転職コラム

デジタル証券(ST)とは?メリットデメリットや今後の展望について解説

デジタル証券とは、ブロックチェーン技術を活用し、従来の紙ベースの有価証券をデジタル化したものです。

セキュリティが強固で、不動産の小口投資に適したメリットが注目されています。

今回はデジタル証券の利点やデメリット、今後の展望について解説します。

デジタル証券とは

デジタル証券とは完全なペーパーレス化を実現した、電子的に発行される有価証券(株式や手形、小切手など)です。

ブロックチェーン技術を用いた仕組みで、ST(セキュリティ・トークン)とも呼ばれます。

2019年に改正金融商品取引法が公布され、暗号資産に関する規制が強化されています。

電子記録移転有価証券表示権利等が規定され、デジタル証券の金融商品取引法上の位置付けが明確化されました。

金融商品取引法では株式や投資信託、国債・社債など一般的になじみ深い金融商品を第1項有価証券と定義しています。

第2項は「有価証券的なもの」という表現を用いて、ファンドの権利や合名会社・合同会社の社員権などを第2項有価証券と定義し、有価証券の範疇とみなしています。

第1項有価証券と第2項有価証券の大きな違いは、流通性の高さです。

取引所や法的なルールなどインフラ面の整備や、証券会社での取り扱いにおいて、流通性が高い第1項有価証券は消費者保護の要請が強くなっています。

第3項有価証券として新たに誕生した枠組みが、デジタル証券です。

具体的には、第2項有価証券のうち、ブロックチェーン技術を駆使して流通性を高め、第1項有価証券に格上げした証券を指します。

ランクが上がることで、投資家の保護機能が強化されています。

具体的には、ディスクロージャー(開示義務)が導入され運用の透明性が担保されたほか、一定の財務基盤や体制を備える、第一種金融商品取引業のライセンスを持つ会社のみが、デジタル証券を扱うことが可能です。

デジタル証券の大きな特徴は、本来流通性が乏しい金融商品の流動性を高めたことです。

証券取引所のような仲介プラットフォームを挟まずに取引が可能となり、コストを抑えた資金調達が実現します。

従来、第2項有価証券といえば、不動産に投資する匿名組合が代表的でした。

各投資者が、営業者と呼ばれる賃貸オーナーのような存在と契約を交わしたうえで出資金を託す手法です。

匿名組合の権利は法的な担保がない営業者と投資家の契約であることや、公証役場で確定日付を取得しないと譲渡を第三者に対応できないことから、他の人に譲り渡す債権とは考えられていませんでした。

ブロックチェーンの技術を介すことで、匿名組合の権利はオンライン上で容易に譲渡可能なものに変更されました。

デジタル証券と従来型有価証券の違い

デジタル証券と従来型有価証券の違いは、仮想通貨と日本円やドルの関係に類似しています。

デジタル証券は実物がなくともインターネット上に内容が記録され、財産的な価値を対外的に証明できるのが特徴です。

管理場所や流通市場、保管場所におけるデジタル証券と従来型有価証券の違いを解説します。

管理場所

従来型の有価証券は証券保管振替機構(ほふり)で一括管理されますが、実体がないデジタル証券はブロックチェーン上のトークンで管理・保管されます。

株式や手形、小切手のような紙の証券は存在せず、コンピュータ上に書き込まれたデータを証券として扱います。

有価証券自体に大きな変化はなく、デジタル技術の進化によって登場した、電子上のプラットフォームで証券を管理すると覚えておきましょう。

流通場所

従来型は証券取引所で取引されるのに対し、デジタル証券は証券取引所以外の新たな取引所で流通します。

ただし、市場の整備が整っておらず、発行元の証券会社を通さないと売買できないのが現状です。

セキュリティ・トークン関連のインフラ整備の動きは活発化すると見られ、私設取引システム(PTS)の活用が注目されています。

証券内容の記載場所

従来型は紙媒体の証券に内容や保有者の権利を記載するのに対し、デジタル証券ではブロックチェーン上のトークンに記載されます。

実在はせずとも金融商品取引法による保護の対象で、財産的な価値が担保されます。

証券の金額や調達先の情報はブロックチェーン上に保管され、システムにアクセスできる者なら閲覧可能です。

従来のように他人の目が届かない秘密の場所に証券を保管せずとも、セキュリティが確保されます。

デジタル証券のメリット

デジタル証券の大きな利点は、取引のしやすさおよび強固なセキュリティです。

とくに不動産投資と相性が良く、現物だと高額で手が届かない土地や物件を小口化し、取引を容易にしています。

デジタル証券は株式と比べて発行条件が緩く、新たな資金調達の手法としても注目されています。

24時間365日取引可能

ブロックチェーン上で管理・運用されるデジタル証券は、24時間365日取引可能です。

自律分散型のシステムで取引が自動で記録されるため、証券取引所の営業日やシステムの確認による影響を受けません。

いつでも好きな時に、オンライン上で取引できる利便性の高さは大きな利点です。

サーバーが存在せず、すべての端末が鎖状に接続したシステム構造のため、即時決済も可能です。

小口化した取引が可能

デジタル証券を使うことで、不動産のような高額な商品を小口化し、扱いやすくする効果もあります。

実物では分割できない土地や物件を、少額による購入が可能な形に変化させます。

同様に不動産の小口現金化が可能なREITとの違いは、自ら投資対象を選定できることです。

デジタル証券なら、大きなリターンが得やすい不動産投資を少額で実現させられるうえに、投資の自由度も担保されます。

セキュリティが強固

データの改ざんがほぼ不可能な、強固なセキュリティ体制があることも利点です。

ブロックチェーンはユーザー間で台帳を共有・監視しており、仕組み上、不正ができません。

ハッカーが侵入し、情報の摂取や改ざんを試みようとしても、チェーン上に他の情報と連結されているため、搾取は不可能です。

資金調達が容易となる

デジタル証券を活用すれば、実績が少なく規模の小さい企業でも資金調達がしやすくなります。

セキュリティ・トークンを担保に資金を調達するSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)は、書面のやり取りが不要です。

設立まもないベンチャーでは株式による資金集めは難しいですが、デジタル証券ならSTOの活用で、スピーディーな事業への投資が可能になります。

デジタル証券のデメリット

デジタル証券は流通市場が未成熟で、投資対象として考えると、利益をあまり期待できないのが現状です。

調達コストも低いとは言えないため、投資家に還元する利回りへの影響も懸念されます。

利回りへ影響が懸念される

安全性と透明性の確保のため、デジタル証券の資金調達には一定のコストがかかります。

金融商品取引法上の開示義務(ディスクロージャー)や、保有する資産の裏付けが必要で、調達コストの上昇による利回りへの影響が心配です。

デジタル証券による資金調達では、証券を購入した投資家に対して利息を支払う必要があります。

調達や運用でコストがかかりすぎると、十分な利回りを確保できず、企業の利益に影響を及ぼす恐れがあります。

ハイリターンは期待できない

同じブロックチェーン技術を活用した暗号資産と比べると、審査の厳しさやコストの高さが足かせとなり、ハイリスクハイリターンは期待できません。

ビットコインやイーサリアムの現物トレード、FXは担保がない反面、投資信託や債券などの手法では達成できない大きなリターンが得られる場合があります。

今後の法整備次第ではありますが、税制面にも注意が必要です。

従来の金融商品や税制に沿った形での課税が行われるとすれば、社債と同様、20.315%の源泉徴収が発生します。

流通市場の整備が不十分

デジタル証券市場に参入している企業や投資家はまだ多いとは言えず、取引場面が限られます。

売却の際は証券会社に持ち寄る形にならざるを得ず、流通性は低いと言わざるを得ません。

譲渡制限が付いていたり、売却したくても買い手が見つからなかったりなど流通を阻害する要因が多いのが現状です。

活発な取引が実現するのはまだ先になるでしょう。

デジタル証券と他の資金調達方法との違い

デジタル証券は新たな資金調達の手法として、投資家や経営層から注目の的になっています。

銀行借り入れやクラウドファンディングなどと比較すると、審査の緩さや市場流通性の高さが特徴です。

デジタル証券とその他の資金調達方法の違いを解説します。

銀行借り入れとの違い

銀行借り入れは金融機関の審査や取引の有無の審査があり、実績がないと実現が難しい場合もあります。

初めての資金調達では提出する書類も多く、審査に時間がかかるのが一般的です。

STOの場合、信用力は求められますが、既存の取引関係や担保の必要はなく、スピーディーな借り入れが実現します。

クラウドファンディングとの違い

オンライン上で一般のユーザーから広く資金調達を募るクラウドファンディングは、デジタル証券と同様、手軽に事業資金を調達できる手法です。

ただし二次流通性が低く、将来的に獲得した利益は、投資家たちに還元する他ありません。

一方デジタル証券は、市場の整備が進んでいないとはいえ、市場売買を前提としているため将来的に流動性が高くなる可能性があります。

ICOとの違い

ICOはInitial Coin Offeringの略で、暗号資産を用いて資金調達することです。

ICOは資金調達における特定の資産の裏付けはなく、STOよりさらに手軽な手法です。

デジタル証券は金融商品取引法を法的根拠に、開示義務をはじめ、一定の規制が求められます。

リターンの期待度や確実性を考慮すると、ICOのほうがリスクが高いといえるでしょう。

IPOとの違い

自社の株式を発行して資金調達を行うIPOの場合、証券取引所の上場基準を満たす必要があります。

内部の管理体制の構築や、膨大な申請書類の準備が求められ、上場までに年単位で時間がかかることも珍しくありません。

STOではIPOほど厳正な基準が存在せず、事業やサービスの開始前でも資金調達が可能です。

企業が保有するさまざまな資産をSTO化することによって、資金調達手段の多様化が期待できます。

IPOは証券取引所による中央集権的な管理体制が特徴ですが、デジタル証券による資金調達はブロックチェーンを駆使する分散・自律的な仕組みです。

社債との違い

社債とデジタル証券による資金調達はスキームが類似していますが、振替機関と社債原簿の管理に大きな違いがあります。

社債の発行はほふりが振替機関となりますが、デジタル証券の場合はブロックチェーンがその役割を担います。

社債原簿とは社債に関する事項を明らかにした帳簿のことで、社債の発行日以後、速やかに作成しなければいけません。

デジタル証券なら原簿の発行がなく、発行時の手間が軽減します。

デジタル証券と犯罪収益移転防止法

2020年5月施行の金融商品取引法の改正によって、デジタル証券の存在が法的に認められたほか、トークンの発行事業者が第一種金融商品取引業の規制を受けるようになりました

ここでは、犯罪収益移転防止法の内容や、事業者が実施を求められる手続きについて解説します。

そもそも犯罪収益移転防止法とは

犯罪収益移転防止法はマネーロンダリングやテロ資金の供与に対する対策を目的に、2007年3月に成立した法律です。

特定事業者と呼ばれる対象事業者を定義づけ、特定取引やハイリスク取引(なりすましや虚偽の疑いがある取引)を行う際の、取引時確認の手続きを義務化しました。

特定事業者には、金融機関やクレジットカード事業者、宅地建物取引業者をはじめ、計13の類型が示されています。

改正犯罪収益移転防止法によりeKYCの利用が可能に

デジタル化・オンライン化を背景に、従来の郵送による本人確認が必須ではなくなり、eKYC(イー・ケイワイシー)が可能になりました。

端的に言えば、オンライン上で本人確認が完了するようになります。

従来は対面での本人確認書類の提示をはじめ、比較的アナログな手法がメインで行われていました。

昨今のデジタル化・オンライン化の動きを背景に、本人確認の要件が刷新されています。

犯罪収益移転防止法における本人確認とは

本人確認の対象は、私たち個人を示す自然人と、法人・人格がない社団または財団に分かれます。

デジタル証券を用いた資金調達では、法人も個人も取引の対象です。

詳しくは後述しますが、自然人の本人確認は「身元確認」と「当人認証」に分かれ、どちらの基準も満たす必要があります。

本人確認は法律上の義務であり、行政庁から是正命令を受けたにもかかわらず、命令に従わないときは2年以下の懲役、または300万円以下の罰金が科される恐れもあります。

身元確認と当人認証とは

身元確認とは、マイナンバーカードや運転免許証などの公的な身分証明書による本人確認のことです。

当人認証とは、本人確認を受ける人物と、書類を提出した人物が同一人物か確認することを指します。

身元確認は本人性の確認以外にも、マネーロンダリングやテロ資金の供与のようなリスクの確認にも用いられます。

当人認証には複数の手法が存在し、一般的な方法が「知識認証」です。

Webページのログイン時に入力するIDやパスワード、情報を失念した場合に入力する「秘密の質問」などがわかりやすい例でしょう。

IALとAALとは

身元確認と当人認証は、NIST(米国立標準技術研究所)によって強度のレベルが定義されています。

IALは身元確認保証レベルで3段階に分かれ、AALは当人認証保証レベルによって3段階に分かれます。

簡略化して説明すると、IAL低は自己申告を含む確認、中は公的身分証を用いた確認、高は対面を組み合わせた確認です。

AALは1要素における確認が低レベル、2要素での確認が中レベル、2要素以上の多要素認証が高レベルに該当します。

取引の目的に応じて、身元確認保証や当人認証保証のリスクレベルをアセスメントしましょう。

デジタル証券とeKYC(オンラインでの本人確認)

改正犯罪収益移転防止法では、オンライン上での本人確認の手法として「ホ」「ヘ」「ワ」「リ」を示しています。

それぞれ確認のしやすさやセキュリティレベルの高さが異なることが特徴です。

「ホ」の手法

「ホ」の手法は、写真付き本人確認書類の画像と、本人の容貌画像を送信する方法です。

身分証の原本を直接撮影し、撮影後ただちに提出する必要があります。

即時性が重視され、スマートフォンのカメラロールに保存してある免許証画像のアップロードや、本人確認書類のコピー画像の提出は禁止です。

原本である証明のために、書類の厚みの確認や、ホログラムも含めた提出が求められます。

「ヘ」の手法

「ヘ」の手法は、写真付き本人確認書類のICチップ情報および本人の容貌画像を送信する方法です。

身分証などに埋め込まれたICチップ情報を、NFCなどの技術を活用して読み込みます。

ICチップを読み取ることで、氏名や住所、生年月日、性別などの情報を取得できます。

情報の展開にはあらかじめ設定したパスワードの入力が必須です。

「ワ」の手法

「ワ」の手法は公的個人認証と呼ばれ、マイナンバーカードのICチップをスマートフォンで読み取り、公的個人認証サービスを活用して本人確認を行います。

J-LIS(地方公共団体情報システム機構)では住民基本台帳に登録がある希望者に対して、オンライン上で本人確認が可能な電子証明書を交付します。

「ワ」では、ICカードの読み取り専用デバイスや専用スマートフォンアプリの準備が必要です。

「リ」の手法(書類の送付+不要郵便物等の送付)

「リ」の手法は、本人確認書類の画像を送信し、続いて転送不要郵便物を受け取る方法です。

転送不要郵便とは受取人が転居届を出していても、宛名に本人の存在が確認できなければ、差出人に返送される郵便物です。

「リ」の手法は、本人確認書類に記載の住所に本人が実在しているか確認するために用いられます。

運転免許証のような写真付きの身分確認書類を持っていなくても、健康保険証や公共料金の領収書などの画像2点で審査を通過できます。

スタートアップ企業にとっての将来性

資金力に乏しいスタートアップ企業にとって、デジタル証券は資金を集める有効な方法です。

東京都は2023年5月31日より、デジタル証券を発行する都内の金融・FinTech事業者に対して、発行に必要な経費の一部を補助する事業を開始しました。

補助対象となる経費の種類はプラットフォームの利用料、専門家への相談料、システム開発費用です。

補助率の上限は原則1/2ですが、スタートアップの場合は2/3に拡大します。

多様な発行事例を通じて、ノウハウや課題を広く共有することで市場の形成・拡大を図るのが狙いです。

デジタル証券の今後の展望

デジタル証券市場は2021年初頭からの約1年間で6倍近い急成長を遂げています。

業種横断的に大規模な資金調達のために使われるケースも少なくありません。

日本では2021年4月以降、不動産信託受益権やデジタル社債を裏付けとする受益証券発行信託型や、匿名組合出資型のデジタル証券が発行され、個人投資家に対して販売されています。

従来、J-REITに限られていた個人投資家向けの不動産商品に新たな選択肢を提示しました。

不動産はスキーム上、デジタル証券の組成における課題が少なく、日本国内における主要な事業領域を形成しています。

流通市場の成熟化が進めば、参入する投資家や企業の数が増え、ビッグマネーが動く莫大な市場が形成される可能性も高いです。

不動産以外にも航空機や船舶のリース債権、住宅ローンなどの金銭債権、知的財産権などにも裾野が広がるとみられ、新たな資金調達や資産形成の一手法として注目度が高まっています。

デジタル証券の今後の展望に注目

デジタル証券は個人投資家や資金調達を図る事業者に、新たな選択肢を示しました。

しかし現状ではシステムや法制の整備が整っておらず、安心して使えるレベルには達していません。

不動産をはじめ、多くの資産に転用できる可能性の高さから、大きな市場を形成する期待も持たれています。

行政の支援もあいまって、今後はデジタル証券を用いた資金調達を始めるスタートアップが増えるのではないでしょうか。

フォルトナベンチャーズは、高学歴層・ハイキャリア人材の転職支援に特化したエージェントです。

スタートアップやベンチャーの経営陣とのコネクションが豊富で、結果につながる支援を約束します。

関連記事

TOP
登録は1分で完了!相談はすべて無料です。
【今すぐ】無料転職支援を申し込む
登録は1分で完了!相談はすべて無料です。
【今すぐ】無料転職支援を申し込む