紹介します。
Ubie(ユビー)株式会社
Ubie(ユビー)株式会社は、テクノロジーで世界の医療に貢献するベンチャー企業です。
「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに掲げ、医師とエンジニアが2017年に創業しました。
AIをコア技術とする症状検索エンジン「ユビー」や医療機関向けパッケージ「ユビーメディカルナビ」、製薬企業向け「製薬ソリューション」を提供しています。
症状検索エンジン「ユビー」は気になる症状について医師監修の質問に答えるシステムで、関連する病気や対処法、近くの医療機関を無料で検索できます。
医療機関向けパッケージ「ユビーメディカルナビ」は、ユビーAI問診など複数のソリューションからなり、診察や受付業務の効率化などを支援するサービスです。
製薬ソリューションは同社が保有する医療プラットフォームを通じ、製薬企業と生活者・医療機関をつなぐサービスです。
ファストドクター株式会社
ファストドクター株式会社は、「生活者の不安と、医療者の負担をなくす」を経営理念に、2016年に設立されたベンチャー企業です。
医療プラットフォーム「ファストドクター」の運営や救急往診・オンライン診療、医療機関支援を主な事業としています。
時間外救急の総合窓口(プラットフォーム)である「ファストドクター」は、症状に応じて救急病院案内や夜間休日往診、オンライン診療などの医療を選択できるサービスです。
首都圏内の医療機関と連携しており、総勢3,500名の医師(常勤医・非常勤医)が24時間365日体制で活動しています。
また、在宅医療を担う医療機関の24時間体制を支援するため、夜間・休日など負担の大きい時間帯を対象に救急往診などを代行する 「ファストドクターfor Medical」も運営しています。
診療情報は独自システム「クリニックポータル」で主治医と共有し、申し送りから診療報告までオンライン上でワンストップで行えるサービスです。
株式会社iCARE(アイケア)
株式会社iCARE(アイケア)は、企業向け健康管理ソリューションサービスを提供するベンチャー企業です。
現役の産業医が代表を務め、「働くひとの健康を世界中に創る」というパーパスを実現するため「予防医療」に注目し、法人に向けて健康管理クラウドシステムと専門家による人的サービスを提供しています。
人事の負担となる複雑な健康管理を、テクノロジーにより効率化できる健康管理システム「Carely」を提供しています。
企業の健康情報はすべて「Carely」に格納し、健康管理に要する作業時間を削減できるシステムです。
人事労務が抱える健康診断やストレスチェック、過重労働対策などの業務の効率化が可能です。
また、ツールによる効率化支援だけでなく、課題抽出や分析や施策立案・運用について、専門家とテクノロジーの力でサポートしています。
さらに、産業医や産業保健師の求人サービスも手がけ、登録と企業への紹介・活動をサポートする事業も行っています。
株式会社MICIN(マイシン)
株式会社MICIN(マイシン)は、「すべての人が、納得して生きて、最期を迎えられる世界を。」をビジョンに掲げるベンチャー企業です。
主な事業として、オンライン医療事業、臨床開発デジタルソリューション事業、デジタルセラピューティクス事業を展開しています。
オンライン医療事業では、オンラインで予約・診察・決済などができる診療サービス「curon(クロン)」を提供しており、スマートフォンやパソコン、タブレットで利用可能です。
また、電話・ビデオ通話で在宅患者への服薬指導ができる薬局向けサービス「curonお薬サポート」の開発・提供も行っています。
臨床開発デジタルソリューション事業では、オンライン診療機能と臨床試験データ管理機能を搭載したDCTプラットフォーム「MiROHA(ミロハ)」シリーズを開発しています。
ヘルステックの市場は今後さらに拡大が予想される
ヘルステックは医療に関わるさまざまな社会的課題を解決するシステムです。
最先端技術を活用し、医療費の増加や人材不足、地域の医療格差などの問題を解消します。
ヘルステックの領域は幅広く、AIによる画像診断やIoMTなど、さまざまなシーンで活躍しています。
ヘルステックは今後、市場規模の拡大が予想されており、転職を検討している方もいるでしょう。
「成長の早いヘルステックのベンチャー企業への転職にチャレンジしたい」と考えている方には、転職サービスのフォルトナベンチャーズがおすすめです。
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