デロイト トーマツ コンサルティング合同会社(以下、DTC)は、世界最大級のプロフェッショナルサービスファームであるデロイトの一員として、日本のコンサルティングサービスを担う企業です。提言と戦略立案から実行まで一貫して支援する「総合コンサルティングファーム」として、クライアントの持続的で確実な成長を支援するだけでなく、社会課題の解決と新産業創造にも貢献しています。
なかでも、FSI(Financial Services & Insurance)部門におけるINS(Insurance)ユニットは、保険業界に特化したコンサルティングサービスを提供するユニットです。保険会社が直面するさまざまな課題に対応するため、包括的なコンサルティングサービスを提供しています。
今回は、FSI部門リーダー兼INSユニットリーダーの守屋様、マネジャーの雑賀様、シニアコンサルタントの三浦様にインタビューをさせていただきました。
インタビュアーは、DTC出身のフォルトナ上野・水上が務めます。
守屋 孝文様 プロフィール
執行役員 パートナー FSI 部門リーダー兼INSユニットリーダー。
ソフトウェア業界を経て2007年にデロイト トーマツ コンサルティングに入社。企業のテクノロジー戦略立案からM&Aに伴うシステムインテグレーションやITガバナンスの構築など幅広い経験を有する。
現在は、企業のDX推進、主にクラウドを活用したレガシーシステムのモダナイゼーションに関する戦略策定から計画、実行までEnd to Endで支援実績あり。
雑賀様 プロフィール
マネジャー。
日系生命保険会社を経て現職。支社業務(営業)から商品開発、保険事務まで個人保険領域での幅広い業務知見を有する。
特に保険事務領域におけるオペレーション改革や業務効率化を専門としており、生保クライアントに対し複数の支援実績あり。
三浦様 プロフィール
シニアコンサルタント。
日系大手の損害保険会社にて、主にIT企画部門に所属。IT企画部では、社内システムに関する企画業務を担当したほか、システム開発を担うグループ会社へ出向し、開発業務に従事。その後は商品開発部門に異動し、商品の企画や要件定義など経験。
現在は、システム企画や開発、商品企画の経験を生かし、システム刷新プロジェクトの企画やPMOなどの支援実績あり。
業界経験・テクノロジーの知見を武器に、保険領域の変革に挑む
[上野]
本日は宜しくお願いいたします。
まずは皆さまのご経歴からお伺いしてもよろしいでしょうか?
[守屋様]
私のキャリアのスタートは、金融領域を中心としたテクノロジー分野で、エンジニアとして業務に従事していました。
その後、2007年にDTCへ入社し、現在で18年目を迎えます。DTCでは、テクノロジー専門のオファリングチームに参画し、長年にわたり同チームのリーダーとして組織を牽引してきました。特に保険業界のクライアントを対象に、M&Aに伴うシステム統合や業務変革、基幹システム刷新など、大規模プロジェクトのご支援に強みをもっております。
今期(2025年6月~)から、FSI部門リーダー、INSユニットリーダーに着任し、金融業界における新たなビジネス価値の創造と大規模なトランスフォーメーションの実現をテーマに掲げて取り組みを行っています。
[雑賀様]
私のキャリアは、国内大手の生命保険会社での勤務から始まりました。前職では、地方支社での業務や保険金支払関連の事務企画、また人材開発といったスタッフ部門の業務まで、幅広い領域を経験してきました。
DTCには2021年に入社し、現在5年目を迎えます。コンサルタントランクから参画し、前職で培った事務企画の知見を軸に、生命保険会社様向けのオペレーション改革やBPR(業務プロセス再設計)案件を中心に担当しています。
[三浦様]
私も、前職は日系大手の損害保険会社にて、主にIT企画部門に所属しておりました。IT企画部では、社内システムに関する企画業務を担当したほか、システム開発を担うグループ会社へ出向し、実際の開発業務にも従事しました。その後は商品開発部門に異動し、商品の企画や要件定義など、ビジネスとシステムの橋渡しとなる業務を経験しました。DTC入社後は、これまでのシステム企画や開発、商品企画の経験を生かし、システム刷新プロジェクトの企画やPMOとしての支援に携わっています。現在は、雑賀と同じプロジェクトに参画しており、ともに生命保険会社様のシステム刷新に向けた企画フェーズを担当しております。
[水上]
皆さま、事業会社から転職されたのですね。他のコンサルティングファームではなく、なぜDTCを選ばれたのでしょうか?
[雑賀様]
一番強く感じたのは「人の良さ」でした。クライアントにしっかり寄り添って伴走していく姿勢に表れているように、人に対して真摯に向き合う姿勢が強く印象に残りました。一方で、面接では鋭い質問をいただくなかで、視座の高さや優秀さを目の当たりにし、自分もこの環境に身を置くことで、人の良さとプロフェッショナリズムを両立しながら、より成長できるのではないかと感じました。
最終的には、そうした「社職員の魅力」が、DTCを選んだ一番の決め手になりました。
[三浦様]
雑賀と同じく、対応してくださった社職員の方々の「人の良さ」や「雰囲気の良さ」が入社の決め手でした。挑戦したいことに対して否定せず、きちんと応援してくれる空気感があり、周りが自然と支え合っている、そんな会社だと感じました。だからこそ、安心してチャレンジできる環境だと感じ、DTCへの参画を決めました。
規制・技術革新・人口減少──End to End支援で挑む、金融変革の最前線
[上野]
DTCのなかでも、皆さまが所属されているFSI部門とはどのような組織なのでしょうか?
[守屋様]
FSI部門は、金融産業領域を専門に担当する組織です。私たちは、金融機関が抱える構造的な課題や業務変革ニーズに対して、戦略企画・提案から実行・運営まで、一貫した支援を提供する体制を整えています。この背景には、近年の金融マーケット全体における大きな3つの変化が要因となっています。
1つ目は、人口減少や地域経済の縮小といった社会構造の変化です。これにより、金融機関の在り方自体が根本から見直されつつあります。
2つ目は、インシデントや不祥事を背景とした、規制・レギュレーションの強化です。これは、業界全体にとって構造的な変革を迫る大きな要因となっています。
3つ目は、テクノロジーの急速な進化です。新たな技術が次々と登場するなか、金融機関も従来のビジネスモデルや業務のあり方を抜本的に変革していくことが求められています。
このような環境変化を受け、私たちFSI部門では、従来のAdvisoryの枠にとどまらず、End to End(Advisory~Implement~Operate)での変革支援を強化しており、新規事業の立ち上げや業務イノベーションの実行支援まで含めた、実践的な支援を可能とする体制を構築しています。
実際に、近年はAIなどの先進技術を取り入れたシステム実装や運用などの「実行支援(Implement~Operate)」のニーズが急速に高まっており、私たちの支援範囲も大きく拡大しています。テクノロジー導入や業務変革といったテーマを含め、金融業界全体の変化に対し、今後も幅広く対応していくことがFSIの重要なミッションです。
[水上]
私が在籍していた頃から、ただ戦略の絵を描くだけでなく、End to Endでのご支援を重視しておりましたが、今も変わらず、あるいはさらに強化されていることが分かりました。
[守屋様]
そうですね。最近、その姿勢がより具体的に表れてきていると感じています。例えば、デロイト トーマツ アクト株式会社(以下、DTakt)に、金融分野に特化した100名以上の専門エンジニアを集約させ、非常に強力な実行部隊を構築しております。こうした動きは、単なる戦略の立案にとどまらず、実行までを見据えたEnd to Endの支援体制を本気で構築しているという、グループ全体の意志の現れだと思います。
[上野]
大きな変革を迎えている金融業界ですが、こうした変化に対応していくために、FSI部門ではどのような取り組みを進めているのでしょうか?
[守屋様]
現在、私たちが重視しているキーワードの1つが「伴走」です。クライアントと向き合い、課題の発見から解決の実行まで共に歩み、成果につなげる姿勢がFSIの提供価値の中核にあります。DTCの強みは、イノベーションや戦略的アドバイザリーといった上流支援はもちろん、構想の実現までしっかり伴走できる点です。
その実行力を支えるのが、組織内外との多層的なコラボレーションです。DTC社内での連携はもちろんのこと、MDM(Multi-Disciplinary Model=グループが有する多岐にわたる知見やサービスを融合し独自の価値を生み出す戦略)の推進により、ファイナンシャルアドバイザリーやリスクアドバイザリーなど、デロイト トーマツ グループ全体での協働体制を築いています。
さらに、グローバルネットワークとの連携も、私たちの大きな強みです。End to Endのサービスを提供するうえで、グローバルの高度な専門性や技術力を活用することは、極めて重要であり、我々がグローバルでも高い評価を受けている所以であると自負しています。
加えて、社外とのコラボレーションやエコシステム構築も積極的に進めています。大手テクノロジープラットフォーマーとの協業はもちろん、AIなど先端技術を有するスタートアップとの連携も含め、外部パートナーと共に価値を共創しながら、クライアントの変革を総合的に支援する。そのような「総合力による価値の最大化」も、FSIが大切にしているポイントの1つです。
こうしたコラボレーションを強く意識する背景には、「サイロ化は組織の成長を止める」という私たちの共通認識があります。優れた人材が揃っているからこそ、それぞれの力を掛け合わせ、横断的に連携することが、真に総合力を発揮する鍵だと考えています。
[上野]
日々のプロジェクト業務のなかで、コラボレーションを実感する機会はありますか?
[三浦様]
直近で携わっているプロジェクトを通じて、DTCの「総合力」を実感する場面が非常に多くあります。現在、基幹システム刷新プロジェクトを支援しており、そのなかでは、外部パートナーと連携して新たなプラットフォームの導入を進める中心的な役割を担っています。
しかし、クライアントからは、単にシステムを導入するだけではなく、「業務プロセスはどう変わるのか」「本当に導入が適切なのか」「導入後の将来像はどうあるべきか」といった多角的な観点からの検討と支援が求められています。
DTCには多様な専門性をもつメンバーが揃っており、例えば、業務の深い理解が必要な場面では、雑賀のように業界知見に優れた方が参加し、システム面では基盤構築に精通したエキスパートが、さらに導入後のAI活用についても高度な知識を有するメンバーが参画するなど、それぞれの領域で専門家が支援を行っています。
各フェーズで最適な人材が関与することで、クライアントからは「そこまでしっかり支援してくれるのですね」といった評価をいただくことも多く、改めて「総合力で戦える」ことの強みを実感しています。
業界理解 × 専門性連携 × 現場密着。オーケストレーションで導く、INSの保険業界コンサルティング
[上野]
全体で非常にコラボレーションが盛んであることが分かりました。
そのなかでも、特にINSユニットとして、組織としての総合力を生み出すためにどのような工夫をされているのでしょうか?
[守屋様]
現在、いくつかのイニシアティブを立ち上げています。
1つ目は、「アジェンダ軸」でのチーム編成です。例えば、ニューリスク・ニュービジネス、オペレーショントランスフォーメーション、テクノロジートランスフォーメーションといったテーマごとにチームを組んでおり、アカウント単位ではなく、横断的な視点からクライアントにアプローチできる体制を整えています。
もう1つは、「セールスエクセレンス」というチームの設置です。このチームでは、各種ベストプラクティスや、グローバルのデータサービス、オファリング領域のソリューションなどを統合し、アカウントを横断して展開できるようにしています。これらを通じて、組織としての横のつながりを強化しながら、より一貫性のある価値提供を実現していこうとしています。
[水上]
「アジェンダ軸」というお話がありましたが、最近のホットトピックなどを教えていただけますでしょうか?
[守屋様]
現在、私たちが関わっている案件の半分以上はアドバイザリー領域に分類されるものです。
特に最近では、「ニューリスク・ニュービジネス」といった観点において、保険会社自身が他業種との連携を強化しながら、新たなビジネス領域に踏み出し始めています。
例えば、サイバーセキュリティ、介護領域におけるテクノロジー活用、防災関連ソリューションなど、非保険分野の企業と協業しながら、新たな価値を生み出そうとする動きが加速しています。こうした「新しいリスクに基づく新しいビジネス」をどのように構想・立ち上げていくのかといったテーマは、一定数の案件として確実に存在しています。
また、「オペレーションのプラットフォーム化・高度化」という観点でも、生成AIなどを活用した業務改革の支援が増えてきています。業務効率の向上やプロセス自動化を目的とした取り組みについては、単なるアドバイザリーにとどまらず、実行支援まで含めたプロジェクトとして関与するケースが多くなってきています。
[水上]
既存のビジネスだけではなく、大きな広がりをもっており、非常に興味深いですね。これまで従事されたプロジェクトのなかで、特に印象深かったものについてお伺いしてもよろしいでしょうか?
[雑賀様]
保険会社における「アフターサービスチャネル」の高度化を多角的に支援している取り組みを紹介させていただきます。
従来、保険業界では営業職員が契約後の対応も担う一方で、そのフォローアップが十分に行われないケースも多くありました。そうした課題に対して、本プロジェクトでは、営業職員とは別のアフターサービスチャネルが顧客フォローを行い、NPS(顧客ロイヤルティ)の向上を目指すという方向性でご支援しています。
支援内容は多岐にわたっており、チャネルの役割や業務設計といった仕組みの構築に加えて、CRM(顧客管理)機能の活用・拡充支援も含まれています。さらに、電話以外のコミュニケーションツールも活用した活動設計も行っており、どのようなタイミング・内容で顧客に接点をもつべきかといったマーケティング観点での支援も提供しています。
われわれINSユニットでは業界コンサルとして、生命保険業界特有のチャネル構造や業務特性を深く理解し、また、CRMやマーケティングなど専門家との橋渡しを担いながら、現場に密着しつつ、プロジェクト全体をオーケストレーションしていく。そのような動きのなかで提供価値の最大化につなげていくことができると感じています。
[三浦様]
私は、まさに今ご支援している案件が、最も思い入れのあるプロジェクトとなっています。
そのクライアントには、昨年1年間、私自身が出向という形で社職員として関わらせていただきました。プロジェクトの重要性を社内で理解してもらえるように働きかけながら取り組みを浸透させ、構想のたたき台を形にしていくという役割を担っていました。そして今年DTCに戻ってきてからは、INSユニットに限らず、社内のさまざまなメンバーを巻き込みながら、さらにスケールの大きいプロジェクトとして推進しています。クライアント内でも徐々に取り組みの意義が浸透しつつあり、今まさに「一緒に伴走している」ことを実感できる、とてもやりがいのある仕事です。この取り組みは、クライアントにとっても非常に大きなインパクトを与えていると感じ、私自身にとっても貴重な経験となっています。
[上野]
貴社メンバーがクライアント先に出向されることはよくあるのでしょうか?
[守屋様]
実は、そのような機会は多いです。私たちとしても、戦略的に人材を育成するという観点から、出向を通じてクライアント企業での事業経験・実務経験をしっかり積んでもらうことを重視しています。
また、私たちが大切にしている「伴走型支援」のために、現場の最前線に入り込んで、実際にクライアントを支援していくという意味合いでの出向もあります。そうした出向は、一定の割合で行われており、組織としても重要な位置づけと考えています。
[雑賀様]
私も1年間の出向を経験しました。基本的には1人で出向し、現地ではクライアントの社職員の一員としての立場で、クライアントを上司とするかたちで業務にあたるケースが多いです。もちろん、現場で支援を行う一方で、私たちはDTCのメンバーでもあるため、どのように今後のプロジェクト組成につなげていけるか、あるいは将来的な展開をどう描くかといった視点も常に意識しながら、支援に取り組みました。