ベンチャー企業は、イノベーティブな製品やサービスで将来を期待されています。
自分の力を試してみたい人なら、一度は求人への応募を考えたことがあるかもしれません。
ベンチャー企業で自分と差して変わらない年齢の人が成功している姿を見れば、憧れるのも当然でしょう。
ただ、これからの人生で大きな割合を占める「仕事」と考えると、給与水準や賞与が支給されるのかどうかは気になるところです。
この記事では、ベンチャー企業で仕事をしている人の、賞与を含めた収入の現状や、働くメリットなどについて解説します。
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ベンチャー企業の給与事情
ベンチャー企業に対し、多くの人が大手の上場企業に比べて「経営が安定していない」「給与が少ない」といったイメージを抱きがちです。
この見方はあくまで全体から見た印象であるため、各企業を詳しくみればあてはまらないケースもあります。
ここではベンチャー企業の給与事情を、少し詳しくみていきましょう。
給与の水準は会社によって大きく変わる
たとえ平均値ではあっても、「ベンチャー企業」という括りで給与の水準を論じるのは難しいかもしれません。
なぜなら、ベンチャー企業にはさまざまな業種や経営形態があり、規模の大きさも業績もまったく異なるためです。
2023年に発表された東京商工リサーチによる調査によると、2022年の上場企業3,235社の平均年間給与は620万4,000円となっています。
このうち最も高額なのは、M&A仲介を主な事業とするM&Aキャピタルパートナーズの3,161万3,000円であり、平均金額の5倍以上です。
ここからは上場企業でも、平均を大きく上回る企業がある一方で、平均に満たない企業も多い現状がみえてきます。
これはベンチャー企業も同じで給与の水準は会社ごとに大きく異なり、ベンチャー企業でも上場して初任給が大企業より高い会社もあれば、給与水準が中小企業より低いベンチャー企業もあるのが現実です。
賞与(ボーナス)はないことが多い
ベンチャー企業での現状は、一般的な意味での賞与(ボーナス)がない場合が多いです。
もともと賞与(ボーナス)とは、定期的に給与が支払われる労働者に対して、臨時に支給される報酬のことをいいます。
賞与の金額は会社の方針や業績によって変動するのが通常で、法律によって義務付けられてはいません。
よく求人広告に賞与は「◯か月分(〇〇年度実績)」とあるのは、過去に支給した事実を示しているだけです。
ベンチャー企業でも、方針や業績によって賞与が支給される可能性はあります。
しかし、ベンチャー企業の多くは十分な資金力がないため、従業員へ賞与が支給されることはあまりないのが現状です。
ベンチャー企業は賞与以外で還元することが多い
賞与の支給されるケースがあまりないベンチャー企業では、賞与以外のさまざまな形で従業員へ還元されることがあります。
「他の企業に勤める友人には夏・冬に賞与が出るのに、自分には何もない……」となると、人材のモチベーションが下がったり、他社へ転職したりといった大きな問題に発展しかねないためです。
還元する手段も企業によって異なりますが、ここでは代表的な3つについて解説します。
1.インセンティブ制度
インセンティブ制度とは、業績に貢献したり設定された目標を達成した際、従業員に対して給与以外の報酬を支給する制度です。
一般的に月ごとの成績によって定まるインセンティブを、企業が基本給にプラスする形で支給します。
歩合制や出来高制も、インセンティブ制度の一つといえるでしょう。
しかし、なかには基本給がかなり低めに設定されている場合もあり、成績がよくないと年収が著しく低くなることもあります。
インセンティブ制度の評価基準は、主に業績や目標達成です。
年齢・性別・経験・在職年数などは、関係ありません。
年齢が若くても能力があり、実績が認められれば高額な年収を得ることも可能です。
従業員にとっては頑張りが正当に評価され、企業にとっては成果の分だけ利益が上がる、互いにメリットのある制度といえます。
2.金銭以外の報酬
支給される報酬が、金銭以外のものという場合もあります。
賞与の時期になると「報酬旅行」が行われる制度も、その一つです。
報酬旅行の支給基準は企業ごとに異なり、全社員が参加できる場合もあれば、目標達成者のみ家族同伴で参加できる場合もあります。
ほか挙げられるのは、高級な飲食店での食事や商品(従業員自身が選んだもの)などです。
ただ、いずれも「金銭」ではないため、従業員自身が報酬として実感しにくく、比較的モチベーションを維持しにくい制度といえるでしょう。
3.ストックオプション
これから成長が見込まれるベンチャー企業では、報酬としてストックオプションが提供されることもあります。
ストックオプションとは、会社の株式を将来、決まった価格で購入できる権利のことです。
たとえば、株式を10万円で買う権利を得た場合、業績が上がって価格が30万円に値上がりしても10万円で購入できるため、その時点で20万円の利益を得られることになります。
ストックオプションを手に入れれば、従業員が仕事に励むことに対して「自分の評価を上げるため」に加えて、「ストックオプションでの利益を得るため」という2つの理由になります。
うまくいけば、二重の利益を得ることも可能です。
逆に価格が下がれば、ストックオプションの行使は不利に働きます。
また、ストックオプションには税務や契約条件について個別にルールがあり、しくみを正しく理解したうえで専門家からの助言も必要とする制度です。
利用には、細心の注意を払う必要があるでしょう。
ベンチャー企業で年収を上げる方法
ベンチャー企業に対して、「実力主義である」「頑張れば高収入が得られる」というイメージを持っている人がいるかもしれません。
たしかに頑張りがあまり高く評価されず、給与や賞与に反映されにくい古い体質の企業とは異なり、ベンチャー企業では短期間で年収を上げる方法があるようです。
ここでは、ベンチャー企業で年収を上げるために必要な行動や考え方について、考えてみましょう。
成果を上げて評価してもらう
ベンチャー企業で年収を上げる方法として有効なのは、成果を上げて評価を得ることでしょう。
ベンチャー企業で重視されるのは、主に「業績」です。
業績が上がれば従業員への還元もしやすくなり、さらに業績を上げることもできます。
優秀な人材を採用しやすくなるため、新たな事業展開への挑戦も可能です。
そのためには、与えられた仕事をこなし続けるだけでなく、「より効率化できるところがないか」「より高いパフォーマンスを得られないか」といったもう一段上の業績を目指そうとする姿勢が大切です。
また、可能な範囲内で自主的に業務を改善したり、新しい方法を試してみるという方法もあります。
ベンチャー企業は、「従業員が挑戦しやすい環境である」ことも少なくありません。
年収を上げるため、積極的に努力や勉強を惜しまない熱意が重要です。
資格の取得などでスキルを身に付ける
企業が「これから成長しよう」という段階にあるときは、従業員の持つ知識や経験、スキルが大いに役立ちます。
もし今、専門的な知識や経験がなかったとしても、これから勉強すれば役立つ資格を取得し、業務に活用することは可能です。
場合によっては勉強している間に得た知識が、すぐに現場で役立つこともあるでしょう。
ただ、ベンチャー企業での仕事はやらなくてはならない作業も多く、勉強する時間を捻出するのは難しいかもしれません。
だからこそ、根気よく勉強する姿勢は会社から高い評価を受ける可能性があります。
ただし、どの資格を取得し、どのようなスキルを身に付けるかが重要です。
自分だけで決めるのではなく、上司や先輩に尋ねるなどして慎重に決める必要があります。
役職を上げる
実力主義や成果主義を重んじるベンチャー企業ほど、努力次第で役職を上げやすい環境だといえます。
そのためには、「毎月の目標をしっかり達成する」「達成するために顧客まわりや情報収集を怠らない」「知識やスキルの取得に努める」など、具体的な行動が必要です。
ただ、やみくもに「頑張る」だけでなく、「どこまでやればどれくらい年収が上がるか」をしっかり把握しておく必要もあります。
多くのベンチャー企業では、人事評価制度や給与制度が細かく定められていません。
経営陣と交渉する
企業に明確な人事評価制度や給与制度が定められていない場合は、こちらから「〇〇という目標を達成したら、年収を〇〇万円にして欲しい」などと経営陣に対して交渉するという方法もあります。
ベンチャー企業では、明確な評価制度が必要とわかっていながら、本業で忙しく着手できない状態にあることも少なくありません。
提案がそのまま評価制度の一部となり、それによって評価される可能性もあるでしょう。
また、業務のしくみの構築や効率化といった後方支援に向けるのも有効です。
合わせて業績目標も達成すれば、後方支援の効果と合わせて高く評価される可能性があります。
ベンチャー企業の特徴として、経営陣との距離が比較的近いです。
最低限の礼儀をわきまえる必要はありますが、大企業に比べると行動のハードルは低いといえるでしょう。
副業を行う
多くのベンチャー企業では、副業を推進しています。
副業では、本業とは別の学びを得られることが多いです。
テクノロジーの発達により、スマートフォン1台あればすぐにさまざまな仕事を始められるようになりました。
収入が安定しなかったり少なかったりするとき、副業をすれば収入を確保できます。
副業は、万が一企業の経営が傾いて転職せざるを得なくなった場合のリスクヘッジにも効果的です。
本業より副業の収入のほうが高くなれば、ベンチャーとして起業して成功できるかもしれません。
ベンチャー企業で働くメリット
ベンチャー企業で働くことには、賞与や年収とは違ったメリットともいえる魅力があります。
ただ、これは一般的な企業で働くこととの「違い」であり、人によって好みの分かれる要素ともいえるでしょう。
ここでは他ではなかなか得られない、ベンチャー企業で働くメリットを解説します。
大手と比べて意見が反映されやすい
ベンチャー企業は、大手に比べると従業員の意見が反映されやすい傾向があります。
これはベンチャー企業がより直接的に成果を追い求める組織であるためです。
優れたアイデアや意見を検討するときは、年齢や社歴、肩書などに拘らず検討され、たとえ社歴が短く若い従業員の意見であっても採用・不採用には関係ありません。
業態や組織が強固に定められていないベンチャー企業では、成果につながりやすいと判断されれば、柔軟にしかも素早く変化させることが可能です。
アイデアは上層部などに検討され、より優れたしくみとして実現する可能性があります。
自分で状況を分析しまとめた意見を伝えたり、意見が採用され形になったりする達成感は、若い従業員にとって大きな魅力といえるでしょう。
裁量権を持って仕事を行える機会が多い
ベンチャー企業では、従業員が発するアイデアや意見が採用され、そのままリーダーを任されることもあります。
若く社歴の短い従業員でも一定の裁量権が与えられるため、責任を持って仕事に向き合い、目指す成果や目標達成を実感する機会は、大手企業より多いといえるでしょう。
従業員が少ないベンチャー企業は、やらなくてはならない仕事は山積みといった状況も珍しくありません。
上司や先輩社員から信頼して仕事を任せてもらえるうえに、新しい仕事に挑戦できる環境が整っています。
「自分の努力で、収入・スキル・経験を手に入れたい」と考えるのであれば、ベンチャー企業がおすすめです。
20代からでも役職を狙える
ベンチャー企業であれば、20代であっても役職を狙えるチャンスが多いでしょう。
20代は体力があり、何事も吸収しやすい柔軟性のある世代です。
「バリバリ仕事をして、上を狙いたい」という人にとって、絶好の環境といえます。
ベンチャー企業では、実力があれば誰もが正当に評価されるのが通常です。
自分の得意分野を生かし、必要な知識・スキルを自分の時間を使って習得し実績を上げれば、先輩や今の上司より高いポジションにつくことも夢ではありません。
「特定の分野の仕事を突き詰めたい」「どんどん挑戦したい」といった意欲の旺盛な人には、ベンチャー企業の環境が適しているといえます。
企業のフェーズごとにさまざまな経験を積める
ベンチャー企業の中には、事業がスタートして間もなく、従業員もわずか数名といった企業もあります。
この段階で入社すると、企業が成長する過程のさまざまなフェーズで、多くの経験を積めるでしょう。
たとえば、数名から始まった従業員の数が、10名、20名、50名、100名…と増えるほど、組織としての課題が表面化します。
その都度、適切な対応・対処が必要です。
少人数の段階では社長への依存度の高さからの脱却が求められ、人数が増えれば人材を定着させるための取り組みが求められます。
どの段階での出来事も、そのときその場にいなければ経験できないことばかりです。
すでに大きく成長し、業績が安定している大手企業では、おそらく得られない経験でしょう。
組織運営に関する業務を経験した人材は、他のベンチャー企業や事業拡大・新規事業立ち上げに望む大手企業にとって貴重です。
強力な武器になる可能性は十分あります。
経営陣の知見や考え方を間近で見られる
従業員の数が少ないベンチャー企業では、経営陣メンバーと間近に接する機会が多いでしょう。
他ではあまり聞けないような知見や考え方に触れ、これからの仕事や生き方に大きな影響を受ける可能性があります。
起業家には、個性が際立ち魅力的な人物が多いです。
そのため、仕事や生き方について独特な考え方を持っていることも少なくありません。
たとえば、「成果が出せなければ倒産してしまう」という危機感や、ゼロから事業を起こす難しさや大変さは、経営しているからこそ実感できる知見です。
自分で事業を起こしたいと考えていれば、失敗談や反省論も貴重な情報です。
ベンチャー企業は、将来に役立つ貴重な体験がしやすい環境といえます。
ベンチャー企業で働く際の注意点
ベンチャー企業は、その多くが事業を開始して数年程度であり、比較的小規模の組織です。
業績を優先するあまり、社内の職場環境や安心して働けるためのルールなどが備わっていない場合もあります。
状況を知らずに転職してしまうと、後悔しかねません。
ここでは、ベンチャー企業で働く場合、わきまえておきたい注意点について解説します。
教育体制が整っていないことが多い
ベンチャー企業では、新人に対して十分な教育体制が整っていない場合が多いです。
そのため、入社後すぐに仕事を任され、わからないことを確認しながら次々と仕事をこなすことが求められます。
言い換えれば、「必要なことは、教えてもらわなければできない」という人にとって、ベンチャー企業は十分な教育環境が整っていないことが多いです。
逆に、業績アップに必要な教育部門や指導体制の立ち上げが求められるかもしれません。
少数精鋭のベンチャー企業では、一部メンバーの突出したスキルに依存していることもあります。
ベンチャー企業では、「学び取って自分のものにする」ほどの積極性や行動力が必要といえるでしょう。
仕事量が多くなりやすい
「他の企業ではなかなか得られない知識や経験が身につく」ことは、それだけの仕事量をこなすことを意味します。
従業員が少なく、1人でさまざまな業務をこなさなければならないことの多いベンチャー企業では、おのずと仕事量が多くなりやすいです。
担当者がいるにもかかわらず、「間に合わないから」と経験のない仕事を任されることもあるかもしれません。
このような出来事を「新しい知識や経験のために必要」と思える人でなければ、ベンチャーで続けていくことは難しいでしょう。
同時に、複数の業務進行を求められるため、その時々で的確に判断できる臨機応変さも必要です。
「毎日、毎週、毎月のやるべき仕事が決まっていて、予定通りにこなしていく仕事がしたい」という人にとって、ベンチャー企業はかなり厳しい環境といえます。
評価基準や給与テーブルがない場合がある
ベンチャー企業の多くはビジネスを軌道に乗せることを第一目標としているため、評価基準や評価ごとの給与テーブルがない場合も多くあります。
従業員が「上司が喜ぶ結果を出した」「大きな利益を上げた」と考え、昇進や昇給を期待しても、思うような評価や年収増が得られないかもしれません。
「年収〇〇万円を得るには〇〇を達成すればよい」といった具体的な目標が設定できないと、疲れ果ててしまいモチベーションを下げてしまう可能性もあります。
業務ごとに目標が設定される大手企業であれば、自己評価に上司の評価を加え、一定の基準に則って評価が定まり、収入に反映されるでしょう。
事業の業績が優先されるベンチャー企業では、評価制度の整備が進まないのが現状です。
ノルマ達成を求められる
ベンチャー企業が業績を優先させる傾向は、「ノルマ達成を求められる」ことにも現れています。
たとえば小売業であれば、個人ごとに目標売上金額が設定されます。
家族や親族、友人などに売ることを求められるのは、ノルマの典型といえるでしょう。
営業や販売スタッフであれば、ノルマも納得できるかもしれません。
なかには、総務や経理、人事といった販売とかけ離れた部署の従業員にまで、営業ほどの金額ではなくてもノルマを課せられる場合もあるようです。
「ノルマを目標として、やる気に火がつく」という人にとっては、ベンチャー企業は適しているといえます。
しかし、「プレッシャーをかけられたくない」「利益を追い求める仕事はしたくない」という人にとっては、適していない環境です。
残業や休日に関して曖昧な企業もある
ベンチャー企業が得意でないとされる「社内整備」には、仕事をするうえで欠かせない残業や休日についてのルールも含まれます。
「休日は月あたり◯日」「残業には時間あたり〇〇円の手当が支給される」といったルールが曖昧だったり、場合によっては実質的に機能していなかったりするベンチャー企業も少なくありません。
とくに、起業して間もないスタートアップ企業にこの傾向が強く、法令遵守されていない企業があるのも事実です。
ともすれば社員の生活や健康よりも利益が優先され、事業が軌道に乗るまでは休日出勤が当たり前のような時期もあるでしょう。
ベンチャー企業では、仕事もプライベートも充実したワークライフバランスを重視する人にはおすすめできません。
収入面以外も考慮してベンチャー企業を選ぼう
ベンチャー企業には「年収が少ない」「賞与がもらえない」といったイメージを持つ人が多いかもしれません。
しかし、実際の給与水準や賞与の有無は、企業ごとに事情は異なります。
賞与のない企業が多い一方で、インセンティブやストックオプションといった別の制度で従業員に還元している企業もあります。
ベンチャー企業は大手企業に比べて、年齢や肩書に関係なく意見しやすく、仕事次第で役職も目指しやすい環境です。
一方で、評価基準・給与テーブル・教育体制などが整備されていないことも多く、どこまで、どのように頑張れば収入が上げられるのかが曖昧である場合もあります。
高収入だけを目指してベンチャー企業に入社するのは、あまりおすすめできません。
ベンチャー企業には、他ではなかなか得られない知見やスキルを得やすい環境があります。
ベンチャー企業を選ぶときは、収入だけでなくその他のメリットやデメリットをしっかりと検討する必要があるでしょう。