「ユニコーン企業」という言葉を聞く機会は、ニュースや雑誌などを中心に増えてきました。
しかし、ユニコーン企業を「なんとなく」のイメージでとらえ、正しく説明できる方は少ないかもしれません。
また海外に多く、国内には少ないように感じられますが、これにも原因があります。
この記事では、ユニコーン企業の定義や似た用語との違い、海外に多く国内に少ない理由やこれから就職・転職する場合のメリットなどについて解説します。
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ユニコーン企業とは?
ユニコーン企業(Unicorn company)という言葉は、主にベンチャー企業への投資を手がける、投資会社の創業者アイリーン・リー氏によって提唱された概念をもとにしています。
ユニコーン企業の定義は次のとおりです。
- 10億ドル以上の企業評価額
- 設立から10年以内である
- 非上場企業である
- テクノロジー関連企業
国によって環境が違うとはいえ、企業にとっては生き残ることだけでも難しい状況です。
そのなかで上記のような条件を満たす企業は、存在自体が非常に稀です。
そのため、見つけるのが困難といわれる伝説の一角獣「ユニコーン」という呼び名は、その貴重さからしてぴったりといえるでしょう。
ユニコーン企業は「ベンチャー企業」と混同されがちですが、ユニコーン企業には明確な定義がある一方で、ベンチャー企業にはありません。
ベンチャー企業は一般に「革新的な技術やアイデアなどをもとに事業を営む、比較的若い企業」とされています。
そう考えれば、ユニコーン企業はベンチャー企業に含まれるカテゴリーの1つです。
GoogleやMeta(旧Facebook)、メルカリといった大企業も、もとはユニコーン企業でした。
ユニコーン企業は大きな成長が見込めるため、常に多くの投資家が注目しています。
就職・転職を考える方にとって、ユニコーン企業は収入や待遇に加えて将来性が高く、自身のスキルアップや将来のための貴重な経験を得られる可能性が高い職場といえるでしょう。
ユニコーン企業とデカコーン企業の違い
「デカコーン企業」や「ヘクトコーン企業」も、ユニコーン企業に含まれます。
違いは企業評価額の大きさです。
ユニコーンの「ユニ」はラテン語の数詞「unis」が語源で、「一角獣」からもわかるとおり数字の「1」を表しています。
ユニコーン企業の10倍、100億ドル以上の企業評価額の企業がデカコーン企業、100倍の1,000億ドル以上の企業がヘクトコーン企業です。
ここでは「デカ」が10倍を、「ヘクト」が100倍を表しています。
企業評価額に加えてその他の定義、「設立から10年以内」「非上場企業」「テクノロジー関連企業」を満たすのはさらに困難です。
そのため2023年12月時点で、ユニコーン企業は1,214社ですが、デカコーン企業は52社、ヘクトコーン企業は3社しかありません。
この差だけでも、どれほど稀な存在なのかがよくわかります。
ユニコーン企業とゼブラ企業の違い
ゼブラ企業という言葉は、ユニコーン企業と一緒であれば把握しやすいでしょう。
ゼブラとは「シマウマ」のことです。
全身が真っ白なユニコーンとは対象的で、それを企業の目的の違いにたとえています。
ユニコーン企業 | ゼブラ企業 | |
企業の目的 | 市場シェアの拡大 | 事業の発展 |
自社の利益の状況 | 独占 | 急速に拡大 |
社会貢献のあり方 | 他社との共存 | 持続的な繁栄 |
ユニコーン企業と同じように利益追求を目的の1つとしながらも、ゼブラ企業は社会貢献を目的にしていることから、白と黒の縞模様のある「シマウマ」にたとえてゼブラ企業と呼ばれるようになりました。
ゼブラ企業の社会貢献を重視する考え方は、自社の利益を最優先するユニコーン企業の姿勢に対するアンチテーゼともいえます。
日本は協調性を重んじる傾向が強いため、ユニコーン企業よりもゼブラ企業のほうが成長しやすいといわれています。
海外でユニコーン企業が増えている理由
2022年10月時点の国ごとのユニコーン企業数は、トップがアメリカ、2位が中国とされ、この二国だけで全体の7割を占めています。
たとえばアメリカは、ユニコーン企業という言葉が生まれた2013年には39社しかなかったことを考えれば「急増」といってよいでしょう。
このように、海外でユニコーン企業が急増していることには、取り巻く環境の変化が関係しています。
ここではユニコーン企業が増えている海外の状況を詳しく解説します。
資金を調達しやすくなってきたため
ユニコーン企業は、アメリカや中国、ヨーロッパに多く存在しています。
これに共通するのが「多くのベンチャーキャピタル(VC)がある」ことです。
ベンチャーキャピタルは、上場していない企業へ将来の成長を見込んで出資します。
とくに「上場していない」条件を満たさなければならないユニコーン企業にとってベンチャーキャピタルは、資金調達に必須の存在です。
ベンチャーキャピタルが多いほど出資を受けられる可能性は上がるため、ユニコーン企業が生まれやすくなります。
日本にもベンチャーキャピタルは存在しており、投資金額も増加傾向にはありますが、アメリカの投資金額規模は日本の70倍から100倍と段違いに巨額です。
海外は日本よりも資金を調達しやすいことで、アイデアを実現しやすい環境にあるといえるでしょう。
起業・事業立ち上げに関する初期投資が減少したため
とくに「テクノロジー関連企業」と定義づけされるユニコーン企業には、サーバーなどのIT機器が必須です。
以前はサーバーを自社で管理したり、業務システムを独自に開発したりと、起業や事業の立ち上げにはまとまった初期投資が必要でした。
しかし近年、IT技術の進化やクラウドの普及によって、初期投資額は全体的に減少傾向にあります。
資金の調達しやすさに加え、調達すべき初期投資額が減少すれば、より幅広いアイデアの実現も可能です。
海外ではとくに資金面で、ユニコーン企業が生まれやすい環境にあるといえます。
日本にユニコーン企業が少ない理由
海外ではユニコーン企業が多く生まれているのに対して、日本にはわずか数社しかありません。
この背景には先に挙げた要因のほかにも、ビジネスを支えるための社会全体の制度などの現状があります。
ここでは日本にユニコーン企業が少ない理由を考えてみましょう。
起業する人が少ないため
まず挙げられるのは、日本の「起業する人が少ない」現状です。
経済産業省がみずほリサーチ&テクノロジーズに委託した「起業家精神に関する調査報告書」では、「事業機会認識指数」を国別に示しています。
事業機会認識指数とは「今後6か月以内に、自分が住む地域に起業に有利なチャンスが訪れると思いますか」という設問に「訪れる」と回答した成人人口の割合です。
2021年の結果では、アメリカの63.2に対して日本は11.7となっており、今の日本人の「起業」に対する期待感の低さが現れています。
フランスやイギリス、ドイツといった国々の指数はおおむね上昇傾向にありますが、日本だけはほぼ横ばいです。
2002年の5.3に比べれば上がってはいますが、他国には遠く及びません。
また、優秀な人材が大企業に集まりやすく、ほかの先進国に比べて起業家の社会的評価が低いことも理由の1つといえます。
参考:経済産業省委託調査「起業家精神に関する調査 令和4年3月」P25
ベンチャー・スタートアップへの投資金額が少ないため
日本では世界に比べてベンチャー企業やスタートアップへ投資する金額が少ないことも、ユニコーン企業が少ない要因の1つでしょう。
一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会の資料によると、2021年のアメリカでのスタートアップ投資額は約36兆円ですが、日本はわずか0.8兆円とされています。
同資料では国内におけるスタートアップへの投資額は増加していますが、この約45倍にものぼる差がユニコーン企業の数にも影響しているでしょう。
アメリカの約45倍までではなくても、投資金額では中国やインドにも大きく差をつけられています。
その結果、日本ではスタートアップがグローバルな事業で成功したり、企業評価額を急激に高めたりしにくくなっている状況です。
未上場株式に対する制限が厳しいため
日本では未上場株式の取引市場がほとんどなく、投資情報が流通せず非常に投資が難しいことも、ユニコーン企業が少ない原因の1つです。
これは一方で、上場しやすいことも影響しています。
ベンチャー企業が企業価値を十分に高める前に上場する事例も増えており、「上場していない」条件が必須のユニコーン企業には該当しなくなるためです。
また、アメリカや中国では、未上場株式について複数のオンライン取引市場があり、売買できる環境が整っています。
とくに、アメリカでは上場・未上場の両方に投資するクロスオーバーファンドも多く、ベンチャー企業への資金供給のしやすさから成長しやすい環境です。
ただ日本でも、株式投資型クラウドファンディングで非上場株式へ投資できるようになってきました。
今後も新しい投資手法の登場や規模の拡大が期待されています。
ユニコーン企業に就職・転職するメリット
ユニコーン企業の高い業績や将来への期待から、就職したい・転職したいと考えている方も多いでしょう。
ただ、就職や転職は人生のなかでも大きな転換点です。
ぼんやりとしたイメージだけでなく、実際にどのようなメリットがあるかはできるだけ客観的に把握しておく必要があります。
ここではユニコーン企業に就職または転職すると得られるメリットを解説します。
経営者との距離が近く自己成長につながる
経営者との距離が比較的近く、接する機会が多いことがユニコーン企業の特徴です。
創業の経験談や経営のコツといった貴重な学びを得られる機会も多く、自己成長につながりやすいのはメリットといえるでしょう。
ユニコーン企業の成長スピードは速く、業績に直接大きな影響を与える部署の従業員だけでなく、すべての従業員にも常に成長が求められます。
そのため、従業員は業務を一人ひとりに懇切丁寧に教えてもらえる環境ではないのが通常です。
OJTですぐに現場に立ち、経験しながら仕事を覚えなくてはならないこともあります。
ただ、そのような環境だけに、従業員を成長させるためなら直属の上司をはじめ、実績のある優秀な社員や経営者から教えてもらうようなケースも少なくありません。
経営者が創業者の場合、難しい立ち上げなどの経験から得られた教訓や具体的なノウハウなど、ほかではなかなか教わらないことを学べるチャンスがあります。
企業の将来性が高く給料が上がりやすい
ユニコーン企業を目指す企業はテクノロジー関連のなかでも「先端テクノロジー」の分野に多く、従業員のスキルや経験も高いレベルが求められます。
そのため、求人募集の内容はほかより厚遇であることが多いようです。
企業としても将来は段違いの成長を見込めるため、働きによってはより高い給料も期待できます。
一方で、ユニコーン企業は一般に少数精鋭のため、与えられる仕事は多く難易度も高いものが少なくありません。
なかには「こんなことまで?」と思えるような畑違いの仕事にも結果が求められる場合もあるようです。
仕事にあたっては、状況に即して臨機応変に対応できる柔軟性も必要でしょう。
裁量権が大きく出世につなげやすい
ユニコーン企業の少数精鋭の体制は、従業員の裁量権の大きさにも影響を与えます。
大きな仕事を任され、それに伴う幅広い裁量権を与えられることも多いでしょう。
完遂して成果を上げられれば社内でも認められ、その後の昇進や昇給などいわゆる出世にもつなげやすい環境といえます。
とくに若い頃は、一般的な企業で重要な裁量権を与えられるケースはごく少ないでしょう。
貴重な経験を得るという意味で、ユニコーン企業は貪欲に成長を求める方に適した職場といえます。
ストックオプションで利益を得られる可能性がある
ユニコーン企業はベンチャー企業の1つであり、ベンチャー企業の多くは経営資源を業績の拡大や成長に優先して費やすため、業績が好調でも従業員へ直接還元することはあまりありません。
その代わり、従業員にはストックオプションという自社株の購入権利を与えられることがあります。
ストックオプションを行使すれば、成長著しいユニコーン企業である自社の株を購入でき、将来価値が上がったときに売却することで大きな利益を得られる可能性があります。
ストックオプションは直接の利益ではなく、あくまで利益を得られる可能性のある権利です。
株式の価値が上がれば保有している資産としての価値を得ます。
給料や賞与といった現金で得られる利益とは異なることには注意しましょう。
海外のユニコーン企業の例
ユニコーン企業についての概要や特性がわかっただけではイメージしにくいという方もいるでしょう。
それは、ユニコーン企業が海外に多く日本に少ないことからなじみが薄く、あまり身近に感じられないためかもしれません。
ユニコーン企業とはどのような企業かは、具体例をみると理解しやすくなります。
ここではまず、海外のユニコーン企業の例を解説します。
Space Exploration Technologies(SpaceX)
Space Exploration Technologies(スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ、通称:SpaceX)は、電気自動車メーカーのテスラなどの革新的な企業を経営する、イーロン・マスク氏がCEOを務める、ロケットの開発・製造・販売・再利用を手がける企業です。
ほかにもロケットを使った宇宙輸送サービスや、「Starlink」に代表される衛星インターネット事業も展開しています。
SpaceXの登場によって、ロケット打ち上げにかかるコストは従来の3分の1に抑えられたといわれ、宇宙での事業展開を強力にサポートする存在となりました。
SHEIN(シーイン)
SHEIN(シーイン)は、ファッションや雑貨などの製品を自社工場で製造し発送しているため、さまざまなアイテムを安く買えることで有名な中国のユニコーン企業です。
日本でも10代から20代の女性の間でとくに勢いのあるECサイトであり、多くのファッション雑誌モデルがSNSで利用していることを発信しているため、今後も安定した業績が期待されています。
Airbnb(エアビーアンドビー)
Airbnb(エアビーアンドビー)は、空室の部屋や使用していない家を貸し出して、収入を得たいという「ホスト」と、民泊を利用したい「ゲスト」のニーズをマッチングさせるサービスを提供しているニコーン企業です。
インターネット上でユーザー登録すれば誰でも簡単に利用できるため、これからも少しでも宿泊費を抑えたいゲストや、ホテルが少ない地域のホストの利用が見込まれます。
日本のユニコーン企業の例
海外に比べれば日本のユニコーン企業はまだまだ少ないのが現状です。
とはいえユニコーン企業の定義にある企業価値を満たしているだけあって、社会に大きな影響を与えています。
いずれもほかの企業にはないサービスを提供しており、今後も安定した業績や拡大が期待できる企業です。
ここでは、日本にある代表的なユニコーン企業3社を紹介します。
1.株式会社Preferred Networks(プリファードネットワークス)
株式会社Preferred Networks(プリファードネットワークス)は、「現実世界を計算可能にする」という経営理念の下、ディープラーニングなどの最先端技術を実用化して、社会のさまざまな課題の解決に貢献しているユニコーン企業です。
個人を対象とする事業ではないためあまり広く知られていませんが、事業内容は交通システムや製造業、バイオヘルスケアなどに応用されています。
2.GVE株式会社(ジーブイイー)
GVE株式会社は、法定通貨のデジタル化プラットフォームを開発・運営しているユニコーン企業です。
中央銀行が発行するデジタル通貨の基盤となる安全なシステムを開発しており、ワクチンパスポートや電子カルテなどの開発も行っています。
金融システムとデジタルヘルスの変革を目指し、個人情報保護の新たな基準を設定することで世界の人々に安全で効率的なサービス提供を目指しています。
3.スマートニュース株式会社
スマートニュース株式会社は「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」をミッションに、無料のニュースアプリ「SmartNews」を通じて、とくに社会人から高い支持を得ているユニコーン企業です。
提供しているアプリでは、3,000ものメディアの膨大な情報のなかから気になるニュースや天気、災害情報などをチェックできます。
さらにお得に利用できるクーポンも同時に提供しているため、「お得」を目的に利用しているユーザーも多いでしょう。
ユニコーン企業の日本での成長性は随一
ユニコーン企業は企業評価額10億ドル以上で、起業から10年以内の上場していないテクノロジー関連企業のことをいいます。
アメリカや中国を中心に海外に多く、日本にはわずか数社しかありません。
これは、主に未上場企業の資金調達の難しさや社会全体の「起業する人が生まれにくい現状」が影響しています。
日本に少ないとはいえ、ユニコーン企業が存在している現実は、日本でもこれから新たなユニコーン企業を立ち上げ、成長させられる余地があることを示しています。
これからバリバリ仕事をこなして高い収入を得たい、高いビジネスキャリアを目指すといった方には、チャレンジする意義のある職場といえるでしょう。
希望の企業に転職するには、自身のスキルや経験だけでなく転職市場の動向の把握、効果的な対策も必要でしょう。ユニコーン企業のようなハイクラス人材を求める企業への転職ならなおさらです。
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