早く見つける、早く守る。ヘルスケアの新常識―異業種連携で生活に“早期発見”を組み込む
[小泉]
TFH設立の背景や事業概要、具体的な事業内容について教えていただけますか?
[藤本様]
TFHは、2023年に設立したイーソリューションズの子会社です。TFHは現在、イーソリューションズのライフデザイン事業部とライフサイエンス事業部の社員が兼務出向する形で運営しています。TFHは、生活空間で起きる急変や、徐々に進行してしまう病気を軽症のうちに「早期発見」し、より早いタイミングで病院での治療につなげ、医療費や介護費の削減に寄与することを目指しています。
例えば、日本では生活空間での転倒による死亡者数は交通事故死者数よりも多く、高齢化社会での課題と言えます。転倒には、つまずきによるものだけでなく、脳卒中や心筋梗塞等の疾患起因による意識障害や、認知症やフレイル等の心身の変化の兆候としても現れると言われています。
出典:TFH共同プレスリリースより
現在のフェーズとしては、 YKKAP株式会社、大東建託株式会社、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ(ドコモグループ)、中部電力株式会社の4社からの資金調達が完了し、「急変の早期発見」のうち「転倒/卒倒検知」ソリューションのローンチに向けて実証実験を行っている段階です。
この事業の特徴は、私たち自身が技術を開発してエンドユーザーに直接ソリューションを販売するのではなく、すでに存在する優れた技術を選定し、それらを組み合わせてソリューションとして仕立てたものを提供する点です。そして、その提供先は住宅の管理事業者や介護事業者などで、彼らが入居者に部屋を貸し出す際に私たちのソリューションを組み込む形で利用していただくというモデルです。
実証フェーズでは、技術提供企業と連携し、海外で導入実績のある技術を日本の環境やライフスタイル、日本人の体格に合わせた検証、改良を進めています。また、技術を搭載するプラットフォームのシステム開発も行っています。さらに、事業会社がソリューションをどのように販売するのか、実装後の運用方法についても提案を行いながら共に検討を進めています。
[小泉]
TFHはどのような点でユニークだと感じますか?
[不破様]
TFHの事業において私が特に面白いと感じているのは、医療やヘルスケアという専門性の高い分野で、異業種のパートナー企業や研究者と協力しながら新しい価値を生み出せる点です。プロジェクトを進めるなかで、多様なバックグラウンドをもつ方々と協働し、プロジェクトが前進する瞬間にやりがいを感じます。
若手からフロントに立ち、実践で鍛える“構想×実装”の力
[小泉]
不破様は、2024年10月の共同プレスリリース後に入社された以降、どのようなご経験をされてきましたか?
[不破様]
私は入社後に、まず住宅・不動産領域との協業に向けた戦略提案を行いました。また、別プロジェクトでは、電力会社と自治体向けヘルスケアサービスの共同開発を目指し、実証に向けた準備を進めています。 さらに、あるメーカーと共同で、2つのプロジェクトを進めています。
1つは、入浴中の事故を防ぐソリューションの開発です。交通事故の約2.6倍もの方が入浴中に亡くなっている現状を踏まえ、技術力のある企業と連携し、医療業界とのネットワークを活用して、入浴中の事故を防ぐソリューションの検討を進めています。
もう1つは、ヘルスケアソリューションを組み込んだスマートミラーの開発です。これらのプロジェクトにおいて、提案や進め方の設計を行っています。
[小泉]
入社直後から非常に重要な業務に取り組まれている印象があります。量や質の面でのギャップや、キャッチアップに向けてどのように工夫されたかを教えていただけますか?
[不破様]
個人的には、基礎的な部分はもちろん重要ですが、実践で学ぶことの方が多いと感じています。すぐに実践に投入してもらえたことは、基礎力を向上する上でも、新しいスキルセットを身につけるうえでも非常に良い機会になったと思います。ギャップについても特に大きな違和感は抱くことはありませんでした。
これまで研究者や自治体、企業などさまざまなステークホルダーとプロジェクトを進めてきた経験が役立ち、むしろどうすれば前に進めることができるか、皆さんの考え方や経験を吸収しながら進めることができました。
[小泉]
藤本様がこれまでで特に印象深く、ご自身の成長に繋がったと感じるプロジェクトについてお聞かせいただけますでしょうか?
[藤本様]
私がイーソリューションズで関わったプロジェクトのなかで特に印象的だったのは、住宅メーカーとのプロジェクトです。これは私が入社して2~3年目の頃に担当したプロジェクトで、初めて責任者を任せていただいたものです。最初は5~6名のチームでスタートしたのですが、その後、派生プロジェクトがいくつか生まれ、最終的には10名以上の体制になりました。金額的にも、期間的にも大きなプロジェクトでした。このプロジェクトを通して、自分自身が最も成長できたと感じています。
また、提案時にクライアントの次期社長がプロジェクトリーダーだったことから、その方が社長になられた後も提案を行う機会がありました。このような年次に関係なくフロントに立てるという点は、イーソリューションズの魅力の1つだと思います。
[小泉]
年次にとらわれずにフロントに立てることは大きな魅力ですね。エグゼクティブ層への提案には、非常に緻密な準備が必要だと思いますが、具体的なエピソードがあれば教えていただけますか?
[藤本様]
例えば、提案をする際には、本質的な課題を明確にし、それをストーリーとして分かりやすく、かつ相手に刺さる形で伝える必要があります。企業にとっての価値向上につながる提案を、社会的な意義とともに端的に伝えられるかどうかが重要です。特に現在の社会では、利益を出しながら社会的な価値を生むことが求められているため、その両立をいかに表現するかがポイントだと思います。
[小泉]
プレゼンテーション能力が非常に磨かれる環境ですね。具体性や深さが問われるお仕事だと思いますが、その詳細について教えていただけますか?
[藤本様]
例えば、TFHの話に戻りますと、急変や軽症の段階で病気を発見することが価値だとします。そのソリューションを介護施設に導入することで、リスクの高い方を優先的にケアできる体制を構築できます。これにより、介護スタッフの負担が軽減され、効率的な運営が可能になります。また、介護人材不足の課題に対してもコスト削減などのメリットを提供できます。このように、社会的価値と経済的価値を両立させることが価値となります。社会コストの試算も具体的に行い、定量的にこの価値を説明し、社会に生み出す価値の大きさをお伝えします。
[小泉]
非常に緻密な説明ですね。具体的なメリットをブレークダウンして伝えることが重要だと感じます。
[藤本様]
そうですね。このソリューションや事業が生み出す価値を、売上や社会的意義につなげる流れを構築し、それをマーケティングとして発信することで株価の向上なども期待できます。一連の流れをしっかりと伝えることが必要です。
[小泉]
プロジェクトの責任者としてのマネジメントの観点では、予算管理やメンバーの育成など、幅広い業務を担当されるイメージですが、具体的にはどのようなことをされていたのでしょうか?
[藤本様]
予算管理やメンバーの育成、さらにクライアントへの提案など、幅広い業務を担当しました。具体的には、プロジェクトを円滑に進めるための体制づくりや、クライアントの要望に応えるための提案を行うことが主な役割でした。
プロジェクトの立ち上げ初期の3カ月間は事業部長が直接関わってくださり、私はその下でプロジェクトを進めていました。しかし、年度の変わる2019年4月のタイミングでライフデザイン事業部が独立し、私が事業部長としてプロジェクトを運営する形になりました。
[小泉]
それは非常に成長できる環境ですね。それと同時に柔軟性が求められる環境だったと思いますが、印象に残っている経験や成長を実感されたことはありますか?
[藤本様]
そうですね。頻繁に新しい事業部が設立されるわけではないので、非常に貴重な経験でした。
ライフデザイン事業部新設以来、日本国内だけでなく米国の有名大学との共同研究も含めた事業展開を進め、そのときの経験がTFH設立にも生かされていると感じています。
一方、TFHでの現在の立場と異なり、クライアントワークでは、私たちが考える最適解が必ずしもクライアントが求める方法ではないこともあり、その折り合いをつける部分が非常に難しく、成長にもつながったと感じています。
共通しているのは医療・ヘルスケアの領域で社会に価値を創っていきたいという思い
[小泉]
最後に、TFHで一緒に働きたいと考える人材像について教えてください。
[藤本様]
これまで入社してくださった方々に共通しているのは、医療やヘルスケアの領域に関心があり、社会に価値を生み出したいという思いをもっている点です。
また、特に医療やヘルスケアに関わってきた方々に多いのですが、医療やヘルスケアの課題は一社で解決するのが難しいため、それぞれの強みをつなげて大きな価値を生み出すことに挑戦したいという方が多い印象です。
このような思いを共有できる方と是非、社会に大きな価値を創っていきたいと私としても思っています。
[小泉]
具体的な人材要件についてはいかがでしょうか?
[藤本様]
例えばシステムの分野では、先ほど申し上げた技術を搭載するプラットフォームに関して、1つの技術だけで動くものではなく、複数の技術を組み合わせ、さらに複数の事業会社に共通機能として利用していただける構想をもっています。
そのため、事業会社側のニーズを業界や企業ごとに吸い上げつつ、技術パートナー企業側の強みや制約を明確に要件定義し、技術パートナー企業ができることはそのまま活用し、できないことはシステムベンダーに依頼する、といった形で全体を俯瞰しながら解を導き出せる能力が求められます。
事業開発側もこれに近い要件があります。私たちが目指す価値を事業会社にとっての価値に変換し、売上につながる形で提案しなければソリューションを購入していただけません。そのため、完成品をただ売るのではなく、価値を創造し、それをどのように表現すれば提案として成立するのかを全体的に考えられる力が重要です。
[小泉]
非常にハイレベルなお仕事ですね。
[藤本様]
そうですね。ただ、これはあくまで最終的なゴールなので、最初からすべてを求めるわけではありません。これらができるようになるポテンシャルをもった方と、選考では積極的にお会いしたいと考えています。