投資ラウンド(資金調達ラウンド)とは、企業に投資をする段階を表す指標です。
ラウンドは会社の成長に合わせ、6つのステージに分けられています。
本記事ではラウンドごとの特徴を説明し、それぞれに適した資金調達方法を紹介しましょう。
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投資ラウンド(資金調達ラウンド)とは?
投資ラウンド(資金調達ラウンド)とは、投資家が投資する段階を企業の成長に合わせて分類したものです。
企業側から見れば、資金調達ラウンドということになります。
投資家にとって適切な投資を行う判断材料になり、投資を受ける企業側からはステージに適した資金調達方法を選ぶ指標になるものです。
ここでは、投資ラウンドの概要を見ていきましょう。
投資ラウンドは6つのフェーズに分けられる
投資ラウンドは6つのステージに分けており、段階ごとに企業の成長が把握できます。
起業前のシード期から経営が安定しつつあるシリーズCまで6つの段階に分けられ、投資家は企業の成長度合いを見ることで投資するかどうかの的確な判断が可能です。
企業にとっては、それぞれのラウンドで資金調達に成功することが次のステージへと成長するステップになるでしょう。
ラウンドごとに資金調達方法は異なる
会社経営では事業をスムーズに行うため、さまざまな場面で大きな資金になります。
「資金調達方法は資金を借り入れる」「資産を売却する」「投資家から投資を受ける」という3つの方法がありますが、企業はいつでも自由に方法を選べるわけではありません。
各ラウンドごとに選べる方法は異なり、アーリー期までの選択肢は少なめです。
6つの投資ラウンドの概要・特徴
投資ラウンドは、次の6つに分けられます。
- エンジェル(プレシード):チームづくりの段階
- シード:起業前の段階
- アーリー:起業し手間もない時期
- シリーズA:事業を開始した時期
- シリーズB:事業が軌道にのる時期
- シリーズC:収益がしてくる時期
シードで計画した事業をアーリーとして実行に移す段階は、まだ事業の実績がない時期です。
一方、事業を開始してある程度の収益を得られるようになるシリーズAからシリーズCまでは、投資方法や資金調達方法も変わってくるでしょう。
ここでは、それぞれの段階の特徴について紹介します。
1.エンジェル(プレシード)
投資ラウンドの最初の段階をエンジェル(プレシード)と呼びます。
創業前でチームづくりをしている段階です。
プロダクト・サービスがまだ形になっていない段階で、アイデアを出している状況です。
法人化する前であり、ビジネスとして始動していません。
まだ多くの資金を必要とせず、主にビジネスを動かす人材確保のために使われます。
2.シード
シードは会社設立前で、事業計画を策定している段階です。具体的な事業は開始していないため、まだ大きな資金は必要としていません。
設立費用や設備費などで資金が必要になる場合でも、資金調達を行うにはまだ難しい段階です。
事業の実態がないため、投資家は投資の判断に迷うところでしょう。
実績では判断ができず、起業家の人柄や経歴を見て投資するかどうかを決めることになります。
投資する場合でも、金額は少なめの傾向です。
3.アーリー
アーリーは、会社設立をして事業をスタートしたばかりの段階です。
計画段階のシードと異なり、事業は動き出しています。事業が軌道に乗るまでに、さまざまな費用が必要になります。
シードよりは事業内容が明らかではあるものの、実績がないことには変わりありません。
そのため、投資家は成長できる事業かを判断することになり、企業側も将来性などをアピールしていく必要があります。
4.シリーズA
シリーズAは、具体的な商品やサービスを市場に展開し始めた段階です。
事業の方向性が見え、投資家も判断しやすい時期になります。
この時期は事業を成長させるために多くの費用が必要になり、できるだけ多くの資金を集めなければなりません。
企業にとっては、良い投資先を見つけることが今後の成長できるかのカギになります。
5.シリーズB
商品やサービスが認知され、事業が軌道に乗り始めた時期です。
さらに成長するために事業の拡大や新規事業の立ち上げなどを検討し始めます。そのため、多くの資金を必要とするでしょう。
ある程度の実績を積んでいるため投資の判断がしやすく、資金調達方法も選択肢が増えてきます。
この段階で株式上場(IPO)を目指す会社もあるでしょう。
6.シリーズC
投資ラウンドの最終段階であるシリーズCは、十分な実績をあげている段階です。
より高いステージに上がるため、さらなる資金調達を行う時期でもあります。
このステージでは、株式上場している会社も少なくありません。
多くの投資家が投資を行い、資金調達も容易になるでしょう。
事業拡大のため、M&Aに乗り出す会社もあります。
エンジェル期の資金調達方法や金額
会社の具体的な資金調達方法は、投資ラウンドごとに異なります。
エンジェル期やシード期、アーリー期はまだ事業の実績がなく、投資家の判断が難しい時期です。
アイデアを出している段階で多くの資金を必要としないエンジェル期は、主にエンジェル投資家と呼ばれる個人の投資家やインキュベーター、クラウドファンディングで資金調達します。
ここでは、エンジェル期の資金調達方法と金額、資金調達にかかる期間をみていきましょう。
資金調達方法
エンジェル投資家
エンジェル投資家とは、主に創業まもない企業に対して資金を直接出資する個人投資家のことです。
起業を経験した人も多く、資金だけでなく経営のアドバイスや広い人脈を活かしたサポートなど、さまざまな援助を行います。
経営経験や人脈の少ないベンチャーにとって、幅広い支援をしてくれるエンジェル投資家は、まさに「天使」のような存在といえるでしょう。
近年では、エンジェル期のベンチャーとエンジェル投資家をつなぐマッチングビジネスも登場しています。
インキュベーター
インキュベーター(Incubator)とは、もともと「温度を一定に保つ機能を持つ装置・孵卵器」という意味があります。
創業まもないベンチャーに対し、資金や開発設備、人脈、経営に関する知識などを提供する団体・組織を指して使われることが一般的です。
主な担い手はベンチャーキャピタルや地方自治体などで、近年では東京大学や名古屋大学など、大学が組織内にインキュベーション施設を置いて支援を提供しているケースもあります。
クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、インターネットを通して事業への支援を呼びかけ、賛同した人から資金の提供を受ける方法です。
不特定多数の人から支援を受けるため、一人の出資は少額でもまとまった金額になりやすいでしょう。
投資と異なり、株式などの見返りを渡す必要もないことがメリットです。
ただし、共感を得られなければ資金を集めることはできません。
いかに事業の魅力を伝え、賛同を集められるかがポイントになります。
調達金額
エンジェル期はチームの結成前で商品・サービスも生み出しておらず、アイデアがあるだけという段階です。
ビジネスとして始動しておらず、まだそれほど多くの資金を必要としません。
資金調達額の目安は、100万円〜1,000万円程度です。
調達した資金の用途は、主に商品・サービスの開発など、事業を動かす上で必要になる人材の確保にあてられます。
資金調達にかかる期間
エンジェル期の資金調達は金額が少ないため、資金調達までに長い期間は必要としません。
1日〜1ヶ月程度と、比較的短い時間で調達が可能です。
この時期に注意したいのは、投資家に株式を渡し過ぎないことです。
会社の経営権は出資比率で決まるため、投資家の出資比率が多いと経営の決定権を失うリスクがあります。
リスクについては、あとの項目で詳しく紹介します。
シード期〜アーリー期の資金調達方法や金額
シード期やアーリー期でもエンジェル期と同じく「インキュベーター」や「クラウドファンディング」で資金調達ができます。
また、この時期には日本政策金融公庫が行う創業融資を受けることも可能です。
ただし、銀行の場合は実績を重視するため、この段階での融資は難しいでしょう。
シード期〜アーリー期の資金調達方法と金額、資金調達にかかる期間を紹介します。
資金調達方法
ベンチャーキャピタル
ベンチャーキャピタルとは、スタートアップなどこれから成長が期待される企業に対して出資を行う投資会社です。
まだ上場しない時期に投資を行い、上場したあとに株式を売却して投資した額と株式公開後の売却額との差益(キャピタルゲイン)を獲得することを目的としています。
目的の差益を得るためには企業に成長してもらわなければならず、そのための支援を行うのが特徴です。
支援方法はベンチャーキャピタルごとに異なり、自社の社員が投資先企業のメンバーとなる、外部コンサルティングを雇うといったサポートが行われます。
経営ノウハウを提供してもらうことで、事業の成長が加速するでしょう。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、国が100%出資している金融機関です。
個人事業主・フリーランスなどの小規模事業者や中小企業の支援を目的とし、使途や事業の状況に応じて資金を提供しています。
民間の金融機関よりも金利が低く、融資までの期間が短いなどいくつものメリットがあります。
日本政策金融公庫は創業融資も扱っており、シード期・アーリー期の企業も利用できる資金調達方法です。
クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、インターネットを通して事業への支援を呼びかけ、賛同した人から資金の提供を受ける方法です。
不特定多数の人から支援を受けるため、一人の出資は少額でもまとまった金額になりやすいでしょう。
投資と異なり、株式などの見返りを渡す必要もないことがメリットです。
ただし、共感を得られなければ資金を集めることはできません。
いかに事業の魅力を伝え、賛同を集められるかがポイントになります。
調達金額
シード期はビジネスの方針が決まり、商品・サービスの開発が開始された段階です。
リリースに向けた準備段階で、市場調査や研究開発の費用、会社設立費用、人件費などが必要になります。
その資金として、500万円〜5,000円程度を調達するケースが多いでしょう。
アーリー期は会社を設立して事業が開始し、プロダクトのリリースに向けて準備を進めている段階です。
試作品に対するユーザー・市場の反応を見て商品・サービスの改善を図り、事業を拡大させるための資金が必要です。
商品・サービスを開発する設備や研究開発費用、マーケティング費用などがかかります。
調達金額はおよそ5,000万〜1億円が相場です。
調達にかかる期間
調達金額が多くなるシード期・アーリー期は、調達までに数ヵ月が必要です。
プロダクトが実際にユーザー・市場に受け入れられているか、将来性があるかなどを見極め、出資の判断をしてもらいます。
投資家にとっては判断が難しい段階ですが、市場の反応を具体的な数値で示すことで好印象を与えることも可能です。
また、同じビジョンを持つ投資家に出会うことで、スムーズに投資を受けられる可能性もあります。
シリーズA〜シリーズBの資金調達方法と金額
シリーズAは商品やサービスを市場に展開し始め、今後の拡大のために資金が必要になる時期です。
シリーズBは事業が認知されて軌道に乗り始め、事業をさらに成長させるための資金が必要になります。
シード・アーリー期に比べて投資家も判断しやすい時期といえるでしょう。
ここでは、シリーズA〜シリーズBの資金調達方法と金額、資金調達にかかる期間を紹介しま。
資金調達方法
補助金・助成金
補助金や助成金は、公的機関から受けられる支援です。
返済義務のないものもあり、リスクの少ない資金調達ができます。
ただし受給には一定の要件があり、補助金の場合は事業計画書などを提出して受給の妥当性や必要性をアピールしなければなりません。
支給は後払いがほとんどで、資金調達を急ぐ場合には向いていない方法です。
日本政策金融公庫・銀行融資
前に紹介した日本政策金融公庫とともに、銀行からの融資も可能です。
銀行融資は審査が厳しく、実績のないアーリー段階ではほぼ利用ができません。
事業計画書や自己資金を用意して融資が得られる場合もありますが、業績が伸びてきたシリーズA以降の段階で利用するのが一般的です。
シリーズA以降は複数の選択肢から、より自社に合った資金調達方法を選ぶようにするとよいでしょう。
調達金額
シリーズAは市場での反応を検証した商品・サービスの売上を増やす段階です。
マーケティングにより企業の認知・ユーザーの獲得を行うため、多くの資金が必要です。
人件費や設備投資費用、マーケティング費用などで、調達金額は数億円が相場となります。
シリーズBは商品・サービスが評価されてユーザーも増え、事業が軌道に乗り始めた段階です。
さらに売上を伸ばし事業を拡大するため、販売促進や人材の確保、研究開発などの資金が必要になります。
調達金額は数億〜十数億円が相場となるでしょう。
資金調達にかかる期間
金額が大きくなるため、調達に必要な期間としては半年が目安です。
シリーズBはさらに半年以上はかかると考えた方がよいでしょう。
銀行融資の場合は多くの必要書類を揃えるために時間がかかり、それらについて入念な審査が行われます。
事業計画などの各種書類を細かくチェックされるため、審査の期間も長くなる傾向にあります。
シリーズC以降の資金調達方法
会社がさらに成長したシリーズC以降は、投資ラウンドの最終目標とされる「IPO(株式公開)」や「シンジケートローンも選択肢に入ります。
これらは「エグジット(EXIT)」と呼ばれます。
エグジットにより利益を得た起業家がエンジェル投資家となり、新興企業を支援していくというサイクルも生まれています。
資金調達方法
IPO・上場
シリーズC以降もシリーズB以前の資金調達方法を行いますが、それに加えて株式公開(IPO・上場)も狙います。
IPOとは「Initial Public Offering」の略で、未上場企業が新規に株式を証券取引所に上場し、投資家に株式を取得させることです。
株式上場に際して、通常は新たに株式を公募するか、上場前に株主が保有している株式が売り出されます。
IPOとは、これらの株式を証券会社を通じて投資家へ配分することです。
上場することで、直接金融市場から広く資金調達することが可能となります。上場により会社の知名度も上がり、社会的な信用を高められるのがメリットです。
シンジケートローン
シンジケートローンとは、複数の金融機関がシンジケート団を組成し、ひとつの融資契約書に基づき同一条件で融資を行う資金調達手法です。
アレンジャー(幹事となる金融機関)が窓口となり、顧客と融資条件等を交渉します。
会社ごとにオーダーメイドで組成するため、通常の資金調達に加え、柔軟な借入条件・返済スケジュールの設定などさまざまなメリットをつけることも可能です。
調達金額
シリーズCの段階になると事業や商品・サービスに対する市場の評価がわかり、将来の予測がしやすい状況です。
売上高や利益などの財務情報も確認でき、投資効果も判断しやすくなります。
経営が安定して資金調達の必要がないケースもありますが、新規事業への拡大や海外進出を視野に入れた場合はさらに資金が必要になるでしょう。
シリーズC以降の調達金額は、数十億〜数百億円となります。
資金調達にかかる期間
資金調達にかかる期間は、シリーズBと同じく審査が長期にわたる場合には半年以上が目安です。
ただし、シリーズCの段階になると企業の認知度が上がって社会的信用がつき、これまでの実績も加えて金融機関の融資条件をクリアできるケースも少なくありません。
そのため、比較的早く融資が行われる可能性もあるでしょう。
資金調達のリスク
投資ラウンドでベンチャーキャピタルや個人投資家から出資を受けるときには、以下のようなリスクに注意が必要です。
- 経営権を取られるなどで経営の自由度が低下する
- 上場できなくなる
出資を受ける際に投資契約書を締結する場合もあり、契約内容には注意すべき点もあります。
資金調達におけるリスクについて、みていきましょう。
経営権を取られるなど経営の自由度が低下する
出資を受ける際、資金と引き換えに保有株式の一部を渡すことになります。
ここで多くの株式を渡してしまうと会社経営に口を挟まれることがあり、経営権が奪われる可能性もあるため注意が必要です。
まだあまり金融知識の少ない起業家が経営権を狙う投資家から出資を受け、多くの株式を渡してしまうケースもあるため気をつけなければなりません。
出資比率の過半数以上が外部に渡ると経営の決定に関する多くの権利が付与されるため、最悪の場合には経営陣が解任されてしまう可能性もあるでしょう。
また、出資を受けるときに投資契約書を締結するケースが少なくありません。
投資契約書は、投資をするベンチャー企業の経営状況を知るために必要とされます。
契約では経営者が経営の意思決定において不利になる事前承認条項が要求されることもあるため、注意しなければなりません。
上場できなくなる可能性がある
投資家には反社会的勢力とされる人たちもいます。
それらの投資家から資金調達を受けて関係を持ってしまうと、上場が困難になる可能性があります。
特に出資者を募りにくいエンジェル期〜シード期では、「反社会的勢力と気づかない」「甘い話につい乗ってしまう」ということも起こりがちです。
出資先をよく見極めて資金調達することが必要です。
投資ラウンドの最終目標
投資ラウンドの最終目標として、IPOとともにM&Aも視野に入ります。
日本では従来、M&Aのノウハウを持つ企業が少なく、M&Aは敬遠されがちな経営戦略でした。しかし、近年はM&Aを目指すベンチャーも増えてきています。
M&Aについて、詳しくみてみましょう。
M&A
M&Aとは、ほかの企業に会社や事業を売却する手法です。
株式譲渡や事業譲渡などの方法で資金調達します。
アメリカではM&Aによるエグジットが9割を占め、日本でも近年、増加傾向です。
IPOよりも得られる利益は少ないというデメリットはありますが、譲渡先さえ見つければ、IPOよりも迅速にエグジットを行えるのがメリットです。
資金調達の手段は投資ラウンドに応じて変わる
投資ラウンドは、投資家が投資先企業の状況を把握する指標です。
会社側から見れば、自社の成長段階に合った資金調達手段を考える目安となります。
シード期やアーリー期では、主にベンチャーキャピタルかエンジェル投資家からの資金調達がおすすめです。
シリーズAを過ぎたら最終的にはIPOを目指すなど、資金調達方法の選択肢も広がるでしょう。