コラム

フィジカルインターネットとは?物流の新たなシステムについて解説

フィジカルインターネットとは、物流の効率化を目指す新しい仕組みです。インターネットの考え方を応用している点に特徴があります。

本記事ではフィジカルインターネットとは何か詳しく説明し、注目されている背景や国内外の事例についても紹介します。

フィジカルインターネットとは?

フィジカルインターネットとは、物流の効率化を目指す新たな仕組みのことです。貨物輸送およびロジスティクスサービスの完全な相互接続性(情報・物理・財務のフロー)を実現することを目的としています。

フィジカルインターネットに関する研究を進めるヤマトグループ総合研究所は、フィジカルインターネットを次のように定義しています。

トラックなどの輸送手段が持つ物理的な輸送スペースと、倉庫が持つ同じく物理的な保管スペースに関する情報を物流会社同士でシェアし、お互いに利用し合う革新的な物流システムです。輸送・保管スペースの稼働率を高めると同時に、トラック等の燃料消費量を抑制し環境への負荷を減らすことで、持続可能な社会を実現します。

(出典:ヤマトグループ総合研究所と野村総合研究所が連携し、「第8回国際フィジカルインターネット会議」で日本でのフィジカルインターネットに関する取り組みを発信

ネット通販の普及などで物流の需要が急増するなか、深刻なドライバー不足や環境問題などを解決するものとして注目を集めている概念と言えます。

ここでは、フィジカルインターネットの内容について紹介します。

インターネットの考え方を物流に適用

現在のインターネットはパケットと呼ばれる小分けしたデータを送信する方式で、効率よくデータを送ることができます。

フィジカルインターネットはこのシステムを応用し、トラックなどの輸送手段と倉庫をシェアすることにより、稼働率をあげて燃料消費を抑えるというシステムです。

現在のインターネットはパケットと呼ばれる小分けしたデータを送信する方式で、効率よくデータを送ることができます。フィジカルインターネットはこのシステムを応用し、トラックなどの輸送手段と倉庫をシェアすることにより、稼働率をあげて燃料消費を抑えるというシステムです。

フィジカルインターネット実現会議の開催

フィジカルインターネットは政府も注目しており、2021年10月、11月に経済産業省と国土交通省によるフィジカルインターネット実現会議が開催されています。

そこでは2040年を目標に物流のあるべき姿を目指し、フィジカルインターネットの実現に向けたロードマップ策定のための話し合いが行われました。

会議の目的は、ネット通販の増加や労働力不足により物流機能の維持が困難となる事態を回避し、物流を産業競争力の源泉としていくことです。

長期的・計画的な視点で、物流の効率化を徹底することを目指しています。

フィジカルインターネットが登場した3つの背景

フィジカルインターネットの仕組みが登場した背景には、物流業界が抱える深刻な課題があります。ネット通販の普及により宅配便の利用が急増しているにもかかわらず、労働人口の減少でドライバーの数が不足しているという問題です。

また、排気量削減という、環境への配慮の観点も注目されている理由となっています。ここでは、フィジカルインターネットが登場した背景について3つ紹介しましょう。

1.宅配便利用の急増

フィジカルインターネットが注目される背景にあるのは、宅配便利用の急増です。インターネットの普及によりネット通販を利用する人が増え、近年はコロナ禍も影響して大幅に増加しています。

取り扱い荷量はそれほど変わらないものの、一般家庭の利用による小口の荷物が大幅に増えているのが特徴です。ドライバーが配達先へ向かう回数や荷物の上げ下ろし頻度が増えるなど、負担が重くなっている状況といえるでしょう。

2.労働人口の減少

取り扱う荷物は急増している一方、労働人口の減少でドライバーの数は不足しています。1990年代、物流業界は経済の活性化のために規制緩和の政策を行い、競争が激化した影響でドライバーの労働環境が悪化しました。

そのため、ドライバーの数が減少しているという実情があります。さらに、少子高齢化の影響により、今後さらにドライバー不足が加速することが予想されるでしょう。

3.環境への配慮

地球温暖化の原因とされるCO2の排出削減の観点からも、フィジカルインターネットが注目されています。地球温暖化への対策としてCO2の排出削減は運輸業界の課題ですが、宅配便の急増により大型トラックの走行が増え、目標達成が後ろ倒しになっています。

また、フィジカルインターネットで物流を効率化し、環境への負荷を減らすことも大きな目的のひとつです。

フィジカルインターネット実現に必要なこと

フィジカルインターネットの実現のために必要なことは、以下の3つです。

  • 輸送手段や倉庫などの物流資産をシェアする
  • 荷物サイズを標準化して積み荷の効率を高める
  • 情報システムを効率化してスピーディーな対応を図る

物流資産のシェアリングや荷物サイズの標準化により、物流の効率化が図れます。詳しい内容を見ていきましょう。

物流資産をシェアする

フィジカルインターネットでは、トラックなどの輸送手段や倉庫といった物流資産をシェアリングすることで、物流の効率化を図ります。シェアにより自社にとって最短のルートにある物流資産を確保でき、効率的な輸送の実現が可能です。
近年は複数の企業が協力して共同輸送を行う事例も増えており、フィジカルインターネットの先駆けといえるでしょう。

荷物サイズを標準化する

商品に合わせて荷物の大きさを標準化することも、フィジカルインターネットでは重要です。さまざまな形状の荷物はトラックの積載率を下げ、配送効率が悪くなります。標準サイズにすることで荷台を最大限に利用でき、積み荷の手間も軽減されるのがメリットです。

フィジカルインターネットが主流となった物流を利用するためには、荷物サイズの標準化に向けた荷主側の協力も必要になります。メーカー側も、標準化されたサイズに収まる製品開発などが求められるでしょう。

情報システムを整備する

物流資産のシェアリングには、配送ルートや倉庫の空き状況などの情報がリアルタイムで確認できる情報システムの整備が必要です。配送に最適なルートもドライバーが判断するのではなく、荷物ごとの最適なルートを判断するシステムが用意されなければなりません。

先端のIT技術に基づいた、誰もが共通して利用できる緻密な情報システムが必要とされるでしょう。

フィジカルインターネットの事例【海外】

フィジカルインターネットは欧州を中心に広がり、各国で研究が行われている状況です。毎年、国際フィジカルインターネット会議が開催され、研究の成果や自国の状況を発表しています。

欧米では実際にフィジカルインターネットを実現している事例もあり、自社の配送網を他社とシェアする米国Amazonの取り組みが代表的です。

海外における海外の事例を見ていきましょう。

米Amazonの取り組み

米国Amazonは独自の配送網を持ち、他社にも解放して物流リソースを共有するなど、フィジカルインターネット実現に向けた動きを見せています。

また、航空物流の拠点となる空港施設をドイツの物流大手会社であるドイツポストDHLとシェアしているのも注目すべき点です。米国と欧州の時差により両社は稼働がピークとなる時間が異なり、空いたリソースを有効に活用して物流の効率化を図っています。

ALICEによるロードマップ策定

欧州では2013年に大手企業や研究機関、行政などが参加して欧州物流革新協力連盟(ALICE)を発足し、フィジカルインターネットを推進しています。荷主も含めた、物流関係の幅広い関係機関が集結しているのが特徴です。
ALICEは欧州連合(EU)が目標として定めた2050年までのゼロエミッション(世界のCO2排出実質ゼロにする構想)を視野に据え、2040年にフィジカルインターネットを実現するためのロードマップを策定しています。

フィジカルインターネットの事例【海外】

日本でも大手物流会社を中心に、フィジカルインターネットに注目が集まっています。2021年には「第8回国際フィジカルインターネット会議」にヤマトグループ総合研究所と野村総合研究所が参加し、日本国内におけるフィジカルインターネット関連の取り組みを公表しました。

ここでは、国内におけるフィジカルインターネットの事例について紹介します。

ヤマトホールディングスの取り組み

大手物流会社のヤマトホールディングスは、フィジカルインターネット実現のための研究をいち早く開始しています。ジョージア工科大学やパリ国立高等鉱業学校とフィジカルインターネットに関する情報交換を行い、相互協力する覚書を締結しました。

また、荷主や物流業など関連する機関で構成するフィジカルインターネット研究会を設立し、シンポジウムも開催するなど、フィジカルインターネットの認知度を高めるための活動を行っています。

コンビニ3社の共同配送

コンビニ大手3社であるファミリーマート、セブンイレブン・ジャパン、ローソンは2020年8月、経済産業省の支援を受け、店舗への商品配送を共同配送する実証実験を行っています。

東京都江東区に共同配送センターを設置し、都内湾岸エリアの近接した各社の店舗に向けて同じトラックで商品の納入を行い、共同配送による物流効率化の効果を検証しました。

実験の結果、チェーンごとに配送する場合と比べて配送距離が短縮され、CO2排出量の削減やトラック回転率の向上、積載率の改善などの改善効果も確認されています。

JR各社による貨客混載

JR各社もフィジカルインターネットの試みを行っています。JR九州、JR西日本は佐川急便と協業し、山陽・九州新幹線で貨客混載サービスを開始しました。車内販売準備室だった空きスペースを活用し、生鮮品や速達貨物を運ぶという取り組みです。

駅間の輸送はJR各社が請け負い、佐川急便は集荷先から駅、駅から配達先までの輸送を行っています。

フィジカルインターネットで物流が変わる

フィジカルインターネットは、宅配便の増加やドライバーの不足という、物流業界の抱える課題を解決する手法です。本格的な導入にはまだ時間がかかりますが、欧米では研究が進み、実現に向けた取り組みが加速しています。

日本でも大手物流会社を中心に取り組みが行われ、経済産業省が支援する実験でも成功を収めている状況です。物流業界は今後、大きく変革する可能性を秘めており、転職先の企業としても飛躍が期待できるでしょう。

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