IGPIものづくり戦略カンパニー(以下、IGPI MSC)は、株式会社経営共創基盤(以下、IGPI)の製造業に特化した専門組織として、製造業が直面する複雑な課題に対し、戦略策定から実行、そしてその成果実現までを一貫して支援しています。
単なるコンサルティングに留まらず、事業の本質を深く理解し、最先端のテクノロジー活用やサプライチェーンの最適化、組織変革など、多岐にわたる専門性と実行力で、クライアント企業の持続的な成長と競争力強化に貢献しています。
今回はものづくり戦略カンパニー副カンパニー長/ディレクターの疋田 英朗様にインタビューをさせていただきました。
インタビュアーはフォルトナ岩崎と上野が務めます。
疋田 英朗様 プロフィール
ものづくり戦略カンパニー副カンパニー長/ディレクター。
日本電解株式会社取締役。
日系電子部品メーカーにて発光デバイスの研究開発業務に従事。IGPI参画後は、自動車部品、総合電機、印刷機器といった国内製造業を対象に中期経営計画・M&A戦略・構造改革等の計画策定および定着化までの実行支援や組織再編に伴う業務改革など、企業価値向上に向けた取組を推進。
日本のものづくりに迫る危機感を胸に、現場経験を生かして構造改革に挑む
[岩崎]
本日はよろしくお願いいたします。
初めに、疋田様のご経歴を教えていただけますか?
[疋田様]
私は理系の大学院で「光物性」の研究をしており、その専門性を生かして、卒業後は日系の電子部品メーカーの研究開発センターに就職しました。仕事内容は、LEDのバックライトなどに使われる材料の開発です。大学での研究テーマと実務の内容が直結していたため、自然な形で研究の延長線上にある仕事に取り組むことができました。
しかし、私が20代後半の頃、所属していた部門が採算の関係で閉鎖されることになりました。その結果、私は製品開発部門に異動となり、設計職として工場に近い現場での開発業務に携わることになったのです。
仕事内容自体には大きな不満はなかったものの、この出来事は私にとって大きな転機となりました。当時から日本の製造業は、海外メーカーにキャッチアップされ、競争力を失いつつある状況だと感じていました。「このまま普通にものづくりをしていても、勝てないのではないか?」という危機感を、若いながらにも強くもっていました。そして、部門の閉鎖という現実を目の当たりにしたことで、「なぜ経営陣はこうなる前に手を打たなかったのだろう?」という疑問が湧きました。今振り返れば、きっと何らかの対策は講じられていたのだと思います。ただ、それが現場からは見えず、経営と現場の距離を感じたのです。
この経験を通じて「自分の立場によって会社の見え方は全く違う」ということを実感し、「もっと早い段階で、会社全体や業界の構造を理解し、経営判断に関われるような仕事がしたい」と思うようになりました。
そんなとき、大学院時代の先輩が経営コンサルタントとして働いており「こういう道もあるよ」と教えてくれたことで、コンサルタントという職業に興味をもちました。そして「今の立場からでは見えなかった全体像を、自分も見てみたい」という思いから、コンサルタントへの転職を決意しました。
[岩崎]
経営コンサルタントにご興味をもたれたなかで、なぜIGPIを選ばれたのでしょうか?
[疋田様]
実は、最初からIGPIに入社したわけではありません。もともとは「Nextech」という、製造業領域に特化したコンサルティングファームに入社しました。Nextechを選んだ理由は大きく分けて3つあります。
1つ目は、自身のバックグラウンドに強く関係していた点です。私は理系出身で、メーカーでの研究・開発経験があったため、製造業に特化したコンサルティングファームとの親和性を感じました。
2つ目は、Nextechが掲げていた「ハンズオン型の支援」や「経営層と直接向き合うことを前提とした案件スタイル」に強く惹かれた点です。若手であっても、経営層とコミュニケーションを取りながら、企業全体の変革に携わるようなハイレイヤーなテーマに取り組める環境が整っていたことが、非常に魅力的でした。
3つ目は、組織規模と専門性です。当時、Nextechには製造業に特化したコンサルタントが約150名在籍しており、製造業専門でこれだけの規模をもつ組織は他にほとんど存在していませんでした。戦略ファームやBIG4にも製造業部門はあるものの、ここまでの専門性と規模を兼ね備えているチームは珍しく、面接でお話を伺った際もその点が非常に印象に残りました。規模があるということは、それだけナレッジが蓄積されているということでもあり、プロジェクトの幅や深さにも期待できると感じたため、入社を決めました。
その後、NextechはIGPIの子会社になり、現在の「ものづくり戦略カンパニー」として統合されました。このような経緯で、私はIGPI MSCの一員となり、引き続き製造業領域を中心とした経営コンサルティングに従事しております。
[岩崎]
IGPIが、製造業に特化したNextechを合併した背景には、どのような意図があったのでしょうか?
[疋田様]
IGPIがNextechを統合した理由として「日本のコア産業である製造業を強化する」という共通の理念がありました。製造業に特化したアプローチや、クライアントへの支援の仕方など、両社の考え方が非常に合致していたため、この統合が実現したのだと理解しています。
特に、成果にコミットする姿勢や、柔軟に対応するスコープフリーなアプローチ、そしてハンズオン支援へのこだわりなどが、両社に共通する重要な価値観だったと思います。
「実行してこそ価値がある」技術と経営を理解した経営人材による提案力
[岩崎]
ここからは組織について詳しくお伺いできればと思います。
まず、IGPI MSCはどのようなテーマをメインに扱っていますか?
[疋田様]
IGPI MSCは注力する領域を明確に定めており、業種としては「自動車」「化学」「半導体」の3つを主軸に据えています。
まず「自動車」については、日本の製造業の中でも特に裾野が広く、どの企業も大なり小なり関わっている業種です。国内で国際的に競争力がある領域でもあり、私たちとしても決して外せない重点分野です。
次に「化学」は、特に「素材系」にフォーカスしています。日本は基礎研究の分野で依然として強みがあり、大学や大学院との連携によって、素材分野では世界的にもプレゼンスを保っています。そうした背景から、私たちとしても引き続き成長が期待できる領域として注力しています。
そして「半導体」については、比較的近年から注力し始めた分野です。地政学的な観点や各国の産業政策の影響もあり、日本でも国家的な重点産業となっています。企業側からのニーズも高まっていることから、現在は人材の採用も含めて体制を強化しているところです。
[岩崎]
IGPIではカンパニー制を採用されており、社内にはIGPIカンパニーもありますが、IGPI MSCとIGPIカンパニーではどのように棲み分けをされているのでしょうか?
[疋田様]
以前は明確な棲み分けがありました。IGPI MSCは中途採用者の約7割が製造業出身のエンジニアで構成されているため、現場寄り・実行寄りの課題を担い、経営層向けの上流案件はIGPIカンパニーが担う、という形でクライアントにも説明していました。
しかし、両社で案件を進めるなかで、IGPI MSC側も経営戦略レイヤーの課題に対応できるようになり、現在ではIGPI MSC単独でも戦略から実行まで一気通貫で対応できるケイパビリティを備えています。案件に関しても明確に分かれている訳ではなく、どのパートナーが取得したかによって決まります。
例えば、IGPIカンパニーのパートナーが製造業の案件を取得した場合、IGPIカンパニーの案件として進めますが、IGPI MSCのメンバーに適任者がいれば、そのメンバーをプロジェクトに参加させることもあります。逆に、IGPI MSCの案件にIGPIカンパニーのメンバーを加えることもあります。私自身もIGPIカンパニーのデリバリーを担当しているため、棲み分けを強く意識することなく、シームレスに協力して進めております。
[岩崎]
IGPI MSCに所属して製造業領域の案件を軸にしつつ、IGPIカンパニーの幅広い案件にも取り組めるのは魅力ですね。
[疋田様]
そうですね。製造業以外の案件にも、所属を変えることなくチャレンジできます。私自身も製造業以外の案件にアサインされましたが、コンサルティングの基礎力が身についたとともに、そこでの経験を製造業の案件に応用することができました。
[岩崎]
カンパニーの垣根を超えたコラボレーションが活発なのですね。IGPIグループ内にもさまざまな企業がありますが、そちらとのコラボレーションはいかがでしょうか?
[疋田様]
私は製造業の新規事業探索を主なテーマにしていますが、そのなかで大学の最先端技術と自動車部品メーカーとのマッチングを、グループ企業の先端技術共創機構(以下、ATAC)と協力して進めています。
ATACは、さまざまな大学の研究室と広くコネクションを築いており、技術への理解やカバレッジも非常に広いです。こうした強みを生かし、先端技術と企業のマッチング促進や、技術評価をサポートしていただいています。
製造業における新規事業では、事業化に向けた初期段階で技術の棚卸しや評価が重要になりますが、そこでもATACのメンバーや、業界に精通したエキスパートの方々と連携することで、評価体制を構築できています。このような仕組みをソリューションとして提供できる点は、非常にユニークだと感じています。
[岩崎]
ATACのような先端技術のインキュベーション会社や事業会社がグループ内にあるのは、IGPIグループならではの強みですよね。
他ファームとの比較という意味では、昨今拡大路線をとるファームが多いなかで、貴社はそうした動きを前面に出していないように感じます。どのような方針で組織運営や成長戦略を考えていらっしゃるのでしょうか?
[疋田様]
IGPIグループでは「仕事は楽しく、意義のあるものであるべきだ」という考えを大切にしており、無理な拡大路線はとっていません。少人数体制であることがポイントで、案件のほうが多く集まる状況です。数あるお引き合いの中から、社会的意義のあるプロジェクトや、当社がナレッジを深めたいテーマ、メンバー自身が挑戦したいテーマなどを厳選して取り組んでいます。このセレクティブな姿勢により、案件の質や面白さは業界でもトップクラスだと自負しています。もし人数を無理に増やしてしまえば、受注できる案件の幅を広げざるを得なくなり、こうした「選べる」状態は維持できません。だからこそ、拡大を前面に出さない当社の方針が、人材の質=案件の質につながっていると考えています。
また、上場もしていないため、成長圧力がなく、自分たちが本当にやりたい仕事に集中できる環境があります。
[岩崎]
一方で、シニア層にとっては、組織が成長しなければ新しいオポチュニティが生まれないという懸念もあると思いますが、この点はいかがでしょうか?
[疋田様]
FA(フレキシブル・アサインメント)制度という社員が自ら希望する部署へ異動を申し出ることで、人事異動を実現する仕組みや、投資先企業やIGPIグループ内事業会社の実経営に関わる機会など、キャリアの選択肢を広げる取り組みを行っています。こうした制度により、シニア層にとっても多様なキャリアパスを選択できる環境が整っています。
[岩崎]
実経営に携われるのは、IGPIグループならではの魅力ですよね。
その他、他ファームと比べてIGPI MSCの強みや魅力はどこにあるのでしょうか?
[疋田様]
前提として、純粋にコンサルティングやアドバイザリー業務の内容だけを比較した場合、現在では各社間に大きな差はないと感じています。採用している人材の質も高く、提供しているサービス自体も、一定のレベルを超えると大きな違いは見えづらい部分があります。そもそもコンサルティング業務は個人の力量に依存する側面が大きいため、企業単位で明確な差異を語るのは難しい面があります。
それを踏まえて、当社ならではの特徴として挙げられるのが「クライアントへの関わり方の多様性」です。通常のアドバイザリー契約はリテイナーフィー(月額の固定顧問料)が中心の場合が多いですが、当社では成果報酬型での契約形態にも対応しています。また、IGPIグループとして投資機能も有しているため、人的リソースや知見だけでなく、必要に応じて資金面でも支援を行う体制が整っております。
[岩崎]
体制も含めて、現場に寄り添ったコンサルティングが貴社の強みかと思います。実際にクライアントからはどのような存在として認識されているのでしょうか?
[疋田様]
クライアントから特に高くご評価いただいているのは「実現可能な提案を行っている」という点です。私たちは自社の実力やクライアントの現状を正確に踏まえたうえで、現場に即した、地に足のついた提案を行うことを重視しています。このため、「納得感があり、着実に取り組みを進められる」といったお声をよくいただきます。
時代の流れとして先進的な戦略提案が重視される傾向もありますが、当社では、クライアント自身のケイパビリティ(実行能力)に寄り添い、実現可能性を追求することに力を入れています。
特に製造業の現場においては、ものづくりのプロセスや組織の強み・課題を深く理解したうえで提案を行うことが重要であり、この点において当社は高い付加価値を提供できていると自負しています。
また、こうした現場理解を支えるため、当社ではエンジニア出身者を積極的に採用しており、技術と経営の双方を理解した人材による支援を強みとしています。
このような採用方針と提案スタイルの一貫性が、クライアントにとって「実行可能なパートナー」として選ばれる理由の1つになっていると考えています。
[岩崎]
以前IGPIカンパニーにインタビューさせていただいた際にも「戦略は実行してこそ価値がある」という考え方が、カルチャーとして根付いていると強く印象に残りました。実行しない選択肢はあり得ない、というフィロソフィーが、IGPI内で共通認識として存在しているのだと改めて感じました。
[疋田様]
そうですね。コミットメントへのこだわりは、当社にとって非常に大切な要素です。「当事者意識」というカルチャーが、社内で非常に強く根付いていると感じています。これは「真の経営人材の育成・輩出」という方向性にもつながっています。
例えば、自分が描いたプランに対して、パートナーから「それを自分自身で実行できるのか?」と必ず問いかけられます。理論上正しい提案は誰でもできますが、「実際に自分で事業部長として遂行できるのか?」というレベルでリアルに問われる文化です。「では、1年目、2年目、3年目のKPIはどう設定するのか?」「数値目標は?」と、かなり具体的なところまで問われます。それくらい、当事者意識をもってプランを描くことが求められるため、非常に鍛えられる環境だと感じています。
このカルチャーにより、仮説思考をはじめとする思考力が磨かれますし、何より「現場での実行にこだわる姿勢」が自然と根付く点は、当社ならではの特徴だと思います。パートナーから厳しいレビューを受けながらも、それを間近で見て学び、実践していくことで、若手も成長していける環境です。個人的に非常に良い文化だと感じています。
[岩崎]
絵に描いた餅にさせないコミットメントへのこだわりが強くあるからこそ、コンサルタントという枠を超えた経営人材としての成長にもつながっているのですね。
今後の組織としてのビジョンについても教えてください。
[疋田様]
方向性としては、大きく2つあると考えています。
1つ目は、引き続きコンサルティング領域で、日本の製造業の根幹を支える自動車、化学、半導体といった産業に深く関わっていくことです。特に、ソフトウェア、AI、ビッグデータといった新しいテーマにも積極的に取り組み、ソリューションの深化を図っていきたいと考えています。
2つ目は、コンサルティング領域を超えた「経営執行支援」です。具体的には、取締役やCxOとして企業に人材を派遣し、日本におけるプロ経営者不足という課題に貢献していきたいと考えています。私自身も、特にこの経営執行支援の取り組みを強化していきたいと思っており、経営の現場に関わる機会を増やしながら、プロ経営者を輩出する組織を目指していきたいです。