株式会社GenerativeX(以下、GenerativeX)は、2023年に設立された生成AI活用に特化したテクノロジーコンサルティングファームです。大企業のDX推進を支援しており、生成AIの導入戦略策定から実業務への応用までをトータルでサポートしています。特に、ChatGPTをはじめとするLLMや拡散モデルを活用したシステム開発、顧客のニーズに合わせたAIアプリケーションのカスタマイズ、そして特定の用途に最適化されたモデル開発に強みをもっています。また、上司と部下のコミュニケーションを革新する「課長AI」といった独自のツールも開発・提供しています。GenerativeXは、「日本の大企業の成長と革新をテクノロジーと戦略で支援する」というミッションのもと、技術とビジネスの知見を融合させ、顧客の事業成長に貢献することを目指しています。
今回は、代表取締役/CEOの荒木 れい様とシニアコンサルタントの大森 雅仁様にインタビューをさせていただきました。
インタビュアーはフォルトナ小坂が務めます。
荒木 れい様 プロフィール
代表取締役 CEO。
灘高等学校、東京大学経済学部卒業、同大学院工学系研究科修了。新卒でJPモルガン証券株式会社投資銀行部門に入社し、M&A、資金調達などのアドバイザリーに従事した後、株式会社ウェリコを創業、同社事業の売却を経て、GenerativeXを創業。
大森 雅仁様 プロフィール
シニアコンサルタント。
東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修了。新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、東京および関西オフィスに所属し、製造業のオペレーション改善、通信事業の新規事業立案などのプロジェクトを担当。
戦略と金融、それぞれの一流企業を経て──GenerativeXで実行フェーズに踏み出す
[小坂]
本日はよろしくお願いいたします。
初めに、荒木様のご経歴を教えていただいてもよろしいでしょうか?
[荒木様]
新卒で投資銀行のJPモルガンに入社し、M&Aや資金調達といったアドバイザリー業務に携わっていました。その後、少し早いタイミングではありますが1年ほどで退職することにしました。そして2017年に最初の起業をし、飲食店のDXを手がける、当時としては珍しいタイプの会社を立ち上げました。約5年間経営を続けてきましたが、思うようにビジネスが成長せず売却し、2023年に共同創業者の上田とGenerativeXを立ち上げました。
[小坂]
GenerativeXはどういった思いで創業されたのでしょうか?
[荒木様]
GenerativeXを創業した背景には、従来のコンサルティングとシステム開発が分断された体制に課題を感じ、「戦略立案から実装・運用までを一気通貫で担える組織をつくりたい」という思いからです。生成AIの急速な進化は、テクノロジーとビジネスを融合させた全く新しい変革の形を生み出すと確信しています。特に2022年末以降の技術的ブレイクスルーを通じて、現場の実務と先端技術を結びつけるリアルな可能性を感じたことが、参入を後押ししました。「汎用的であること」よりも「現場に合わせて柔軟に適応できること」に強みをもつ生成AIは、日本独自の現場改善文化と非常に親和性が高いと考えています。一般的には、日本企業はIT基盤が脆弱であると言われがちですが、むしろ「持たざる強み」を生かして、生成AIを梃子に現場発の変革を加速できると信じています。だからこそ、国内企業の変革こそが大きな成長機会になると確信しています。
[小坂]
生成AIの進化を受け、現場と技術をつなぐリアルな可能性に確信をもたれたからこそ、生成モデルの開発や生成AIを活用したコンサルティングを行う企業として立ち上げられたのですね。
続いて、大森様のご経歴について教えてください。
[大森様]
2018年に東京大学を卒業後、新卒でマッキンゼーに入社しました。約6年間在籍し、主に製造業、とくに自動車業界に関するプロジェクトに携わってきました。具体的には、OEM企業やティア1のサプライヤーを対象に、戦略立案からオペレーション改善、全社改革に至るまで、幅広いテーマに取り組んでまいりました。そしてご縁があり、昨年11月に荒木からお声がけをいただき、GenerativeXに参画することになりました。
[小坂]
マッキンゼーからご転職を考えられた背景には、どのようなきっかけやお考えがあったのでしょうか?
[大森様]
6年間マッキンゼーに在籍していましたが、そのうちの約1年間、事業会社に出向していました。その経験を通じて、外資系コンサルティングファームでできること・できないこと、そして事業会社でできること・できないことについて、肌感覚で理解できるようになったと感じています。出向から戻ったタイミングで、再びマッキンゼーに復帰しましたが、大きく2つの理由で転職を意識するようになりました。
1つは、「より手触り感のある仕事に取り組みたい」という思いです。そしてもう1つは、結婚して子どもが生まれたことで、「ワークライフバランスを見直す時期にきた」と感じたことです。
こうした事情から「コンサルティングをやめたい」というよりも、「デリバリーまでしっかり関わりたい」「ワークライフバランスを大切にしたい」という点を軸に、転職活動を進めていきました。GenerativeXはVC経由でご紹介いただいたのですが、参画することを決めた理由は、引き続きクライアントに向き合い、課題を解決するというコアの部分は大切にしながらも、実行面にも深く関われること。さらに、新しいテクノロジーに触れられる環境にも魅力を感じたからです。
高度な人材 × 最先端のAI × やりきり力で、「戦略と実行のハイブリッド」を体現
[小坂]
GenerativeXでは、具体的にどのような事業や取り組みをされているのでしょうか?
[荒木様]
私たちは「テクノロジーに特化したコンサルティングファーム」です。コアにあるのは、クライアントから課題をお預かりし、それを解決していくというコンサルティングの基本的なスタンスです。そのうえで、特にテクノロジー領域に強みをもっているのが私たちの特徴です。よく「ITコンサルティングファーム」と比較されますが、私たちのアプローチは少し異なります。
例えば、生成AIなどの技術を前提にするのではなく、テクノロジーを「手段」として、「クライアントのビジネスをどう良くしていくか」という視点からプロジェクトを設計しています。また、特徴的なのは、戦略や資料作成だけでなく、実際にコーディングを行い、AIアプリケーションの実装や開発まで手がけている点です。イメージとしては、コンサルティングとシステムインテグレーション(SI)が半々くらいとなっています。ただ、実際の業務の割合としては、コンサルティングが8割、開発が2割ほどのバランスで取り組んでいます。
[小坂]
「GenerativeXだからこそ実現できている」「他社ではなかなか難しい」と感じていらっしゃるポイントがあれば、ぜひお聞かせいただけますでしょうか。
[荒木様]
「非常に優秀な人材が、最先端のAIを徹底的に使いこなしている」。それが、私たちの会社の最も象徴的な姿だと考えています。現在、フロントに立つメンバーは10名程度ですが、その多くが東京大学大学院などで理系のバックグラウンドをもち、ロジカルな思考や数値への感度が非常に高いです。加えて、外資系コンサルティングファームで約5年の実務経験を積んだメンバーが中心であり、独立系・ブティック系ファームのなかでも、当社はハイエンドなプロフェッショナルが揃っているチームだと自負しています。そうした高いスキルをもつ人材が、生成AIを日常的に活用することで、非常に大きなシナジーが生まれています。AIは日々進化を続けており、まさに日ごとに性能が向上しているような状況です。その変化に即応しながら、すでに優れた人材がさらに力を伸ばしていくという好循環が、当社の強みにつながっています。
[小坂]
人材の質や構成といった点が、他社との圧倒的な違いにつながっているのですね。
[大森様]
そうですね。高いレベルの人材の質を誇っていると思います。しかし、それに加えて当社の大きな強みだと感じているのが、「やりきる力」です。当社には非常に優秀な人材が揃っていますが、それを実際の成果として形に残すのは決して簡単ではありません。その点、当社は代表の荒木自身が強い思いをもっており、さらにその思いを「やりきる力」がチーム全体に根付いています。ここが、他社との大きな違いだと感じています。
例えば、フロントメンバーの裏側には多数のバックオフィスメンバーが控えており、業務委託や派遣の方々と連携しながら、資料作成やメール対応、加えてコーディングまで幅広く対応しています。
さらに特徴的なのは、そうした業務に生成AIを積極的に取り入れている点です。実際に、派遣スタッフがAIを活用して実際にコーディングを行うといった体制がすでに実現しています。理論上は可能でも、ここまで徹底して仕組みを作り上げ、運用できている企業は、まだ限られているのではないでしょうか。
[小坂]
「やりきる力」が組織に根付いているからこそ、構想を実行まで確実に落とし込めているのだと感じました。特に生成AIの実務活用は、他社と一線を画す点ですね。そうした実行力を支える仕組みや、組織のつくり方について、荒木様はどうお考えでしょうか?
[荒木様]
当社の大きな特長は、自らの組織や仕組みにも積極的にテクノロジーを注入しているという点にあります。私はGenerativeXを「テクノロジーコンサル」と表現しましたが、単にテクノロジーを提供する側であるだけでなく、自分たち自身をひとつの「プロトタイプ」として位置づけ、まずは自社内で理想のモデルを体現することを意識しています。
「一気通貫」や「上流から下流まで」、「戦略から実行まで」「ビジネスとテクノロジーの融合」といった表現はよく耳にすると思います。ただ、提供範囲、つまりバリューチェーンを広げれば広げるほど、どうしても1つひとつの価値が薄まりがちです。だからこそ、当社のように「戦略と実行のハイブリッド」を本気で目指すなら、「やらないことを決める」ことが非常に重要だと考えています。
例えば、社内調整や、必要以上に丁寧な資料作成といった、クライアントへの価値に直結しない業務については、リソースを最小限にし、自動化や生成AIを活用して効率化しています。クライアントに価値を提供するうえでは、「どのような組織をつくり、どのようなオペレーションを設計するか」といったことも極めて重要です。
SaaSではないからこそ届けられる、1社ごとの仮説設計と最適解の提示
[小坂]
創業間もない段階でありながら、名だたる企業をクライアントとして獲得されている背景には、何か秘訣やポイントがあるのでしょうか?
[荒木様]
非常に頑張っています(笑)。営業力は、自分たちでも認めている強さです。ただし、それは単にテレアポを繰り返したり、多くの企業に会い続けたりすることではありません。私たちは「このプロジェクトで価値が出せる」と感じたら、徹底的に向き合い、粘り強く提案を重ねます。まさに「食らいついて離さない」ようなスタンスです。必要であれば何度でも出張し、国内に限らず今は海外のお客様もターゲットにしていることもあり、アメリカやアジアなどアポイントをとれるまでは現地にとどまり続けます。しかし、これは「自分たちにしか提供できない価値がある」と確信しているからこそであり、「やりきる力」につながっています。何度でも足を運び、粘り強く提案を重ねる。提案の質やスピードにも強いこだわりをもって取り組んでおり、そうした姿勢が、多くの大手企業様とのお取引につながっているのだと感じています。
[小坂]
2024年夏にはアメリカ支社を設立されたとのことで、そのスピードの速さに圧巻しています。
[荒木様]
私たちのようなコンサルティングファームは、日本国内ではすでに一定の成熟期にあると考えています。実際、フリーランスやブティックファームでも、一定の水準で事業を成立させることが可能な環境です。ただ、本当にそれで満足して良いのでしょうか。例えば、東京大学を卒業し、外資系コンサルティングファームに入社したとしても、日本という市場はアジアの一地域に過ぎません。そこにとどまることへの限界を感じています。もちろん、日本市場で真摯にコンサルティングに取り組んでいる方々が多くいらっしゃるのは事実です。ただ、アジア全体にはさらに大きな可能性とレバレッジがあります。特にAIの進展を背景に、日本からグローバルに挑戦できる機会は確実に広がっています。だからこそ、今こそ挑戦すべきだと、私は強く感じています。
[小坂]
現場に近い立場として、大森様は今の日本市場をどのようにご覧になっていますか?
[大森様]
日本国内では、製薬、通信、製造、金融など、幅広い業界の大手企業をクライアントとしてご支援させていただいています。私たちとしては、ある程度「やればできる」という状況をすでに築くことができており、クライアント側のリテラシーも大きく向上してきたと感じています。以前は「すごいね」「面白いね」で止まっていたような取り組みも、今では「やればできる、でもやりきれない」といった段階に進化しており、全体としてかなり成熟したフェーズに入ってきたと捉えています。そうしたなかで、私たちが今後どこにリソースを投下すべきかを考えたとき、国内における実装はある程度回り始めており、一定の自動化も進んでいます。そのため、今後会社をさらに成長させていくには、新たな地域・領域への挑戦が不可欠だと考えています。
そして荒木のすごいところは、それを言葉だけで終わらせず、実際にやりきるところです。実際に、米国にブランチを立ち上げたり、定期的に展示会へ出展したりと、構想から実行までを着実に進めている。その姿勢こそ、まさに先ほど申し上げた「やりきる力」に通じる部分だと思います。
[小坂]
クライアントからはどのようなお声や評価をいただくことが多いでしょうか?
[大森様]
感謝の言葉をいただく機会は非常に増えたと感じています。前職では、プロジェクトのスポンサーである意思決定者と、実際に現場でプロジェクトを推進する方との間に、一定の距離がありました。そのため、現場の方が心から「やりたい」と感じている案件ばかりではない、という場面もありました。一方で、現在はプロジェクトのスポンサーとなる方と現場の当事者が比較的近い位置にいるケースが多く、むしろその方自身が直接プロジェクトの推進役となることも珍しくありません。そのため、「自分たちが本当にやりたいこと」を一緒に形にしていくというプロセスが自然に生まれやすく、結果として、クライアントからの感謝や驚きにつながる場面が増えているのだと感じています。
[小坂]
実際に生成AIを活用した場面で、クライアントはどのような反応を示されることが多いですか?
[大森様]
最も反応が大きいのは、「AIでここまでできるんだ」という驚きだと思います。もちろん、それは私たちの技術というより、AIそのものの進化がすごいということなのですが、それでも非常に大きなインパクトを与えていると感じます。例えば、ChatGPTが登場した2022年の夏頃には、自然な言葉で会話できるというだけで、「人間っぽい返答が返ってくる」ということ自体が驚きでした。しかしそこから状況は大きく進化し、今では生成AIが外部情報をある程度探索できるようになり、以前よりも正確で信頼性のある出力が得られるようになってきています。さらに現在では、生成AIを組み込んだアプリケーションの開発も進み、これまで多くの時間をかけて手作業で行っていた業務が、「ボタンひとつで実行できる」ような世界に近づいています。推論能力も向上しており、業務効率化の幅が広がるなかで、クライアントからも「ここまでできるのか」といったリアクションをいただくことが非常に多くなっています。
[小坂]
昨今では、生成AIのニーズを取り入れたコンサルティングファームも増えてきている印象ですが、そうしたなかで、GenerativeXならではの特長や強みは、どのような点にあるとお考えでしょうか?
[大森様]
当社が他と大きく異なる点は、SaaSモデルではないという点だと思います。展示会に足を運ぶと、「AI」「生成AI」「AIエージェント」といったキーワードが、ほぼすべてのブースに掲げられているのを目にします。私たち自身も、ビッグサイトで開催された複数の展示会に連続で出展していたのですが、出展企業の多くはSaaS型のサービスを提供している企業でした。SaaSモデルの場合、どうしてもプロダクトアウト的な発想になりがちです。つまり、「このインプットを与えれば、こういうアウトプットが得られます」という枠組みで提供されるサービスが多い傾向にあります。一方で、私たちはそうしたモデルとは異なり、クライアントの課題に寄り添いながら、仮説を立て、最適なソリューションを1から設計していくというスタンスをとっています。いわば、仮説検証力をもってクライアントの本質的な課題を見極め、それに合わせてプロダクトではなく「プロアプリケーション」を個別に構築していくという点が大きな違いです。これは、SaaSではないからこそ実現できるアプローチだと考えています。
また、もう1つの強みとして、コンサルティング出身のメンバーが多く在籍しているという点があります。そのため、クライアントが語っている課題の背景や意図を的確に汲み取り、例えば、「これは生成AIで解決すべき課題なのか」「既存のシステムで対応できるのではないか」といった技術と業務のすみ分けを、実践的な知見をもとに判断することができます。私たちは高いコンサルティング力と生成AIに対する深い理解の両方があるからこそ、クライアントにとって本当に意味のある提案や開発が可能になっているのだと感じています。