二酸化炭素排出量実質ゼロを目指すカーボンニュートラルの意識が高まり、脱炭素関連のビジネスが注目の的になっているところです。
この領域に参入するスタートアップも続々と出始め、今後の発展が期待されます。
今回は脱炭素スタートアップの市場規模や現状、成長中の企業などを紹介します。
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第二次クリーンテックブームの到来
クリーンテックとは、再生不能資源を減らして、従来と同様の効能をもたらす製品・サービスを生み出すスタートアップのことです。
クリーンテック関連市場は盛り上がりを見せていますが、現在のブームは二次的なものです。
2000年代後半に第一次クリーンテックブームが沸き起こったものの、長期的に続かずに没落したという歴史があります。
第二次クリーンテックブームは最新のデジタル技術を活用し、幅広い業界で新興企業が生まれているのが特徴です。
クリーンテックの今までと、現在の状況を解説します。
不完全燃焼だった第一次クリーンテックブーム
2000年代後半に米国のシリコンバレーで勃発したクリーンテックブームは、一部の企業を除き、長期的な資金調達を実施できずに長く続きませんでした。
事業拡大に必要な技術力不足、再生可能エネルギー分野における中国企業との価格競争の敗北などが失敗の要因だと考えられています。
他方、欧州の一部や日本では1990〜2010年代に再生可能エネルギーの固定価格買取制度が開始され、関連技術への投資が進みました。
ブームのきっかけはデジタル技術の進歩による影響
近年環境に配慮した事業を展開する新興企業への投資が再拡大しており、第二次クリーンテックブームが到来したといわれています。
第一次ブームとの違いは、技術の発展が著しいAIやIoTなどのデジタル技術を用いて、幅広い業界で気候変動問題を扱うスタートアップが誕生したことです。
エネルギー業界をはじめ、建設業界におけるビルや住宅の省エネ、輸送関連の業務効率化・自動化などさまざまな領域で普及を見せています。
パリ協定の採択によって、各国で温室効果ガスの排出削減における明確な目標が設定されたことがブーム勃発の主要因だとみられています。
クリーンテックにはエコシステムが重要
新たなテクノロジーを用いて温室効果ガスの削減に挑むクリーンテックにとって、欠かせない存在とも呼べるのがエコシステムです。
エコシステムとは本来、自然界において生物とそれを取り巻く環境が互いに依存し合って存在している状態を指します。
転じてビジネスの世界では、複数の企業が協業して、新たな事業や付加価値を生み出すことという意味も持ちます。
地域ごとにエコシステムを持つ都市が多く、クリーンテックのつながりを重視している例では、スウェーデンの首都・ストックホルムやシンガポールなどが代表的です。
各地域のエコシステムの特徴
ストックホルムのエコシステムは、クリーンテック関連の成功事例とも評されます。
ノルディック地区では年間25ものスタートアップを輩出した実績を持ち、ヘグダーレン地区でもクリーンテック関連企業の集積が確認できます。
ヘグダーレン地区は電気自動車向けの電池技術を開発し、欧州投資銀行から多額の融資を受けた成功事例もあるほどです。
またシンガポールでは、政府が主体となって新興企業の育成に励んでおり、環境プロジェクトに必要な資金を募るネットワークも準備されています。
脱炭素とスタートアップとの関係
環境関連ビジネスに取り組むスタートアップに共通する目標といえるのが、「脱炭素化」です。
人間の活動に起因する温室効果ガスの発生抑制を目指して取り組んでいます。
近年はパリ協定の採択や再生可能エネルギーの導入コスト低減など、脱炭素関連ビジネスを取り巻く環境が改善されてきています。
このため、資金調達の活発化・市場の成長が見られるようになっているのです。
脱炭素とは温室効果ガスを減らす取り組み
脱炭素とは、人間の活動によって生じる温室効果ガスの排出量を削減しながら、排出がどうしても避けられない部分に関しては、吸収量と除去量を差し引いて実質ゼロを目指す活動のことです。
温室効果ガスは二酸化炭素やメタン、フロンガスなどの総称で、ガスや電力の使用、航空機や自動車での移動、工業や農業の生産活動などで発生します。
人間の活動で発生する温室効果ガスの大部分は、地球温暖化への影響が大きい二酸化炭素だと考えられています。
脱炭素はカーボンニュートラルとも呼ばれ、我が国の目標は2050年までに、削減した排出量と吸収量・除去量を差し引きゼロの状態にすることです。
脱炭素関連のスタートアップ市場が伸長傾向
脱炭素関連のスタートアップ(クライメートテック)の市場は年々肥大化。
今後も成長が続くと予測され、将来性が非常に高い領域だと考えられています。
ベンチャーキャピタル(VC)からのクライメートテックの資金調達額も伸長傾向で、勢いが加速しています。
2010年代前半にもVCによるクリーンテック投資が行われましたが、結果はふるわず、失敗に終わりました。
ハードウェアや新製品の開発を手掛けるクリーンテック企業は競争力を維持できず破綻し、VCは投資金額の大半を失ってしまったのです。
近年は当時のクリーンテックブームと比較し、ビジネスを取り巻く環境が大いに改善しています。
例えば、国際的な脱炭素化の進展、企業単位での脱炭素化の実施、再生可能エネルギー導入のコスト減、デジタル技術を活用した新たなビジネスモデルの登場などが挙げられます。
クライメートテックに特化したメガファンドも登場。当時のクリーンテック投資と異なり、見掛け倒しではない確固たる勢いを感じられます。
我が国の脱炭素スタートアップの現状
日本の脱炭素関連ビジネスは、欧米と比較すると遅れているのが正直なところです。
原因は資源や雨量の不足といった環境的な要因と、国家・行政のサポートが遅れていたことが挙げられます。
ただ近年は状況に改善が見られ、ビジネスとして洗練されつつあります。
停滞期を抜けた日本の脱炭素関連スタートアップは、従来と一線を画すスピードで発展を遂げる可能性が高いでしょう。
エネルギー供給構造の変革を目指す
日本は今まで継続的に取り組んでいた脱石炭・脱石油に加えて、現在は脱炭素も進めています。
我が国は、地理的な要因でエネルギー資源の国内調達が難しく、化石燃料のほとんどを海外からの輸入に頼っている状態です。
脱炭素化を通じて、依存型のエネルギー構造から脱却を目指し、同時に温室効果ガスの排出削減量の達成を目指しています。
気候条件や制度の関係で普及が遅延
脱炭素関連のビジネスを考えるに当たっては、各国の気候条件や自然、現行のシステム、規制、制度を考慮する必要があります。
日本は平地や雨量が少なく、太陽光発電の普及が難しいという環境的な制約があり、制度面でも欧米と比較して電力自由化が遅れているのが特徴です。
ただ近年は、再生可能エネルギーの普及、企業レベルでの脱炭素経営の加速、電力システム改革の進展など変化の兆しが見られます。
ビジネスとしても具体的な課題や悩みが明確化されつつあり、それらの解決を目指すスタートアップが登場するに至っています。
脱炭素スタートアップとIPO
グローバルでは新規株式公開、すなわちIPOを果たす脱炭素スタートアップが誕生しています。
実証的なビジネスのため萌芽まで時間を要する分野と考えられていましたが、VCの忍耐強い支援もあって、市場で確固たる地位を築く企業が増えつつあります。
IPOを果たした企業は、電気自動車や自動運転技術、リチウムイオン電池、3Dプリンターなど社会的な需要が大きな領域で展開しているのが特徴です。
IPOを果たす企業が増加傾向
脱炭素スタートアップ市場は近年、急速な発展を遂げ、ユニコーン企業やM&Aが増加傾向です。
IPO事例も徐々に増え始め、ここ数年で急増しています。
環境エネルギー技術のコンサルティング会社が、多数の外部投資家や専門家と共に作成し2009年から毎年発行しているリスト「The Global Cleantech 100」には、将来有望な脱炭素企業がまとめられています。
The Global Cleantech 100に掲載された企業は花開くまで長い年月を要するとの見込みでしたが、ようやくIPO事例が出るようになりました。
研究段階の技術を社会的に実装できるレベルまで昇華することが難しいため、脱炭素関連ビジネスでIPOを果たすのは、長期化する傾向があります。
第一次クリーンテックブームが失敗したのも、IPOまでの時間が長いことが原因と見られています。
脱炭素スタートアップのIPO事例
脱炭素スタートアップでIPOを果たした事例を紹介します。
ChargePoint | 電気自動車の普及に必要な充電ステーションの整備に取り組む米国の企業 |
Innoviz Technologies | 自動運転用の3Dセンサーの製造に取り組むイスラエルの企業 |
Li-Cycle | リチウムイオン電池のリサイクルに取り組むイスラエルの企業 |
Desktop Metal | 金属材料の3Dプリンターを手掛ける米国の企業 |
カーボンニュートラルの達成には、より高度で幅広い技術革新が必要です。
IPO事例が増え始めたことで投資はより活発化すると推測されます。日本で脱炭素関連のユニコーン企業が誕生する未来も近いのではないでしょうか。
注目したい脱炭素スタートアップ企業5選
脱炭素スタートアップへの転職を検討中の方に、独創的な事業に取り組む将来有望な企業を紹介します。
一口に脱炭素関連ビジネスといっても、その範囲は幅広く、ソフトウェアや発電機、ヨガ用レザーマットなど多岐にわたります。
今回紹介する企業は、次の5つです。
- アスエネ
- PEEL Lab
- チャレナジー
- ゼロボード
- REXEV
それぞれのビジネスの特徴や、具体的なサービスについて解説します。
1.アスエネ
二酸化炭素の排出量を算出できるソフトウェア「アスゼロ」を提供し、企業の脱炭素経営を支援しているスタートアップです。
企業として脱炭素化の必要性は把握しているものの、削減の前段階として、自社がどの程度CO2を出しているか把握できていない場合が多いのが実情です。
特に障壁となっているのが、データ算出にかかる手間の大きさでしょう。
アスゼロでは排出量を簡単に削減できる仕組みを構築し、ユーザーは領収書の画像をスキャンしてシステムにアップロードするだけで、データの取り組みが完了します。
現在、上場企業から中小企業まで200社以上で導入されており、今後も機能改善を続けながら事業拡大を目指す意向です。
参考:アスエネ公式HP
2.PEEL Lab
植物由来のレザーヨガマットを提供する、日本発のスタートアップです。
このマットの主な素材には竹が採用され、植物や石油が原料のプラスチック系合成皮革に取って代わって、主流になる可能性を秘めています。
PEEL Labは次の3つを目的に、革新的で持続可能な素材を用いてプロダクトを開発するという理念を持つ企業です。
- 地球温暖化の抑制
- 食品廃棄ロスの削減
- 動物の虐待回避
PEEL Labが開発した素材は、全米最大の動物愛護団体であるPeTAの公式認定を受けており、動物愛護の精神に寄り添った高品質のプロダクトを提供しています。
3.チャレナジー
台風の強風下でも、安定した発電を実現する「垂直軸型マグナス式風力発電機」を提供しているスタートアップです。
プロペラ式と比べて回転数が少ないため、騒音やバードストライク(空を飛ぶ鳥とプロペラの衝突)を防げるのも特徴です。
離島のような発電機の設置が困難な地域への普及も期待でき、チャレナジーは将来的に再生可能エネルギー普及のキーマンとも呼べる存在になるかもしれません。
参考:チェレナジー公式サイト
4.ゼロボード
専門知識がなくても、二酸化炭素排出量の算定と可視化ができるクラウドサービス「zeroboard」を提供する企業です。
温室効果ガスの排出量算定・報告の基準「GHGプロトコル」では、排出されるCO2を次の3つに分類しています。
- 自社で化石燃料を燃やしたときに発生する二酸化炭素(Scope1)
- 他社から供給される電気を使用したときに発生する二酸化炭素(Scope2)
- 上流・下流のサプライチェーンが排出する二酸化炭素(Scope3)
特にScope3の算定には大量のデータとノウハウが必要で、一定以上の時間をかけなければ実現が難しいのが特徴です。
zeroboardを導入すれば、自社だけでなくサプライチェーン全体のCO2排出量の見える化を実現できます。
参考:ゼロボード公式サイト
5.REXEV
電気自動車の価値最大化を目指すスタートアップで、自治体や大手企業と連携したカーシェア事業や、エネルギーの地産地消を目的とするエネルギーマネジメント事業を手掛けています。
2021年には大規模な資金調達を実施し、翌年には東京都の再エネシェアリング推進事業に参加。
官民連携で、電気自動車の普及を軸に事業を拡大させています。
参考:REXEV公式サイト
フォルトナベンチャーズはスタートアップ領域で活躍してきた方や、これから活躍を目指すハイクラス人材のサポートに実績があるエージェントです。
脱炭素ビジネスを手掛けるスタートアップへの転職を希望するなら、ぜひご活用ください。
脱炭素スタートアップ市場は今後の伸びしろが期待できる
クリーンテックブームは過去に一度終焉を迎えましたが、デジタル技術を活用したこの度の第二次ブームは本物だといえるでしょう。
さまざまな領域で脱炭素関連スタートアップが創設され、再生可能エネルギーの発電機や、二酸化炭素の排出量を算出するソフトウェアなど独創的な事業を展開しています。
グローバルではIPOを果たす環境関連スタートアップも出ており、日本でも遅ればせながらユニコーン企業の誕生が想定されます。
脱炭素スタートアップ市場は著しい成長が期待できる領域のため、転職を目指すならおすすめの市場です。
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