徹底的な現場主義「背中で見せるパートナー」とは?組織・人事コンサルタントから広がる多様なキャリアパス
[成田]
続いて、キャリアパスについての質問をさせていただきます。
まず、PCチームに参画した場合、どのような役割や専門性が期待されるのでしょうか?
[鵜澤様]
コンサルタントやシニアコンサルタントの場合は、多様な経験をしつつも専門性をしっかり身につけることになります。もし最初に採用されたチームから他のチームに適性を感じれば、専門性を変えることも可能です。
マネージャー以上の場合は、専門性に加えて提案やデリバリーの機会を自分で作り出すことが求められます。自分に適した仕事を選び取る能動性と、他の領域のマネージャーと協力して、提案やデリバリーを行うことが期待されます。
[成田]
コンサル経験者と未経験者ではキャリアパスに違いがあると思いますが、それぞれにどのようなキャリアパスがあるのか、お聞かせいただけますか?
[鵜澤様]
コンサル経験者は、さまざまなファームからの転職者がいます。彼らは即戦力として、マネージャー以上で活躍することを期待されています。
一方、事業会社出身者の多くは、人事部門や経営企画部門で企画業務を経験した方や、若い時に海外赴任や事業立ち上げの経験をもつ方々が活躍しています。事業会社出身者はコンサルタントやシニアコンサルタントとして入社し、数年の経験を積んでからマネージャーに昇進することが一般的です。
特に最近ではパートナーの行動特性やビジネススタイルが多様化しており、成功のために「こうしなければならない」という決まった方法はありません。キャリアパスもさまざまで、これから転職を考えている方にはその多様性を理解していただけたらと思います。また、多様なバックグラウンドの転職者に参画していただくことで、異なるカルチャーをもち込んで、新しい風を吹き込んでくれることを期待しています。
APAC全体のピープルコンサルティングコンサルティングキックオフ会議のために来日したグローバルピープルコンサルティングリーダー達とのパネルセッションの模様
[成田]
PCチームに参画した後のキャリアパスはいかがでしょうか?
[鵜澤様]
PCチームを卒業した方々の進路は非常に多様ですが、大きく3つのパターンに分かれます。
1つ目は、事業会社に転職し、CHROや人事部門のディレクターやシニアマネージャー職として、経営に近い立場で活躍するパターンです。コンサルティングの魅力は、さまざまなクライアントと関わり、多様な経験を積める点にありますが、一方で「1つの会社に深く関与し、長期的な変革を見届けたい」「当事者として変革に携わりたい」と考える方もいます。事業会社では、コンサルティングファームよりも長い時間軸で成果が求められるため、そうした志向をもつ方に適しています。
また、かつては事業会社の中途採用は「補充要員」という位置づけで、幹部候補になることは難しい時代がありましたが、現在は中途入社でも経営幹部に就くことがよくあります。報酬面でも、以前はコンサルティングファームから事業会社に移る際は下がるのが一般的でしたが、日系グローバル企業を中心に報酬水準が大幅に引き上げられており、マネージャーやシニアマネージャーでも報酬を下げずに転職できるポジションが増えています。
卒業生がクライアント側に転身することは、私たちにとっても非常にありがたいことです。私たちの価値観や働き方を理解した方がクライアントになることで、長期的なパートナーシップの構築にもつながるため、このようなキャリアの選択は積極的に応援しています。
2つ目は、スタートアップに転職するパターンです。スタートアップでは幅広い業務を担う必要があり苦労も多いですが、その分IPO(Initial Public Offering:企業が初めて株式を公開市場で売り出すこと)などを経て大きなリターンが得られる可能性もあります。若手が幹部として参画し、ストックオプションを得ながら挑戦するケースも増えており、今後日本国内でもスタートアップ市場の拡大に伴い、こうしたキャリアパスはさらに増えていくと考えています。
3つ目は、個人で独立するパターンです。これは、フリーランスとして、大きな組織に属さずに自分で組織・人事コンサルティングを手がけるケースです。以前は、ある程度キャリアを積み、パートナー職まで上り詰めた方が独立することが多かったのですが、最近ではマネージャークラスからスピンアウトして、個人事業主として活動を始める例も見られるようになりました。
背景としては、クライアント側の意識が変わってきたことが大きいと感じます。以前は「大手のコンサルティングファームであること」が重視される傾向がありましたが、現在は、必要なスキルさえあれば、企業規模を問わず柔軟に外部リソースを活用しようという動きが広がっています。そのため、個人のコンサルタントにも十分にチャンスがある時代です。私たちとしては、優秀な人材が個人で独立してしまうのは少し残念な面もありますが、それだけキャリアの選択肢が広がっているとも言えます。
[成田]
確かに10年、20年前は、コンサル出身者が事業会社に転職するケースは珍しい印象でしたが、最近はそうした例が非常に増えてきているように感じます。
[鵜澤様]
そうですね。業界を超えた転職は非常に頻繁になっており、特に事業会社でCHROになるチャンスも増えてきました。コンサル出身者や外資系企業から転職してきた方が、急速に活躍するケースが増えています。将来的にCHROを目指す方にとっても、コンサルティング業界で5年から10年の経験を積むことは、長期的に見て大いに役立つと感じています。
[成田]
私もよく、若くして転職相談に来た方には、まずコンサルティング業界で経験を積んでから、その後のキャリアを考えるのが良いというアドバイスをしています。
[鵜澤様]
私も大学卒業後の最初の10年間は事業会社に勤め、財務や人事、新規事業開発などを担当していました。事業会社には独自の面白さがあり、当事者意識をもちながら働いていました。正直、コンサルティングファームでこんなに長く働くとは思っていませんでしたが、仕事の楽しさや自分のスキルが向上している実感があり、今もやりがいを感じています。
事業会社とコンサルティングファームを行き来する人材の交流は、今後さらに増えると思います。私たちも事業会社の方々を受け入れる一方で、卒業生が事業会社に戻ることもキャリアの1つとして受け入れるべき時代だと思っています。
大切なのは、優秀な人材が流動的に動き、適材適所で良い仕事ができる状態を作ることです。そのような環境が整えば、より多くの良い成果を上げられると考えています。
[中島]
鵜澤様が考える、人材育成において重要な価値観や信念、また個人としてや組織として意識されている育成の工夫があれば教えてください。
[鵜澤様]
EYSCは教育体制が非常に充実しており、新卒入社だけでなく中途入社の方々にも、オンボーディングを通じてロジカルシンキングやコンサルティングに必要なスキルを学ぶ機会を提供しています。さらに、年間で最低20時間以上の研修を受けることが求められ、自己啓発のための環境も整っています。
ただし、私自身が成長を振り返った際に感じるのは、クライアントと実際に仕事をするなかで経験を積むことが、スキルの向上に最も有効ということです。プロフェッショナルファームでは、最終的には徒弟制のように、現場で上司と部下が直接育成し合うことが重要だと思っています。そのため、私も含めてパートナーやアソシエイトパートナーなどの経営職が率先してクライアントの現場に出て行くことが大切だと考えています。そして、経営職が現場でマネージャーやスタッフを指導し、OJTで育成することが非常に重要だと思います。
[小野]
組織が大きくなると、どうしても経営層がマネジメントに専念し、クライアントの現場に出なくなってしまうことはありますよね。
[鵜澤様]
そうすると、マネージャーやシニアマネージャーは現場感のない指示を受けるようになり、十分に成長を促すことができません。しかし、クライアントの課題がより複雑になっている今、パートナーやアソシエイトパートナーが最前線で課題解決に取り組む姿勢を見せることで、部下の育成や信頼関係の構築にもつながります。
プロフェッショナルファームでは、組織の看板よりも「この人と働きたい」「この人と一緒にいると学びがある」と感じられるような尊敬されるリーダーが現場に出ることが理想的だと考えています。そうした尊敬されるリーダーが現場でしっかり育成し、組織の足腰を鍛え、底上げをすることが重要です。このような状態を作り上げることで、組織全体が成長し続けると信じています。今後も、そうした育成環境を作り、組織全体の成長を支えていきたいと考えています。
[小野]
鵜澤様は京都大学をはじめとしたMBA講師を務められ、書籍も多数出版するなど、社外でも積極的にコンサルタントとしての姿勢を体現されていると感じています。他のメンバーについても、外向きの姿勢や社外との接点をもつことを意識づけされているのでしょうか?
[鵜澤様]
そこは非常に意識して取り組んでいます。やはり、リーダーである以上、市場で認知され、市場価値が高まる存在でなければならないと考えています。そういう人がリーダーとしていることで「この会社に入ってみたい」「この人と一緒に働いてみたい」と感じてもらえるのではないでしょうか。
プロフェッショナルファームに入る人たちは、基本的に自律心や独立心が高いので、一生この会社で働こうというよりも「ここで何か成果を上げてやろう!」と考えている人が多いと思います。実際、私自身も常に市場に出て、自分の市場価値を高めることを1つのミッションにしています。
また、私は今でもクライアントのもとに足を運ぶことが多いです。クライアントの課題を直接聞き、実際に考えることで、ビジネスの実感値が得られるからです。いくら社内でパートナー同士が議論しても、クライアントからの評価が芳しくなければそこで終わってしまいます。それなら、社内で長時間議論するより、早くクライアントに提案してフィードバックをもらい、そこから質を高めていくほうが良いというのが私の信念です。
なので、メンバーにも積極的に情報発信をしてほしいと考えています。発信やセミナー登壇などは時に厳しいフィードバックを受けることもありますが、それも外向き志向をもつうえで大事な経験ですし、成長の糧になると思います。顧客接点を増やすことはもちろん、対外的な発信も、私自身率先して取り組んでいますし、他のメンバーにも積極的にやってもらいたいと奨励しているところです。
人口減少・AI…激しく変化するコンサル業界で求められる、謙虚さと貪欲さ
[中島]
組織のこれからのビジョンについてもお伺いできればと思います。
まず、現在力を入れている点はございますか?
[鵜澤様]
まず、関西圏を拡大し、チームを強化していくことが、今の注力ポイントの1つです。現在、ロケーションとしては大多数のメンバーが東京に集まっているので、関西エリアの立ち上げにも力を入れているところです。現状では関西に約15名のメンバーがいますが、将来的には30名規模のマーケットに成長できると考えています。
また、当社は福岡にもオフィスがあり、 現在も数名が福岡オフィスで勤務しています。関西に続く第3の拠点として、福岡の人材も積極的に歓迎しています。
[中島]
関西や福岡といった拠点を広げられているとのことですが、そうなるとリモートでの働き方も組み合わせながら進めていらっしゃるのでしょうか?
[鵜澤様]
私たちはフルリモートを導入しており、日本国内であれば基本的にどこでも働ける体制を整えています。岡山や長野など地方在住のメンバーも、プロジェクト単位で参画しています。
もちろんジュニア層はスキル習熟のため、1人での完全リモートは難しいこともありますが、マネージャー以上なら、特にグローバル案件では東京にいる必要はほとんどありません。
当社はロケーションフリーの働き方に柔軟な組織ですし、私自身もハイブリッドワークが最適だと考えています。完全フルリモートではコミュニケーションが不足しやすいため、月に数回程度はクライアントのもとへ足を運ぶ必要はあります。オフィス、クライアント先、自宅をうまく組み合わせる柔軟な働き方ができ、自由度は高いと思います。
[成田]
自分らしく、柔軟な働き方ができるのも、EYらしいなと感じます。
今後描いているビジョンについてもぜひお聞かせください!
[鵜澤様]
私たちはこれまでの8年間、非常に速いスピードで成長してきました。ただ、今後については規模の拡大を追うのではなく、質の向上に力を入れていきたいと考えています。
コンサルティング業界は「人」がすべてです。大量採用で育成が追いつかず、そのままクライアントの現場に出してしまうと、品質の低下や信頼の失墜につながりかねません。一定の品質を担保するためには、適切な人数をきちんと育成していく体制が不可欠だと感じています。現在は約300名の体制ですが、これまでのような拡大ペースではなく、年間10~15%ほどの持続可能な成長を目指していきます。低成長というわけではなく、安定的な成長にビジネスモデルをシフトしていく方針です。
テーマとしては、これまで主要クライアントはCHROが中心でしたが、今後はCFOやCIOなど、より多様なCXO層に対応できる専門性や経験値を広げていきたいと考えています。それに伴い、専門性の幅も自然と広がるはずです。現在、PCは4つのチームに分かれていますが、このチーム構成自体は大きく変える予定はありません。ただし、それぞれのチームが提供するサービス領域は、今後さらに広がっていくと思います。
また、私たちの強みは「グローバル」対応力です。グローバルな環境で活躍したいコンサルタントにももっと多く加わってほしいと考えています。最近はトランプショックやコロナの影響で、世界全体で保護主義的な動きが強まり、各国で完結するプロジェクトが増えた印象です。ただ、10年単位で見れば、再び国境を越えたM&A、業務プロセス改革、システム導入、リーダーシッププログラムの機会も増えていくはずです。グローバルに通用する人材を増やし、日本企業のグローバル成長戦略を直接支援できる体制をさらに強化していきたいと考えています。
[成田]
組織・人事領域の課題も、最近はDXが進んだことによって、提案するソリューションの内容が大きく変わってきていると思います。今後もさまざまな変化が起こると思いますが、コンサルタントとしての役割や求められるスキル・要件は、これからどのように変わっていくとお考えでしょうか?
[鵜澤様]
コンサルティングビジネスは基本的に「人数×単価×稼働率」で成り立っていますが、この先、人材確保がますます難しくなるのは間違いないと思います。今、多くの事業会社が新卒や中途の採用に苦戦しているように、日本全体が少子化による労働人口減少の時代に入っています。このような「人数を増やしていく」モデルは、いずれ限界を迎えると私たちも感じています。これからは従来のコンサルティングビジネスだけでなく、例えば特定のソリューションを開発してライセンス収入を得るような、いわゆるサブスクリプション型のビジネスや、これまで手がけてこなかった成果報酬型のサービスなど、新しいビジネスモデルが出てくると思います。
[成田]
最大の脅威としてAIもあると思いますが、こちらについてはいかがでしょうか?
[鵜澤様]
AIは脅威であり、チャンスでもあります。
脅威という面では、AIの進化が加速するなかで、これまで若手コンサルタントが担ってきたリサーチやレポート作成などの業務は、かなりの部分がAIに代替されるでしょう。そうなると、私たちはAIに取って代わられない価値をどこに見出すかが重要で、ここにチャンスがあると思っています。
AIの活用を通じて企業も生産性向上や働き方改革を進めようとしていますが、多くの場合、専門家のアドバイスや知見が必要です。そうした場面で、私たちが新たな価値を発揮できる機会が増えていくはずです。
AIは、すでに答えがあるものについては非常に早く結果を出せますが、前例のないものや市場に情報が出回っていないものについては対応が難しい。だからこそ、コンサルティングファームとしては、そうした未開拓領域で質の高いアウトプットを出す力や専門性を高めることが、AIにはない価値を生む鍵になると考えています。
また、人事戦略の策定や制度設計、システム導入なども要素分解すれば、AIが担える部分は今後さらに増えていくでしょう。ただ、クライアントの課題を「戦略からオペレーション、システムまで一気通貫で解決する」となると、その一貫性を保つにはやはり人と人のコミュニケーションや連携、共同作業が不可欠です。そういった部分はむしろこれからも価値が高まるのではないかと思います。
なので、AIを賢く使ってリサーチや資料作成などの業務は効率化しつつ、それ以上に高い専門性や、クライアントと一緒に作り上げる共同作業の価値を打ち出していくことで、コンサルティングファームの魅力はこれからも十分に発揮できると思っています。そうした変化を前向きに進めていきたいですね。
[成田]
業界の最前線に立っている方にしか伺えない、貴重なお話をありがとうございます。
最後に、候補者の方に向けてメッセージをいただけますか?
[鵜澤様]
コンサルタントとしての成功のキャリアパスは1つではなく、さまざまなパターンがあると考えています。新卒からコンサルティングファーム、事業会社出身、IT経験者など、道筋は多様です。なので、求職者の皆さんには「多様なロールモデルがあって当然」という前提をぜひ理解していただきたいと思っています。
そのうえで、若手や中堅でこれからコンサルタントを目指す方に伝えたいのは「謙虚さ」と「貪欲さ」をもってほしいということです。これは、私が事業会社で新入社員だった時に教わったものです。
ある有名なディベロッパーの当時の社長が「君たちは謙虚であると同時に、貪欲であってほしい」と話してくださった言葉が、今も強く印象に残っています。コンサルティングの仕事は「息の長い仕事」である点がディベロッパーと似ています。プロジェクトは長期にわたることが多く、クライアントとの関係も長く続き、自分が一人前になるまでにも時間がかかります。
特に、コンサルティングファームに入社すると、自分より一回り上の世代と仕事をする機会が増えます。例えば、私のようなパートナー職の場合、クライアントは60歳前後のCXOクラスが中心ですし、若手でもシニアコンサルタントであれば、相手は30~40代の課長クラスが多いです。そのなかで、対等にコミュニケーションを取るためには、やはり謙虚であることが不可欠です。謙虚さがなければ、年長の方々に話を真剣に聞いてもらうことも、信頼を得ることも難しくなるからです。
一方で、謙虚さだけでは不十分です。私たちコンサルティングファームは、高い報酬をいただく立場にあります。 謙虚でいい人というだけでは、「それなら自社の社員と変わらない」と見なされてしまいます。なので、謙虚さに加えて、常に貪欲に学び、成長しようとする姿勢が求められます。貪欲さを例に挙げると、クライアントの期待を先回りして、依頼されたこと以上の価値を提供する姿勢や、自分なりに工夫を重ねてアウトプットの品質をさらに高めようとする取り組みです。また、働き方改革が進んでいるとはいえ、週末の時間を使って関連書籍を読んだり、グローバル人材を目指して英語力を自主的に磨いたりといった努力も必要です。
成功している人たちは、そうした貪欲さでクライアントの期待を超え、自らの成長にも積極的に取り組んでいます。謙虚でありながら、同時に貪欲さをもつことが、コンサルタントとして成功する確率を高めると私は信じています。そういう方々と、ぜひ一緒に働きたいと思っています。