コラム

革新的な撮影技術バーチャルプロダクションとは?メリットや日本企業の導入事例を解説

バーチャルプロダクションとは、3DCGによって作られた背景の中で撮影する手法のことで、映画やドラマなどのさまざまな場面で活用されています。実際のところバーチャルプロダクションにはどのようなメリットがあるのか、また今後どのような発展が予測されるのか、事例を通して見ていきましょう。

バーチャルプロダクションとは?

バーチャルプロダクションとは、CGで作成された画像とリアルの被写体を組み合わせて撮影する技術です。今までのCGを活用した撮影技術とは何が異なるのか見ていきましょう。

実物の被写体とCGの同時撮影を可能にした撮影技術

以前からCGとリアルの融合技術は撮影に幅広く用いられてきましたが、大抵はリアルの被写体がブルーバックやグリーンバックの中で演技し、後から背景にCGで作成した画像を重ねて完成させていました。

しかし、バーチャルプロダクションでは3DCGで作成した立体的なバーチャルの背景の中で、リアルの被写体が演技をします。後で背景を編集する必要がないため、リアルの背景の中で演じるのと変わらない工程で撮影が進むでしょう。

また、演じる側も「実際にはないもの」をイメージしながら演じる必要がないため、よりリアリティのある演技が可能になります。監督や撮影スタッフにとっても同様です。「実際にはないもの」をイメージしたり、撮影した画像を確認しながら演技指導をしたりする必要がないので、全員が同じイメージを共有でき、よりクオリティの高い作品へと仕上げることができます。

現実世界で撮影したかのような映像クオリティ

3DCGで作成した映像は、バーチャルとはいえリアリティが高く、まるでその場に存在しているかのようなクオリティです。そのため、従来のブルーバックやグリーンバックで組み合わせるCGとは異なり、目線とのずれや不自然な重なりなどがなく、現実世界で撮影した下のような映像クオリティに仕上がります。

また、被写体の演技も3DCGの中で演じることで、より自然なものになり、映画やドラマのクオリティ自体も向上するでしょう。現実世界の中で演じるのと何ら変わらないクオリティを追求するときも、バーチャルプロダクションの導入を検討できます。

急拡大する市場規模と今後の動向

バーチャルプロダクションを利用して撮影を行うと、ロケに出かけたり、後でCGを組み合わせて編集したりといった工程を省略できます。工程が減ることで短時間での撮影が可能になるだけでなく、撮影コストも大幅に削減することが可能です。

このような理由から、予算が十分にある映画やドラマだけでなく、インディーズ映画やミュージックビデオなどの低予算の撮影にも使われるようになってきました。バーチャルプロダクションの市場は急拡大し、今後もさらに利用の幅が広がると考えられています。

アイスランドの調査会社Research and Marketsによれば、バーチャルプロダクションの市場規模は2021年時点には24億米ドルでした。今後も年17.6%で成長し、2026年には54億米ドル、1円=130円で換算すれば7,020億円にまで拡大すると試算されています。

参考:日経クロステック/映像界に激震、早くて安い「バーチャルプロダクション」が急成長

バーチャルプロダクションの3つのメリット

バーチャルプロダクションの市場規模が急拡大し、また今後も成長していくと予想されるのは、従来の撮影技術と比べて多くのメリットがあるからに他なりません。主なメリットとしては次の3つが挙げられます。

  • 撮影コストが削減できる
  • 制作時間を短縮できる
  • 場所や天候・時刻の制約を受けない

それぞれのメリットについて見ていきましょう。

1.撮影コストが削減できる

ロケ地で撮影するためには、イメージに近い場所の選定から撮影許可の取得が必要なだけでなく、場合によっては場所を占有するための使用料も発生します。撮影が長引ければ長引くほど、使用料も高くなるため、撮影コストがかかるでしょう。

イメージ通りの建物や樹木などがない場合には、建築や植林なども必要です。クオリティにこだわればこだわるほど費用が増え、収益化しにくくなります。また、ロケ地での撮影が何日も続くときには、演者やスタッフの宿泊費用や食事代などもかさむでしょう。

しかし、バーチャルプロダクションを利用すれば、ロケに行かずともスタジオ内で撮影を完了することが可能です。イメージ通りの場所を探したり、建物を建てたりする必要がなくなるだけでなく、スタッフの宿泊や食事のコストも削減できます。

また、バーチャルプロダクションを利用すれば、従来のCGを活用したスタジオ撮影よりもコストダウンが可能です。従来方式でCGとリアルの被写体を組み合わせる場合には、撮影後に編集作業が欠かせません。リアルの被写体と被らないように細心の注意を払いつつ、自然な背景を作成するためには、莫大な時間をかけた作業が必要になります。

バーチャルプロダクションでは最初にCGを作成してその上に被写体を被せていくため、撮影後の編集作業にはほとんど時間や手間がかかりません。編集作業のコストを削減することで、全体的なコスト減も実現できます。

2.制作時間を短縮できる

バーチャルプロダクションを利用すれば、撮影後の編集作業にほとんど時間がかからなくなるため、制作時間を大幅に短縮できます。また、最初に作成したCGに補正や修正が必要なときも、撮影を進めつつ同時に作業ができるので、制作時間が長引くことはありません。

ロケに行かないことでも、制作時間を大幅に短縮できます。ロケに行くためには、ロケ地の選定や撮影許可の取得が事前準備として必要になりますが、バーチャルプロダクションではすべてスタジオ内で撮影できるため、選定や許可の取得にかかる時間も不要です。

また、ロケ地が決まった後でも、毎日撮影するだけでも往復の時間がかさみます。通うことが難しい地域のロケ地であれば、演者やスタッフの拘束時間がさらに長くなるでしょう。

バーチャルプロダクションにより制作時間を短縮できると、その分、コストも削減できます。短時間でハイクオリティの映画やミュージックビデオ、テレビCMなどを作成したいときも、バーチャルプロダクションを活用できるでしょう。

3.場所や天候・時刻の制約を受けない

バーチャルプロダクションによる撮影はスタジオ内で実施するため、場所の制約は受けません。例えば、本来であれば撮影が禁じられている地域や、山奥などのアクセスが不便なエリア、スタッフ総出で行くだけでもコストがかさむ海外などで撮影したいときも、バーチャルプロダクションであればすべてスタジオ内で対応できます。

天候や時刻の制約を受けないことも、バーチャルプロダクションのメリットです。例えば、夕焼けの中で撮影したい場合でも、ロケに出かけた日に夕焼けが見られるとは限りません。雨天や曇天で思ったような画に仕上がらないときには、また別の日にチャレンジすることが必要です。

天候が良く、理想的な夕焼けが見られたとしても、撮影に成功するとは限りません。演者が監督の思ったような演技をせず、リテイクを繰り返している間に夜になってしまうこともあります。

しかし、バーチャルプロダクションであれば、天候や時刻を問わず、理想的な夕焼けを背景にすることが可能です。時間が経過しても夕焼けのまま変わらないので、リテイクが重なったからといって撮影には影響が及びません。

また、場所や天候・時刻の制約を受けないことで、撮影に待ち時間が生じず、制作時間を短縮できます。時間が短縮できると制作コストも削減でき、低予算でハイクオリティな撮影を実現しやすくなるでしょう。

バーチャルプロダクションの種類と活用事例

バーチャルプロダクションは大きく次の4種類に分けることができます。

  • LEDディスプレイベース
  • グリーンスクリーンベース
  • パフォーマンスキャプチャベース
  • バーチャルカメラベース

それぞれの特徴や違い、実際に利用して撮影した事例について見ていきましょう。

LEDディスプレイベース

LEDディスプレイベースとは、リアルとバーチャルの融合をリアル寄りに実現する手法です。LEDディスプレイで構成されたスクリーンを使用し、リアルなライティングで作品を仕上げます。

このライティングがLEDディスプレイベースの最大の特徴です。リアル感を演出するエフェクトとなるだけでなく、バーチャル空間で完結する映像と被写体を自然な形でリンクさせます。

また、撮影中にカメラの中でほぼすべての編集作業ができることもLEDディスプレイベースの特徴です。LEDディスプレイベースにより撮影された作品としては、2019年にDisney+で配信が開始されたマンダロリアン(スターウォーズのドラマシリーズ)などが挙げられます。

グリーンスクリーンベース

グリーンスクリーンベースとは、従来のCGとリアルの融合であるグリーンバックやブルーバックを活用した合成手法の延長上にある手法です。カメラトラッキングシステムなどを活用し、よりリアルな3DCGを実現します。

グリーンスクリーンベースでは、3DCGの視差効果を即時に再現することが可能です。代表的な作品としては、2016年に公開されたDisney映画のジャングル・ブックが挙げられます。

パフォーマンスキャプチャベース

パフォーマンスキャプチャベースとは、演者の動きや表情をセンサーでキャプチャし、リアルタイムでバーチャル空間のアニメーションにリンクさせる手法を指します。グリーンスクリーンベースと同じくリアルタイムレンダリングエンジンが活用され、よりリアルな動きを実現することが可能です。主な作品としては、2014年に公開された20世紀フォックス映画の猿の惑星:新世紀が挙げられます。

バーチャルカメラベース

バーチャルカメラベースとは、バーチャル空間にあるカメラとリアルタイムにリンクしたカメラなどを活用し、実写映画と同じ感覚で撮影する手法を指します。グリーンスクリーンベースと同じく、カメラトラッキングシステムなどが活用されている点が特徴です。主な作品としては、2019年に公開されたDisney映画のライオン・キングが挙げられます。

大手企業のバーチャルプロダクション導入事例

バーチャルプロダクションに取り組む大手企業も増えています。SONYの事例について見ていきましょう。

事例:SONYの常設スタジオ「清澄白河BASE」

SONYグループのソニーPLC株式会社では、映像や体験型コンテンツの制作に活用できるバーチャルプロダクションの常設スタジオ「清澄白河BASE」を開設しました。

人が集まることや移動などが制限される中、時間や場所にとらわれずに撮影できるバーチャルプロダクションは今後もニーズが高まると予想されるでしょう。清澄白河BASEではLEDウォール型のスクリーンとインカメラVFXなどを組み合わせ、被写体の動きに合わせて背景のCGが追従するシステムを実現しています。

参考:清澄白河BASE公式サイト

ベンチャー企業のバーチャルプロダクション導入事例

ベンチャー企業の中にも、バーチャルプロダクションを導入した撮影を行う企業が増えています。いくつかの事例を見ていきましょう。

事例1.AOI Pro.「Vaundyの新曲MV」

AOI Pro.とヒビノ、TREE Digital Studioの3社が協力し、マルチアーティストとして知られるVaundy氏のMV「泣き地蔵」をバーチャルプロダクション技術によって制作しました。実写でないと生み出せない世界観をCGアーティストがバーチャルプロダクションにより再現し、想像力の先にある映像のリアル化に成功しています。

また、少し危険なシーンや撮影が困難になりそうなシーンにも安全性を保ちつつ挑戦できる点が、バーチャルプロダクションの魅力の一つです。ミュージックビデオというある意味バーチャルな世界観を、バーチャルな映像を用いてリアリティを追求することで、リアルでもバーチャルでもない独自の世界として描くことができます。

参考:AOI Pro.によるVaundy「泣き地蔵」の紹介

事例2.アイレップ「ベイクルーズのEC販促CM制作」

アイレップでは、LEDウォールとインカメラVFXを用いたバーチャルプロダクションを活用し、国内初のコマーシャルフィルムを作成しました。

ベイクルーズのEC販促を目的としたコマーシャルフィルムで、まるで数か国でロケ撮影をしたかのような映像をバーチャルプロダクションのあるスタジオで、わずか1日で完成させています。時間だけでなく予算も大幅に抑えることができ、資本力がある大企業でなくても資金力を必要とする撮影の実現が可能であることを示しました。

参考:アイレップ「ベイクルーズのEC販促CM制作」のプレスリリース

バーチャルプロダクション対応のスタジオ

バーチャルプロダクション技術を活用すれば、時刻や天候に左右されずに常にイメージ通りの映像を室内で作成することが可能です。

国内にはバーチャルプロダクションに対応したスタジオも増えており、より短期間かつ低予算でリアルとバーチャルを融合した映像を作成できるようになってきました。いくつかのスタジオをピックアップし、導入されている技術や特徴について具体的に解説します。

xR STAGE TOKYO

xR STAGE TOKYOは、LEDウォール型のバーチャルスタジオで、縦2.5m×横3mのスクリーンが2枚背景に配置され、床面には厚さ4.7mmのBlackMarble BM4が敷かれています。一般的なバーチャルプロダクションに加え、床面にもスクリーンを敷き詰めた形のため、足元までバーチャル空間を表現することが可能です。

そのため、被写体のアップ画像だけでなく全身のショットも調整作業なしに撮影することができ、より撮影の幅が広がりました。また、LEDインカメラVFXも採用し、仮想空間で撮影しつつレンダリングやLED送出の制御が可能になっています。作業自体はシンプル化しつつも、安定度の高い映像が特徴です。

参考:xR STAGE TOKYO開設のプレスリリース

Hibino VFX Studio

Hibino VFX Studioは撮影フローを大きく変えるインカメラVFXを導入し、LEDディスプレイ全体に3DCGの空間を投影しています。スタジオ自体は50坪と一般的な広さですが、ビューファインダーからは壮大な奥行きの空間が広がり、スケールの大きな画像の構築が可能です。

Hibino VFX Studioでは、環境に優しい背景美術を目指しています。美しい映像を撮影するために自然に足を踏み入れるよりも、LEDディスプレイなどの科学技術を用いてバーチャルな自然を再現することで、自然保護と資源の再利用を実現してきました。

また、Hibino VFX Studioは都心部のアクセス便利なロケーションにあり、スタッフや演者の負担を軽減できる点も特徴です。郊外に出かけないことでも二酸化炭素の排出を削減し、より環境に優しい撮影を実現します。

参考:Hibino VFX Studio公式サイト

LED STUDIO™

LED STUDIO™は、CG画像とLEDライティング技術を融合させて高精細のバーチャル空間を作るスタジオです。微細なLEDを組み込んだ縦3.2m×横4.8mの巨大なLEDウォールと高照度のLEDソフトライトにより、多彩なライティングエフェクトを実現し、バーチャルでありながらもリアルを追求した撮影を実現しています。

また、照明のセッティング作業が効率化され、イメージの再現を短時間で実現できるのもLED STUDIO™の特徴です。演者やスタッフの待ち時間が減り、撮影の負担が軽減されるだけでなく、気持ちの流れを重視した臨場感のある撮影を可能にしています。

短時間でライティングや画像の調整ができることで、演者の拘束時間が減り、著名人のスケジュールを押さえやすい点もLED STUDIO™ならではの特徴といえるでしょう。海外などのアクセスしづらい場所もリアルに再現できるので、時間をかけずにこだわりの映像を具体化できます。

参考:LED STUDIO™ニュースリリース

様々な産業での活用が期待されるバーチャルプロダクション

バーチャルプロダクションは、今後、様々な産業においての活用が期待されます。映画業界や音楽業界だけでなく、一般企業のコマーシャルやインディーズ映画などにもさらに活用されるでしょう。

フォルトナベンチャーズでは、コンサルタントが転職を希望される方のご希望や適性に合わせ、将来性の高いベンチャー企業やスタートアップ企業をご紹介しています。バーチャルプロダクションのような最新デジタル技術を活用する企業への転職をご検討の方も、ぜひお気軽にご相談ください。

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