MRR(Monthly Recurring Revenue)とは月間経常収益のことで、ビジネスの成長性を測るときに用いられることがある指標です。とりわけサブスクリプション型の事業では、MRRは注目されます。MRRの種類や計算方法、改善方法について紹介します。
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MRRとはSaaSなどで用いられるKPIのこと
MRRとは「Monthly Recurring Revenue」の略で、月間経常収益と訳されます。簡単にいえば「毎月決まって得られる売上」のことで、MRRが高いと事業は安定していると考えられます。
MRRはSaaSビジネス(サブスクリプション型のビジネス)にとっては、とりわけ注目される指標です。たとえばスマートフォンを契約する場合、最初に事務手数料や機種代金などのまとまった費用が発生します。これらはいずれも1回のみ(分割で支払う場合は除く)の費用であり、利用期間とは無関係です。
一方、毎月発生する通信費などは別です。ユーザーの利用期間が長くなればなるほど携帯会社が受け取る収益は増えることになります。MRRは事務手数料や機種代金などの1回のみ発生する費用は考慮せず、月額料金のように毎月コンスタントにかかる費用のみを対象とします。そのため、MRRが高いビジネスモデル、この場合であれば事務手数料などは安くとも月額料金が一定以上であれば、ビジネスは継続しやすいと判断できるでしょう。
なお、MRRのようにビジネスの成果などを判断するために用いる指標を「KPI(Key Performance Indicator)」と呼びます。KPIを設定することで、ビジネスの目標を達成したかどうかを客観的に理解することが可能です。
たとえば、「MRR5,000万円以上」「昨年度の当月MRRより10%増を目指す」など、MRRを用いて具体的な数値目標を設定します。
スタートアップにおけるMRRの重要性
スタートアップ企業においても、MRRは重要です。MRRは毎月コンスタントに発生する収益であるため、MRRが大きいときは安定性の高い企業と考えられます。また、MRRがコンスタントに増加しているなら、成長性も高いと判断できるでしょう。
MRRが高いビジネスは、顧客獲得コストの効率が高く、また顧客生涯価値も高いと考えられます。将来性が高いだけでなく、市場における競争力も高いと判断できるため、投資家からも信頼を得やすくなります。
なお、MRRは重要な指標ですが、MRRだけで安定性や将来性、市場競争力を判断してしまうのはおすすめできません。より客観的な判断を実現するためにも、ARRやNRRなどの指標も用いて総合的に分析することが必要です。
ARRとの違い
ARR(Annual Recurring Revenue)とは、年間経常収益のことです。MRRは1ヶ月あたりの収益を指す指標ですが、ARRでは1年間あたりの収益を指します。
MRRでは1ヶ月ごとに評価するため、月単位で料金を支払うサービスの安定性や成長性を理解するときに役立ちます。たとえばスマートフォンやスポーツクラブの利用料などは、月ごとに料金を払うため、MRRによる評価が適しているといえるでしょう。
一方、クレジットカードの会費などは年払いが基本です。また、保険料のように月払いや年払い、半年払いなどの複数の支払い方から選択できる料金もあります。このようなビジネスモデルに関しては、ARRが適しています。ARRを活用し、ビジネスの安定性や成長性を測るようにしましょう。
一般的に年間契約は対企業向けのビジネス(BtoB)で多く見られます。一方、月間契約は対消費者向けのビジネス(BtoC)に多いです。そのため、対企業向けの商品・サービスを提供する企業はARR、対消費者向けの商品・サービスを提供する企業はMRRを利用する傾向にあります。
次の記事では、ARRについて詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
ARR(Annual Recurring Revenue)とは年間経常収益のこと。計算方法やわかること、成長要因を解説
NRRとの違い
NRR(Net Retention Rate)とは、売上維持率のことです。前月あるいは前年などの特定の時点に比べ、収益がどの程度変化しているのかを表します。
SaaSビジネスは、顧客が商品・サービスを継続して利用することで収益を上げるビジネスモデルです。NRRが1のときは増減なし、1を超えるときは成長、1未満のときは売上減を意味します。
MRRの種類
MRRは、顧客の属性に注目して次の種類に分けられます。
- New MRR
- Churn MRR
- Expansion MRR
- Downgrade MRR
それぞれの違いや計算方法について説明します。
New MRR
New MRRとは、新規顧客から得られるMRRのことです。サブスクリプションサービスなどの月額料金が発生するサービスに対して、新しく加入したユーザーから得られる売上を指します。ただし、MRRでは経常的な売上のみに注目するため、入会金などは含みません。
たとえば、入会金が3万円、月額料金が1万円のサービスに入会した新規顧客が50人いる場合に、New MRRは「1万円×50人=50万円」です。
Churn MRR
Churn MRRとは、当月解約した顧客のMRRのことです。New MRRは多ければ多いほどビジネスは成長性があると判断できますが、Churn MRRが多いときはビジネスの健全性が低いと考えられます。
たとえば、解約金が3万円、月額料金が1万円のサービスを解約した顧客が当該月に30人いる場合、Churn MRRは「1万円×30人=30万円」となります。
Expansion MRR
Expansion MRRとは、プランをアップグレードした顧客のMRRのことです。Expansion MRRが多いときは、新規サービスなどが受け入れられていると判断できます。
たとえば、1万円のプランから1万5,000円のプランにアップグレードした顧客が30人、1万5,000円のプランから3万円のプランにアップグレードした顧客が20人いる場合について考えてみましょう。前者の月額料金は5,000円の増加、後者は1万5,000円の増加のため、Expansion MRRは「5,000円×30人+1万5,000円×20人=45万円」となります。
Downgrade MRR
Downgrade MRRとは、プランをダウングレードした顧客のMRRです。プランを下方修正した顧客による売上のことで、減少した分のみを合算します。
たとえば、当該月に3万円のプランから2万円のプランに変更した顧客が30人いる場合であれば、減少額は1万円のため、Downgrade MRRは1万円×30人=30万円です。
MRRの計算方法
MRRを計算するときは、次の点に注意しましょう。
- 入会金や手数料など1回のみの収益は含めない
- 支払いが遅延していても、解約されていないときはMRRに含める
- 割引サービスを実施しているときは、割引適用後の料金でMRRを求める
実際の計算パターンを2つ紹介します。
契約期間に注目しない場合
MRRは、契約期間に注目しないで当該月の収益のみを計算するパターンと、契約期間を当該月の収益に反映するパターンがあります。まずは契約期間に注目しない計算方法を紹介します。契約期間を無視してMRRを計算するときは、以下の計算式を使いましょう。
MRRの基本の計算方法(契約期間を反映しない場合)MRR=月額料金×顧客数当該月MRR=前月MRR+New MRR+Expansion MRR-Churn MRR-Downgrade MRR |
異なる契約期間を反映する場合
契約期間を反映してMRRを計算するときは、以下の計算式を用います。たとえば月額料金プランだけでなく、半年契約、年間契約などのプランもあるときは、次の方法でMRRを計算しましょう。
MRRの基本の計算方法(契約期間を反映する場合)MRR=月額料金×顧客数÷契約月数当該月MRR=前月MRR+New MRR+Expansion MRR-Churn MRR-Downgrade MRR |
たとえば年間料金が10万円、年間契約のユーザーが60人、月額料金が1万円、月単位の契約のユーザーが80人いる場合について考えてみましょう。この場合のMRRは「10万円×60人÷12+1万円×80=130万円」となります。
MRRを利用する場面
MRRは、次の場面で利用することがあります。
- ビジネスの持続可能性や成長性を調べるとき
- 投資判断をするとき
それぞれの場面でどのようにMRRを活用するのか説明します。
ビジネスの持続可能性や成長性を調べるとき
MRRを計算することで、ビジネスに将来性があるのか客観的に把握できます。New MRRやExpansion MRRが増加しているときや、MRR自体が増えているときは、ビジネスモデルが優れていると考えられるでしょう。
反対にDowngrade MRRやChurn MRRが多いときは、改善点を探すきっかけとなります。自社のビジネスモデルについて客観的に調べたいときは、MRRを活用しましょう。ただし、年間契約などが多いときはARRも利用し、より長期的なスパンで事業の持続可能性を調べます。
投資判断をするとき
MRRは、自社以外のビジネスを判断するときにも活用できます。たとえば投資先として適当か調べるときなどにも、MRRを計算してみましょう。とりわけSaaSビジネスを判断するときは、MRRを調べることが必要です。Expansion MRRやNew MRRなどにも注目すれば、中長期的な投資価値があるのかも判断しやすくなります。
また、取引先や提携先の企業を判断するときにもMRRを確認してみましょう。持続可能性のあるビジネスを展開している企業であるか調べておくことは、リスク回避にもつながります。
MRRを改善する方法
MRRに問題があるときは、早期に改善することが必要です。問題点を分析し、適切と思われる対策を実施します。
ただし、その対策がMRRの改善につながるとは限りません。定期的にMRRを検証し、改善策が適切かを調べることが必要です。
MRRの種類別に改善策を紹介します。MRRに問題があるときは、ぜひ改善・検証・分析のサイクルを継続してください。
New MRR
New MRRに問題があるときは、ユーザー獲得方法を打ち出す必要があります。たとえば次の対策を実施できるかもしれません。
- 新規顧客が利用できる割引などのキャンペーンを実施する
- メディアなどを使った大々的な宣伝活動を行う
- SNSやオウンドメディアを利用して認知度向上・コンバージョン率アップのプロモーションを行う
Churn MRR
Churn MRRに問題があるときは、解約を減らす方法を検討する必要があります。Churn MRRが高いときは、価格面あるいはサービス面に深刻な課題があると考えられるため、料金プランの見直しやサポートサービスの充実などを早急に実施しなくてはいけません。
Expansion MRR
Expansion MRRが少ないときは、顧客単価を高める具体的な施策が必要です。主な施策としてはアップセルとクロスセルが挙げられます。
アップセルとは顧客に上位プランを提案し、乗り換えてもらうことです。乗り換えを促すキャンペーンの実施や、上位プランのサービスの充実化を図れます。
クロスセルとは、顧客に異なる商品を提案し、選んでもらうことです。下位プランを選ぼうとしている方に上位プランを提案するためにも、上位プランのメリットを増やすことが必要です。
Downgrade MRR
Downgrade MRRが多いときは、サービス満足度に注目した施策が必要です。顧客のフォロー体制を強化する、サービスをわかりやすく説明することなどで、Downgrade MRRを減らせることがあります。
MRRで企業の有望性をチェックしよう
MRRは、転職先の将来性を調べるときにも活用できます。ぜひMRRを利用して、有望な企業を見つけていきましょう。
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