SPAC(特別買収目的会社)とは、買収だけを目的とした会社で、一般的な会社とは異なりそれ自体は事業活動を行いません。
どのような仕組みの会社なのか、なぜ注目されているのか説明します。
また、問題点や成功例・失敗例についても紹介します。
MENU
SPAC(特別買収目的会社)とは?読み方も紹介
SPAC(Special Purpose Acquisition Company:特別買収目的会社)とは、買収を目的とした会社のことで、「スパック」と読みます。
上場の目的は資金調達で、調達した資金で未上場のベンチャー企業などを買収し、買収した企業の事業活動によって利益を得ます。
簡単にいえば、箱だけを上場させ、後で中身を入れるイメージです。
SPACの仕組みとは?わかりやすく解説
SPACの仕組みはシンプルです。SPACはそもそも未上場企業の買収だけを目的とし、買収資金を調達するために上場します。
上場によって調達した資金を使って、将来性の高い未上場企業を買収し、買収した企業と合併して新会社を作ります。
なおDe-SPAC(デスパック)とは、SPACが買収した会社と合併し、上場・資金調達・買収・合併の一連の取引を完了することです。
De-SPACを実施するためには、買収した会社と合併契約を締結するだけでなく、株主総会で合併契約の承認を得ることも必要になります。
また、合併に反対する株主に対しては資金の償還や、合併した会社の株主に対する対価の支払いなども必要です。
これらの一連のプロセスはDe-SPACプロセスと呼ぶことがあります。De-SPACに関連する行動を、英語ではDe-SPACingと表現します。
米国市場におけるSPACのルール
SPACには、いくつかルールがあります。例えば米国市場では、SPACとして上場した企業は次のルールを守らなくてはいけません。
- 24ヶ月以内に買収を完成させる
- 上場後に9割程度の資金を信託する
- 買収に失敗した場合は利息をつけて資金を返還する(投資家保護)
SPACは未上場企業の買収を目的としているため、少なくとも24ヶ月以内に買収を完成させなくてはいけません。
買収にはさまざまな手続きが必要なため、SPACとして上場する前にある程度は買収する会社を絞り込んでおくことが必要です。
また、上場後に9割以上の資金を信託することも求められています。
上場により調達した資金をすべて使用してしまうと買収に必要な資金を確保できず、買収を実現できないリスクがあります。
買収に失敗したときは利息をつけて償還することも必要です。
これは投資家保護のためのルールで、万が一SPACが目的を達成できなかったときも、投資家は出資した資金と預け入れ期間に応じた利息を得られます。
SPC(特別目的会社)との違い
SPC(Special Purpose Company:特別目的会社)とは、特定の目的を果たすための会社のことです。SPACと異なり、買収に目的が特化されているのではありません。
上場して資金調達を行う点は、SPACと同じです。
しかし、調達した資金は企業買収だけに固定されず、不動産の証券化などの上場前に定めていたさまざまな目的に用いられます。
SPAC(特別買収目的会社)が注目される理由
SPAC(特別買収目的会社)は、近年注目を集めています。その理由としては、次の4つが挙げられます。
- 多くの企業が短期間での上場を果たしたから
- 米国市場で話題を集めたから
- 著名経営者もSPACに関わっているから
- 日本においてもSPACの解禁が検討されているから
それぞれの理由について見ていきましょう。
多くの企業が短期間での上場を果たしたから
通常、上場するまでには長い時間がかかります。
例えば、東京証券取引所のプライム市場に上場する場合であれば、次の条件をすべて満たさなくてはいけません。
- 株主数:800人以上
- 流通株式:2万単位以上
- 上場時の時価総額が250億円以上見込まれること
- 純資産:50億円以上
- 株式会社としての事業活動歴が3年以上あること など
また、上場会社監査事務所により、2年以上監査を受けていることなども必要です。
これらのすべての条件を満たすには、時間がかかるだけでなく、巨大な資金力も必要になります。そのため、技術力やビジネスモデルが優れた企業であっても、すぐには上場を実現できません。
上場しないで事業活動を続けるには、資金の問題が立ちはだかります。
金融機関などで融資を得られないときには、事業規模拡大が困難になるだけでなく、事業活動そのものの継続も難しくなることがあります。
しかし、SPACを利用すれば、上場条件を満たさなくても上場が可能です。
実際にアメリカではSPAC解禁後、上場した件数が大幅に増加しています。
米国市場で話題を集めたから
SPACを使った上場は、アメリカ経済で大きな話題を集めました。
アメリカの調査会社・SPAC Researchによれば、2018年はSPACによる上場は46件でしたが、2019年には59件、2020年は248件、2021年は613件と右肩上がりに増加しています。
年度 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 |
IPO件数 | 46件 | 59件 | 248件 | 613件 |
参考:SPAC Research|Number of SPAC IPOs
著名経営者もSPACに関わっているから
ソフトバンクの孫正義氏や、元NPB監督のバレンタイン氏などの著名人がSPACの代表になっていることもあります。
著名人が代表を務める会社であれば安心感もあり、投資しやすいと考える投資家も多いでしょう。
資金調達もスムーズに進みやすくなるだけでなく、話題になりやすいため、自然と買収される企業の注目度も高まります。
上場時だけでなく買収時やその後も注目が集まりやすく、企業価値や株価に好ましい影響が及ぶと期待できます。
日本においてもSPACの解禁が検討されているから
SPACを解禁している国はアメリカだけではありません。
イギリスやドイツ、フランス、イタリア、カナダなどの欧米諸国や、香港、韓国などのアジア諸国でもSPACは解禁されています。
また、日本でもSPACの解禁が検討され、2021年6月の閣議決定を予定する成長戦略原案にも盛り込まれました。
2023年時点でもSPACを通じて海外市場に上場できる道は開かれており、利用する企業も増えるのではと考えられます。
SPAC(特別買収目的会社)のIPOと通常のIPOの違い
IPO(Initial Public Offering:新規株式公開)とは、証券取引所を通し、株式市場で不特定多数の投資家に向けて初めて株式を売り出すことです。
IPOにおいて売り出される株式は、上場前に株主が保有していた株式や、新たに発行した株式です。
いずれにしても広く売り出すことで、大規模な資金調達が可能になります。
また、企業名や事業内容なども広く知られるようになり、今後の企業活動にもプラスに働きます。
上場時の審査
IPOを実現するまでには、証券取引所や上場会社監査事務所などでさまざまな調査を受けなくてはいけません。それに加え、投資家に対して事業リスクを説明することなども必要です。
しかし、SPAC(特別買収目的会社)のIPOにおいては、既存事業がないため、投資家に対して事業リスクを説明する必要がありません。
また、IPO登録明細書も簡単に済むため、通常のIPOと比べると審査も簡素になります。
上場までの長さ
SPACは上場時の審査が簡素なため、上場までの期間も短くなります。そのため、比較的短期間で資金調達が必要なときの方法としても用いられます。
また、将来性が高い企業が見つかったときや、買収を予定している企業をほかの企業に買収されたくないときも、SPACを用いた上場を検討できるでしょう。
SPAC(特別買収目的会社)のメリット
SPAC(特別買収目的会社)を設立することやSPACを利用して上場すること、また、SPACに投資することには、それぞれメリットがあります。
主なメリットとしては、次のものが挙げられます。
- ベンチャー企業やスタートアップ企業が早期上場できる
- 短期間で大規模な資金調達が可能
- 海外市場での上場手続きが簡単になる
- 上場までのコストを削減できる
- 個人投資家も有望株に投資しやすくなる
それぞれのメリットについて説明します。
ベンチャー企業やスタートアップ企業が早期上場できる
上場するためには、株式会社としての事業経歴が一定以上あることや資本力、株主数などさまざまな条件が課せられます。
事業経歴が長く、すでに資本力や株主数も多い会社であれば上場を実現しやすいと考えられますが、事業経歴が短く、資本力などに乏しいベンチャー企業やスタートアップ企業は上場は難しくなります。
しかし、すでに上場しているSPACを利用すれば、合併するだけで上場が可能です。
事業拡大のための資金調達目的で早期上場を目指す場合は、SPACを通した上場を検討できるでしょう。
また、SPAC自体は事業を行わない「箱」のような存在のため、合併したからといって事業内容に影響を受けない点もSPACを通した上場のメリットです。
既存の事業内容のままや従業員構成、働き方のまま、資金調達や事業拡大が可能になります。
短期間で大規模な資金調達が可能
代表者の知名度や実績により、資金が集まりやすい点もSPACのメリットです。
毎年多くの企業が上場し、IPOを実施しますが、すべての企業が市場にインパクトを与えるほどの資金を調達できるわけではありません。
しかし、知名度や実績の高い人物が企業の代表を務めることが多いSPACを利用すれば、短期間で大規模な資金調達も実現しやすくなります。
海外市場での上場手続きが簡単になる
日本の市場においても、企業が上場することは簡単なことではありません。
証券取引所で定める基準を満たし、なおかつ証券取引所や上場会社監査事務所などの審査も通過しなくてはいけません。
また、海外市場に上場するときは、さらに上場手続きが複雑になると想定されます。そもそも海外での事業実績がない、拠点がないなどの状況では上場の条件を満たすことすら難しいでしょう。
しかし、海外のSPACと合併すれば、海外市場での上場も比較的簡単に行えます。
アメリカのように規模の大きな市場で上場すると、資金調達の規模も大きくなることが期待でき、世界規模の企業へと成長しやすくなります。
上場までのコストを削減できる
通常、上場までには時間がかかります。時間がかかる分、コストもかかり、規模が大きくはない企業にとっては大きな負担となります。
しかし、SPACを利用すれば、ベンチャー企業やスタートアップ企業などの合併される企業側には上場のコストがかかりません。上場までのコストを削減したいときにも、SPACを検討できます。
個人投資家も有望株に投資しやすくなる
通常、未上場の企業は株式を公開していないため、投資は困難です。
とりわけ少額投資は難しく、資金力に限りのある個人投資家にとっては、有望企業が見つかっても投資家として関わることは難しいでしょう。
しかし、すでに上場している企業であれば、少額投資も可能です。個人投資家も参入しやすいため、有望企業に対して早期から関わることが可能になります。
SPAC(特別買収目的会社)の問題点
メリットの多いSPAC(特別買収目的会社)ですが、いくつか問題となる点もあります。特に次の3点には注意が必要です。
- 法整備が十分ではない
- 信用力や成長性において不明瞭な企業でも上場できる
- 合併先が未定のSPACが増えている
それぞれの注意点について説明します。
法整備が十分ではない
SPACとしての上場は、比較的新しいスタイルのため、法整備が十分ではありません。
実際に、まだ日本ではSPACとしての上場が解禁されていないため、さまざまなケースを想定した法律が整っているとはいえません。
例えば、SPACが短期間で破たんしたときのリスクにどのように備えるか、投資家や合併相手企業をどのように保護するかなど、多くの課題があります。
信用力や成長性において不明瞭な企業でも上場できる
上場するのはSPACのため、合併予定の企業が厳しく上場審査を受けるわけではありません。そのため、信用力や成長性において不明瞭な企業でも、容易に上場できます。
合併後、比較的短期間で経営破たんする可能性もあり、投資家は思うような利益を得られないかもしれません。
また、SPACとして上場してから合併相手との交渉が本格的に始まるケースもあり、投資判断に迷う可能性もあります。
合併先が未定のSPACが増えている
合併先が決まらないSPACもあります。例えばアメリカでは、SPACは上場後24ヶ月以内に合併を完了させなくてはいけませんが、合併先が決まらず、上場が取り消しになるケースもあります。
SPAC Researchの報告では、2021年に実施されたSPACのIPOは613件ですが、2021~2023年までに合併完了したSPACは327件です。
この中には2019年、2020年に上場した案件も含まれると考えられるため、まだ合併が完了していない、あるいは取引中でもないSPACが多いことが推測されます。
年度 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
IPO件数 | 248件 | 613件 | 86件 | 60件 |
合併取引中 | ー | 7件 | 101件 | 46件 |
合併完了 | 64件 | 199件 | 102件 | 26件 |
参考:SPAC Research|Number of Deals Closed
参考:SPAC Research|Number of SPAC IPOs
米国ではSPAC閉鎖の流れも
上記の表からも、SPACの上場は2021年をピークとして急速に減少していることがわかります。
2022年は86件、2023年は60件(2023年3月24日時点)とピーク時の1/7以下に減少しました。
減少の原因としては、SPAC特有の問題も背景にあると考えられています。
例えば2020年以降、SPACを通して上場した企業が、投資家に説明した業績見通しや成長戦略が不適切であるなどの理由により、相次いで米証券取引委員会や司法省の調査を受けました。
これを受け、証券取引所自体がSPACへの監視強化の姿勢を示し、投資家の不安はますます高まっています。
実際に、2021年12月には米証券取引委員会の委員長は、SPACの情報開示を強化する旨を示唆しています。
今後もSPACの上場が難しい状態、また、上場しても2年以内に合併が完了できない状態が続くのではとの見方も有力です。
SPAC(特別買収目的会社)を活用した上場成功例
米国ではSPAC(特別買収目的会社)は縮小の流れにあるものの、まだSPACによる上場が解禁されていない日本では、今後どのような流れになるかは未知数です。
過去の上場成功例から、SPACによる上場の規模感を把握しておきましょう。
DKNG
DKNG(ドラフト・キングス)はオンラインカジノ企業です。スポンサーであるダイヤモンド・イーグル社が2019年12月にSPACによるIPOに合意し、4億USドルを出資しています。
買収による合併は2020年4月に終了し、合併後には5.3億USドルの追加出資も集まりました。
また、IPO開始時の株価は10USドルでしたが、合併時には19.35USドル、その後は74USドルにまで伸びています。SPACによる上場のなかでも、とりわけ成功したケースとされています。
Virgin Galactic
Virgin Galacticは宇宙開発ベンチャー企業です。
2019年10月にFacebookの幹部が運営するSPAC・Social Capital Hedosophiとの合併により、アメリカのニューヨーク証券取引所に上場しました。
なお、宇宙旅行会社として株式公開をした企業は、Virgin Galacticが最初とされています。初値は12.34USドルでしたが、上場後も株価は上昇し、一時は60USドルを超えました。
Luminar Technologies
Luminar Technologiesは、自動運転用レーダー測定器の開発・販売を手掛ける企業です。VOLVOなどの世界的自動車メーカーに採用されており、今後の成長も期待されています。
Luminar Technologiesは、2020年12月にSPACであるGores Metropoulosにより買収され、NASDAQに上場しました。
上場後も多くのメーカーとの商談が開始されており、今後も株価上昇の余地があると見られています。
Redwire
Redwireは宇宙スタートアップ企業の1つで、複数の企業を傘下に抱えるグループ企業でもあります。
SPACであるGenesis Park Acquisitionと合併し、ニューヨーク証券取引所への上場を果たしました。
なお、Redwireの傘下企業の多くは長期にわたって黒字を出しており、高い健全性も注目されています。
また、Redwire自身も2021年の収益は1億6,300万USドルを見込んでおり、収益力の高さも特徴です。
SPAC(特別買収目的会社)を活用した上場失敗例
SPAC(特別買収目的会社)を活用して上場したものの、思うような成果が得られていないケースや、問題点が発覚したケースもあります。
失敗の定義は個々によって異なりますが、一般的に失敗とされている上場例をいくつか紹介します。
NiKola
NiKolaは電気自動車トラックのメーカーです。2020年6月にSPACを通して上場しました。
上場直後の時価総額はアメリカの老舗自動車メーカー・Ford Motorを超え、市場の注目を集めました。
しかし、2020年9月、NiKolaが電動化の技術や受注実績などにおいて、虚偽の説明を投資家にしていたことが判明。
米証券取引委員会や司法省が調査に乗り出し、NiKolaの会長は証券取引法違反や詐欺容疑により提訴されました。
Lucid Motors
Lucid Motorsは、2021年2月、SPACであるChurchill Capital IVとの合併を通じ、上場することを発表していました。
しかし、2021年12月に証券当局に提出した書類には、米証券取引委員会から請求された特定の調査に関する書類も含まれていたことが発覚。
合併の見通しに問題があること、また、Lucid Motorsが投資家に説明していた内容に何らかの乖離があることなど、多くの疑念を呼びました。
このニュースを受け、Lucid Motorsの株価は9.5%以上下落し、市場にもインパクトを与えています。
将来性のあるベンチャー企業に注目しよう
SPAC(特別買収目的会社)と合併することで、事業実績や資本金などが上場の条件を満たさないベンチャー企業やスタートアップ企業も、早期に上場することが可能です。
また、上場は日本の証券取引所だけに限られていないため、アメリカなどの海外市場で上場することも夢ではありません。
日本でもSPACによる上場が解禁されれば、多くのベンチャー企業やスタートアップ企業が早いタイミングで上場し、豊富な資金力をベースに事業開発をペースアップすると予想されます。
また、優れた技術や新規性の高いビジネスモデルが短期間でグローバル化を果たし、世界を動かす原動力を持つようになると期待できるでしょう。
ベンチャー企業への転職をお考えの方は、企業の技術力だけでなく経営状況にも注目してみてはいかがでしょうか。
SPACなどを利用して、早期に上場する可能性もあり、働き方にも大きな影響が及ぶことがあります。
また、フォルトナベンチャーズにもぜひご相談ください。フォルトナベンチャーズでは、ハイクラスのベンチャー転職をサポートしております。
相談は無料です。まずは気軽にお問い合わせください。