PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)は、戦略の策定から実行まで総合的なコンサルティングサービスを提供しています。PwCのグローバルネットワークと連携しながら、クライアントが直面する複雑で困難な経営課題の解決に取り組み、国内はもとよりグローバル市場での競争力強化を支援しています。
なかでもAnalytics Insightsチームでは、データ分析を使ってビジネスを変革させるための取り組みを行っています。主にAI(人工知能)ガバナンス、BI(Business Intelligence)、EPM(Enterprise Performance Management)などの領域でプロジェクトを展開しており、多様なバックボーンをもつ方々が、データ分析というツールを使いこなし、「どのようにビジネスを改革するのか」の追求を徹底することで、生成AIなどの最新技術を運用レベルまで高めることに成功しています。
今回は、パートナーの市川 秀樹様、シニアマネージャーの埇田 紘貴様、マネージャーの深澤 桃子様にインタビューをさせていただき、Analytics Insightsチームの取り組みの詳細やチームのカルチャー、求める人物像などを伺いました。
インタビュアーはフォルトナ大竹、そして小野が務めます。
市川 秀樹様プロフィール
パートナー。
事業会社の情報システム部門、外資系コンサルティングファームにて、情報系システムの導入およびデータ分析、DMP構築支援、CDP構築支援、EPM導入支援、データ利活用組織プロセス設計など、IT部門またはユーザー部門に対しデータ利活用の構想策定・要件定義・PoC・BPR・システム導入など幅広い経験を有する。
埇田 紘貴様プロフィール
シニアマネージャー。
SIerにて情報系システムの要件定義・開発・運用保守を経験。Webアプリ、クライアント/サーバシステム、タブレット アプリ等、さまざまな方式の業務システムを構築。現職では企業内のデータ利活用に関する構想策定支援・要件定義支援に従事。
深澤 桃子様 プロフィール
マネージャー。
大手信託銀行、米国アカデミアでの教職(統計・数学)、監査法人アドバイザリー等を経て現職。ヘルスケアを中心とした多業界で、データ分析に関するコンサルティング支援を実施するともに、AIガバナンス領域に参画する。確率・数理モデルを専門領域とし、近年はヘルスケア領域で複数の学会発表がある。
バイク便、SIer、数学教師。多様なバックグラウンドがコンサルタントに至るまでの経緯
[大竹]
まずは市川様のご経歴の紹介からお願いいたします。
[市川様]
大学卒業後にバイク便で働き、ライダーを経て営業所長になりました。34歳のときに退職し、部下と共にバイク運送業を起業します。40歳を機に、業態を変えるべくSIerに転職しました。初めてアサインされた世界的な小売りチェーンでの仕事をきっかけに、半年後にその会社の日本法人に入社し、課長としてマーケティングオートメーションシステムの構築などを経験しました。
その後、データ活用を得意とするテクノロジー企業に参画し、部門のリードとして組織・売上拡大を推進。そこでの経験から、今度は大手総合コンサルティングファーム2社に計10年間在籍し、この2社に入るきっかけとなったパートナーが退任されたタイミングでPwCコンサルティングに転職しました。
現在は、これまで軸として仕事をしてきたBIの領域に加えて、EPMビジネスの推進をしています。
[大竹]
市川様がPwCコンサルティングへ入社されるにあたって、背中を押された言葉や、印象的だった出来事はありますか?
[市川様]
構想策定や調査のフェーズで、データ分析の能力を発揮できていても、システム化して業務に落とし込むというエグゼキューション(実行)に対して課題を抱えている企業が多いと感じていました。
ちょうどPwCコンサルティングで一気通貫したサービスを立ち上げるということで、私の経験に期待していただいた点が決め手になりました。
[大竹]
では、続いて埇田様のご経歴の紹介をお願いします。
[埇田様]
私は2022年にPwCコンサルティングに入社しました。当時の面接官が市川で、今お話があったエグゼキューションをEnd to Endで担当できるというニーズに合致したようです。
前職はSIerで、20年弱ほどシステム開発のマネジメントをやっていました。当時はスクラッチでシステム設計からやっていましたから、開発の苦労などを面接でお話した覚えがあります。
PwCコンサルティングに入ってからは、クライアントのデータをどのように整えていくか、それをどうやって活かしていくかという利活用の領域を主に担当しています。直近では、それをBIとして可視化していく工程をメインでやらせてもらっています。
[大竹]
深澤様のご経歴についても教えていただけますか?
[深澤様]
私はもともと、日系信託銀行と外資系銀行での業務経験があります。両行では貿易に関する仕事をしていました。その後、縁があって米国大学院で数学を専攻し、そのまま数学科で教職に就いて数理統計を教えておりました。その後、帰国してアドバイザリー系の大手コンサルティングファームに転職します。統計解析等の知見を活かしたデータサイエンスの役割を担い、そこでの経験を経てPwCコンサルティングに入社しました。
最初はインダストリーのコンサルティングチームに参画しましたが、その後Analytics Insightsチームに移り、今に至ります。現在はデータ解析に関連するコンサルティング支援と、AIガバナンスを主に担当しています。
[小野]
三者三様のバックグラウンドであることが大変印象的ですね。ありがとうございます。
生成AIの登場により、最も注目されるコンサルティング領域に。
[大竹]
ここからはAnalytics Insightsチームについてお話を伺います。
チームの組織構成をお教えいただけますか?先ほどのご経歴からさまざまなバックグラウンドの方がいるように見受けられましたが、特徴などはありますか?
[市川様]
2024年7月時点で約130名、スタッフとマネージャー以上の比率はおおよそ7:3という構成です。バックグラウンドは主にデータサイエンティスト系とインプリメント(ITの実装)系で分かれています。
データサイエンティスト系には深澤のようなアカデミック系のメンバーもいますし、あとは事業会社でアナリティクスをやっていたメンバー、もしくは統計解析専門のソフトウェアベンダーを経験して転職してきたメンバーが多いかと思います。
私たちのチームで特徴的なのは、バックボーンがかなりミックスされたメンバーでありながら、アサインに関しては、その人が力を発揮しつつも成長が見込める領域にアサインしようとしているという点です。つまり、経験を積んで「この人だったら完全にできるだろう」というプロジェクトから少しずらした領域のプロジェクトにアサインすることで、本当の成長領域を伸ばすといった方式をとっています。
[大竹]
それができるということは、それだけ多くのプロジェクトがAnalytics Insightsチームに入ってきているという背景もありそうですね。
[市川様]
おっしゃるとおり、私たちが担当するプロジェクトは大きく、幅が広いです。
例えば、クライアントからデータを預かり分析示唆を出すことや、生成AIを使った業務変革の提案、既存レポートを統合した新たなレポートシステムの実装など、多岐にわたります。
このようにアナリティクスやデータなどのプロジェクト全般を取り扱っているので、さまざまな経験ができるというのも、私たちのチームの特徴です。
[大竹]
案件が多種多様にあるなかで、チームをさらに分けたりはしていないのですか?
[市川様]
はっきりと分類はしていないのですが、「ソリューションイニシアチブ」と「インダストリーイニシアチブ」に分けて考えています。
ソリューションイニシアチブは、私たちのソリューションサービスそのものの開発や提案活動、もしくはそれにまつわるCoE(センター・オブ・エクセレンス。組織を横断する取り組みの中核となる組織・活動)に従事する領域を指します。
一方、インダストリーイニシアチブは、PwCコンサルティング内のインダストリー部門と一緒にアカウント開拓をしたり、その業界の知見のより高めたりする領域です。
[小野]
インダストリーも、業界によって特徴があると思いますが、業界の違いに対応するためにどのような工夫をされていますか?
[市川様]
そうですね。同じデータ分析と言っても、保険会社のデータ分析と製造業のデータ分析とでは全く違います。使っている技術は同じでも、データやKPI、ものの考え方や意思決定の仕方が大きく異なります。
そうなると、関わる業界が変わる度に1から勉強することになり、コンサルタントとしての成長はありますが非常に大変な思いをすることになりますし、クライアントとの会話が成立するまでのタイムラグも発生してしまいます。そのため、例えば製造業のクライアントを担当するメンバーは製造業のインダストリーイニシアチブに集めた方が、ノウハウが蓄積しやすいという目論見で活動をしています。
[大竹]
イニシアチブで分けたことで、良かったことなどがあれば教えてください。
[市川様]
従来はアカウントチームのなかでAnalytics Insightsチームにフィットするオポチュニティが出てきてからプロジェクトの声がかかるというような状況でしたが、現在はチームメンバーがアカウント会議に参加し、「このプロジェクトはAnalytics Insightsチームのソリューションを使って提案しましょう」と早期にキャッチアップ・提案が行えるようになり、スピード感が変わりました。
クライアントにも非常に喜んでいただいています。
[大竹]
具体的なプロジェクトの中身についてもお伺いできればと思います。最近の傾向などを教えていただけますか?
[市川様]
私からはまず、生成AI領域についてご紹介します。
2023年から突然「生成AI」というキーワードが流行しました。私たちにも生成AIを使ってビジネスができないかという引き合いが非常に多く入り、説明資料等を社内で整備して、営業ベースの勉強会を啓蒙活動的に行いました。現在では各企業で予算が付き始め、生成AIに関する活動が進んできているようです。
生成AIは100%正しく、求めているものが思った通りに出てくるわけではありません。それを踏まえたうえで、実際にMVP(ミニマム・バイアブル・プロダクト。最小限の機能をもつプロダクト)を作ってクライアントに使ってもらうという活動を行っています。クライアントにMVPをカスタマイズし、業務効率化アプリとして検討をしていただくという流れです。
あとは、生成AIのガバナンスやCoE組織の立ち上げといった生成AIにまつわるようなさまざまなコンサルティングビジネスの支援をしています。
大規模なプロジェクトも複数出ていて、生成AIに関するプロジェクトもコンサルティングのメインストリームになりつつあると感じています。
[市川様]
もう1つご紹介したいのがEPM(企業業績管理)領域です。組織の経営や運営を支援するためのプロセス全般を指します。
EPM領域で今非常に多いのは。グループ会社の業績管理のプロジェクトです。
各企業の業績管理において、将来の予測データは通常スプレッドシートで運用しています。本部の財務部や経営管理部で作った入力フォーマットを子会社に配布し、上がってきたデータとその根拠をマクロで吸い上げ、1つの巨大なシートにします。子会社が200社あれば、200社分の膨大なデータです。大変な工数がかかりますので、四半期に1回運用するのが精一杯です。
それをなるべく高速化し、可能であれば週に1回で実施したいという企業は多くいらっしゃいます。また、近年パンデミックや戦争といった大きな経済の動きがあったので、なるべく早く業績のシミュレーションをしたいという需要が高まっているという背景もあります。そういったご要望を叶えるために、専用のツールを利用したIT化のデリバリーなどを行っているのが、私たちの取り組みです。
[深澤様]
私からは、担当するAIガバナンス領域についてお話させていただきます。企業がAIを活用しようとすると、「置いていかれる人が出る」、「ルールが決まってない」といったネガティブなポイントが出てきます。そこの仕組みを作るのが、AIガバナンスという領域です。
簡単な全社向けのガイドラインを作ったり、外部に発信するポリシーを作ったりすることももちろんあるのですが、当社では主にトラストコンサルティングチームがそれを担当することになっています。
そして、私たちのチームでは、AIの開発や運用現場において、どのように安全に業務を進めていくか、安全なプロダクトを開発・運用していくか、その実現のための業務プロセスやルール作り等を含む、事業部門などのリスク管理の第1線だけでなく、コンプライアンス部門や内部監査部門などの第2線なども巻き込んだ仕組みづくりを支援しています。
[埇田様]
私はBI(ビジネス・インテリジェンス。企業が蓄積しているデータを収集・蓄積・分析・加工し、経営の意思決定を支援する取り組み)領域に注力しています。特に、経営と密接に関係するものをどう可視化するか、という視点をもって取り組んでいます。
全てのデータがきれいに整備されている企業は稀です。そのため、どういう段取りで経営層などに対してデータを見せていくかというのが非常に重要です。もちろん、作ったデータは5年10年使えなければ、効果が得られません。今後も使い続けられるかというところも考えながら、提案しています。
[小野]
今後のチームのビジョンやビジネスの展望をお聞かせいただけますでしょうか?
[市川様]
まず、データアナリティクスの将来を語るうえで、生成AI領域を抜きにはできないと思います。生成AIのおかげで、私たちのビジネスも変わってきましたし、お客様側の知識も変わってきました。これからの仕事は、業務そのものをまず「AIでできないか」と考え、可能な限り生成AIを利用するというやり方に変わっていくだろうと思います。
RPAが流行ったときにも似たようなムーブメントがありましたが、結局人間が判断するところはRPAでは対応できなかったという経緯がありました。一方、AIは判断ができるので、AIファーストの業務プロセスになっていくだろうという風に私たちは考えています。
法務専門のAIや、人事専門のAIがあって、それらを組み合わせると1つの会社として成立するというような時代がくるかもしれません。そのための準備をしていくことが必要だと感じています。
次に、EPM領域に関しては、さまざまな社会環境が、企業の経済や経営活動そのものに影響を及ぼしていますし、それが非常にショートタームになってきています。そのなかで、やはり「未来を見通す」ということはできなくても、いくつかの可能性を洗い出し、打ち手をあらかじめ考えていくことは可能だと思っています。
「社会の変化に対して迅速に対応できる経営」「リスクを見込んだ経営」「すぐにシミュレーションができる環境」という打ち手の精緻化がまだまだ求められているので、そういった領域でEPMのニーズは今後も大きくなっていくと考えています。
[深澤様]
AIガバナンス領域についてお話します。AIやEPMなど、どのようなツールでも人間が使えばリスクが伴います。メリットだけではなく、リスクを最小化するためにはAIガバナンスのような活動は避けては通れないので、今後どんどん必要とされていくのだろうと思い、専門家として支援できるよう、積極的な取り組みを進めています。
[埇田様]
BI領域としては、デリバリー、テクノロジーいずれもすでに成熟した領域になってきていると考えています。そのため、より一層クライアントの課題解決の手段を磨いていくべきだと考えています。BIを作りたいという意思よりも「BIを使ってクライアントにとって価値あるものを創出できるか」ということを追求していく必要があります。