日本のライフサイエンス・ヘルスケア産業が再び世界を牽引するために、今何が必要なのか——新薬技術の多様化やグローバル競争の激化にさらされてきた同業界において、従来の「自社完結型」「ハイリスク・ハイリターン」なビジネスモデルは変容が必要となりつつあります。この業界の構造変革を見据えた取り組みを支援しているのが、合同会社デロイト トーマツ/コンサルティング Life Sciences & Health CareユニットのInnovation CoE(Center of Excellence)です。
彼らが挑むのは、DXの先にあるAIと人が高度に融合する「AX(AI Transformation)」、そして量子コンピューターなどの先端技術を社会実装するための「エコシステム」構築です。コンサルティングの枠を超え、官公庁や異業種をも巻き込むその活動は、まさに日本のライフサイエンス・ヘルスケア産業の再興を賭けた挑戦と言えるでしょう。
今回は、同チームを牽引するパートナー・大川 康宏様、ディレクター・眞砂 和英様、里 久美子様の3名にインタビューを実施しました。スタートアップの創業者、製薬企業の研究職、そしてコンサルティングの経験者——異なる出自のタレントが、なぜ同社に集い、いかにして業界の変革を実現しようとしているのか。日本のライフサイエンス・ヘルスケア産業が再び成長産業として返り咲く、その試みの最前線に迫ります。
インタビュアーは、同社出身であるフォルトナの上野・水上が務めます。

大川 康宏様 プロフィール
パートナー
ライフサイエンス・ヘルスケア領域の大学院を修了後、スタートアップを立ち上げ、ITを活用した同領域のR&Dビジネスを支援。東証マザーズ(現:東証グロース)市場上場を経験後、2012年から合同会社デロイト トーマツ/コンサルティングに参画。現在はLife Sciences & Health Careユニット内におけるInnovation CoEチームをリードしている。

眞砂 和英様 プロフィール
ディレクター
2003年から2011年まで約8年間、新卒入社した日系大手製薬企業にて医薬品・化学研究所に所属。2011年からは営業部学術科に異動し、臨床研究デザインおよび基幹病院、開業医への技術営業に約2年半従事。2013年9月から合同会社デロイト トーマツ/コンサルティングに参画。現在は製薬や医療機器メーカーに加え、民間保険会社や通信系企業といった異業種企業を対象に、最新のデジタル技術や医療データを活用したライフサイエンス・ヘルスケア業界への新規事業検討プロジェクトを中心に担当。

里 久美子様 プロフィール
ディレクター
2001年に合同会社デロイト トーマツ/コンサルティングへ新卒入社。ライフサイエンス・ヘルスケア領域には2011年頃から携わり、クライアント企業の変革をリードしている。
起業家、研究者、コンサルタント——それぞれの視点で業界を見つめてきたプロフェッショナルたちの軌跡
[上野]
本日はお集まりいただき、ありがとうございます。
まずは、皆様の簡単なご経歴を含む自己紹介からお願いします。
[大川様]
私はライフサイエンス領域の大学院を修了後、スタートアップを立ち上げました。ITを活用してライフサイエンス・ヘルスケア領域のR&Dを支援するビジネスを展開し、当時のマザーズ市場への上場も経験しました。
しかし、一つの事業会社の枠を超えて、業界全体により大きなインパクトを与えられる仕事がしたいと考え、コンサルティング業界への転身を決意。当社には2012年に参画し、以来一貫してライフサイエンス・ヘルスケア業界向けのコンサルティングに従事しています。

合同会社デロイト トーマツ/コンサルティング 大川様
[眞砂様]
私は大学で有機化学を専攻した後、日系大手製薬企業に研究職として新卒入社しました。8年間ほど有機合成やバイオ系の創薬研究に携わる中で、順調に研究者としてのキャリアを築いていましたが「より直接的に医療への貢献を実感したい」と思うようになりました。
そこで、自ら志願してMR支援の学術職へ異動し、全国の医療現場を訪問しました。そして、朝から長時間待たされる患者の姿や、膨大な医薬品在庫の廃棄など、非効率な病院経営の実態を目の当たりにしたのです。
こうした医療現場における根源的な課題を解決したいと考え、2013年に当社へ参画しました。
[里様]
私は大学卒業後、2001年に新卒で当社へ入社しました。コンサルティング業界を選んだ理由は「どのような企業はうまくいくのか、うまくいかないのか、その差異は何なのか」を知りたいという知的好奇心からでした。それが分かれば、自分が価値を出す方法も見出せると考えていました。
入社当初はまだLife Sciences & Health Careユニットという独立した組織はありませんでしたが、産休取得後の2011年頃から本格的にライフサイエンス・ヘルスケア領域に特化し、現在まで同領域のコンサルティングに従事しています。
[上野]
ありがとうございます。三者三様のご経歴ですが、皆様それぞれの角度から、業界の変遷を見つめてこられたことが伺えます。
絶好調だった日本企業が停滞期に。新たなトレンド「AX」に見出す活路と期待
[上野]
長年ライフサイエンス・ヘルスケア業界を支援されている皆様の目線から、ライフサイエンス業界の変化や課題をどのように捉えていますか?

フォルトナ 上野
[大川様]
私が学生だった頃、日本の製薬企業はまさに全盛期でした。日本発の画期的な新薬をグローバルに展開しており、大規模な臨床試験および営業やマーケティングへの投資が成長の生命線でした。
しかし、徐々に新薬創出が停滞し、バイオ医薬品へのシフトが急速に進行します。日本企業はバイオ医薬品への研究投資において欧米勢に後れを取り、一気に市場の主導権を奪われてしまいました。
[水上]
その危機感が、貴チームが担う「イノベーション」という領域につながってくるのですね。
[大川様]
そうですね。これまで自社で完結していた研究開発から、外部の新技術を取り込むためのオープンイノベーションへの転換が急務となりました。
そして現在の最も大きなトレンドが、「AX(AI Transformation)」です。業界のDXが進む中で、その先にあるAX、すなわち人とAIとの融合が重要なテーマとなっています。これらを通じて、製薬企業に特有の「ハイリスク・ハイリターン」なビジネスモデルの変革を試みているのです。
[里様]
さらに言えば、現在は多くの企業で生産性や利益率の低下も無視できない課題となっています。これまでは部門ごとの個別最適で改善・解決を図っていましたが、もはやそれでは追いつきません。例えば、全社視点を持つ経営企画や財務、ITなどの部門が主導して、医薬品バリューチェーン全体に関して抜本的かつ全社横断的に改革することが求められています。そして、こうした改善の手法としても、AIの活用は大きな軸となっています。

合同会社デロイト トーマツ/コンサルティング 里様
Innovation CoEが担う3つの柱——量子コンピューターとエコシステムで創薬の未来を変える
[上野]
こうした業界の変化に対して「Innovation CoE」では具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか?
[大川様]
私たちのミッションは大きく3つあります。
1つ目は、ライフサイエンス・ヘルスケア業界の「R&D支援」。革新的な製品の創出を実現するための多角的なサポートを行っています。
2つ目は、先述の通りデータドリブンなアプローチやAXの推進による「全社トランスフォーメーション」の支援です。従来のハイリスク・ハイリターンなビジネスモデルのリスクを減らし、ミドルリスク・ハイリターンへの変革を目的としています。
そして3つ目は「新規参入プレイヤーへのコンサルティング」です。今、保険会社やIT企業などの異業種からヘルスケア領域への参入を試みる企業が増えています。こうした新規プレイヤーに対する支援も大きな柱です。
[上野]
貴チームの取り組みについて、具体的な事例も交えながら、もう少し詳しく教えてください。
[眞砂様]
医療現場が抱える非効率や新薬創出における停滞など、業界が抱える課題は多岐にわたります。
中でも私が特に注力しているのは、AIや量子コンピューターといった先端技術を活用した研究開発領域の変革です。日本の研究開発組織が再び世界で戦える製品を創出できるよう、画期的なビジネスアイデアの実行や、新たなデジタルソリューションの考案および先端技術の実装などを支援しています。先ほどの大川さんの話で言えば、主に1つ目と2つ目が該当します。
例えば、製薬企業における創薬価値の創出に量子コンピューターの活用を支援するプロジェクトがあります。当社はライフサイエンス以外の専門性を持つメンバーとの連携も可能なため、本案件は量子コンピューターの技術者と共同で推進しています。

合同会社デロイト トーマツ/コンサルティング 眞砂様
[水上]
量子コンピューターは、まさに創薬との親和性が高い領域ですね。一方で、こうした先端技術領域の導入を一企業で推進するのは難しいのではないでしょうか。
[眞砂様]
まさにおっしゃる通りです。先端技術は不確実性が高く、一社で背負うにはリスクが大きい。
そこで私たちは、厚生労働省や経済産業省といった中央省庁、さらには業界団体をも巻き込んだ「エコシステム」の形成を進めています。官民が共同で予算を出し合い、リスクを分担しながら実証実験や制度面の整備を進めつつ、情報を共有し合って本当に役立つ技術なのかを一緒に見極めていく。こうして心理的なハードルを下げ、日本の成長戦略の柱となり得る先端技術の導入を加速させているのです。
[大川様]
量子技術や創薬といった国政レベルでも重視されている領域に関わる支援を、単独企業ではなく業界全体の成長につながる形でできること。そして事業会社だけでは横断的に進めにくいこうした取り組みを、私たちコンサルティングファームがハブとなって進められることには、非常に大きな意義があると感じています。
業務知識 × 専門性で、お客様の変革をEnd to Endで支援
[上野]
まさにコンサルティングの醍醐味ですね。一方で、他のファームでも先端技術の導入支援などは行っているかと思います。
その中で貴社が選ばれる理由や、他社との違いはどこにあるのでしょうか?
[大川様]
私たちの強みは、大きく分けて2つあります。
1つは、長年インダストリーへのフォーカスを続けていること。つまり、業界やお客様への深い理解です。加えて、製薬企業や研究者の出身者など、各バリューチェーンに対する高い専門性を持つ人材がそろっています。
もう1つは、グローバル規模でのサービスレベルの高さです。当社はグローバル全体でライフサイエンス・ヘルスケア領域におけるプラクティスを有しており、グローバル連携機会が多く、最新のナレッジや多様なタレントが集約されています。
その上で、AI領域はもちろん量子技術のような先端領域にも早期から投資し、ナレッジやケイパビリティを蓄積しています。汎用的な生成AIを大規模展開するだけでなく、お客様のビジネスへの深い理解を前提に、業務特化型でインパクトをもたらすような高度なテーマにも取り組めるのです。

合同会社デロイト トーマツ/コンサルティング 大川様
[眞砂様]
私の場合は、製薬企業での約10年の経験を生かし、お客様の研究開発や学術、メディカルアフェアーズといった業務を担う各部門の方々と専門的な議論が可能です。
こうしたお客様の業務への深い理解を前提に、当社が持つAIや量子コンピューター、組織人事などといった専門チームと連携しながら、具体的な課題解決を支援できます。この「業務知識」と「高度専門知識」との掛け算こそが、私たちの価値なのです。
[里様]
加えて、「絵に描いた餅」で終わらず「End to End」な支援への徹底的なこだわりも大きな強みですね。当社では、「A-I-O」、すなわち、戦略策定(Advisory)、戦略の導入(Implement)、運用(Operate)という枠組みに基づき、End to Endのサービス提供を行っています。例えば、当社には、AIの構築や実装を専門とするチームがあり、彼らと協業しながら戦略から実装、運用までを含めた改善をやり切ることができます。そのような取り組みを通じて、前例のない新しいことにも挑戦しながら、お客様への提供価値を最大化するとともに、コンサルタントとして求められるケイパビリティを拡張することにもつながっています。

合同会社デロイト トーマツ/コンサルティング 里様
[水上]
お客様からは、実際にどのような評価を受けていますか?
[大川様]
私たちが持つビジネスの知識とデジタルテクノロジー、そしてバイオロジーをはじめとする研究開発領域の知見を掛け合わせた当社ならではの支援を高く評価いただいていると感じています。
BPRやデータドリブン、DX、AXなど、時流に応じたテーマの変化には柔軟に対応しながら、一貫して「インダストリー」というお客様視点の軸を大切に進化してきました。
この軸があるからこそ、ビジネスとテクノロジーとの難易度が高い融合を実現し、全社変革を成功に導けるという自負があります。
「イノベーション」の本質を再定義し、理想の実現まで伴走する
[上野]
Innovation CoEとして、お客様に対する「イノベーション」や「新たな視点」などに関わる価値提供を象徴するような、具体的なエピソードはありますか?
[眞砂様]
ある製薬企業の事例として、「患者を支援する新たなデジタルサービスを立ち上げたい」という相談がありました。
その製薬企業は、医師との接点は多いものの実際の患者との接点が少なく、彼らの日常生活や本当の困りごとについてよく知り得ない状態でした。加えて、デジタルソリューションへの知見もその当時はまだ検討を開始したばかりということもあり十分ではありませんでした。そこで私たちは、その両方を支援しました。
[水上]
実際に、どのような支援を行ったのでしょうか?

フォルトナ 水上
[眞砂様]
まずは、20〜30名ほどの患者へ実際にインタビューを行い、彼らの本当の困りごとや深いニーズを掘り起こしました。そしてインタビューから発掘された、患者の真の悩みに寄り添うためのデジタルソリューションのコンセプトを、デザイン会社と連携しながら設計しました。
ただ、企業側では、このサービスが「本当に患者に刺さるのか」と確信しきれずにいました。これを受けて、私たちはすぐさまこのサービスのコンセプトを複数名の患者に伝えて、実際の反応を見ることにしました。すると「こんなサービスが欲しかった」「自分の悩みに本当に寄り添ってくれる」といった、非常に前向きな声を多く得られたのです。その生の声と肯定的な反応を提示し、合意を得た上で実装に向けて支援しました。
私たちの深い業務理解に基づき、他者を適切に巻き込みながら、これまで存在しなかったコンセプトやアイデアを形にできた。さらにはそれが社会課題の解決に直結するサービスであったことは、イノベーションの事例として非常に象徴的だと思います。

合同会社デロイト トーマツ/コンサルティング 眞砂様
[大川様]
イノベーションとは単なる「斬新なアイデア」ではありません。企業、ひいては社会の根源的な課題と真摯に向き合い、それを要素分解して、量子やエコシステム、AIなどといった切り口から解決の糸口を見出すことが重要です。お客様が自覚していない潜在領域や自社だけでは踏み出せない一歩に対して並走し、共に実現していくことに意義があります。私たちは、変化し続ける課題に対し最適なソリューションを常に考え、提供し続けるチームなのです。
高い視座を持ってこれからの業界を共創する、未来の仲間をお待ちしています
[上野]
続いて、実際の組織文化や働きやすさについてお聞かせください。貴社の社風についてどのような特徴がありますか?
[里様]
日本を代表する企業の変革に伴走するために、プロフェッショナルとして求められる水準は確かに高いと思いますが、個々の成長を助け、互いに高め合う文化は、会社のDNAとして根付いていると感じます。
[大川様]
コンサルティングファームの最大のアセットは「人」ですから、皆が生き生きと働ける環境づくりは非常に重要です。
私たちのファームには、メンバーの育成やフォローアップを専属で支援する独自の仕組みがあり、非常に手厚い体制を敷いています。プロジェクトのアサインに関しても、個人の希望と組織とのバランスを調整するクッション役として人事担当者が間に入り、本人が望まないアサインが続かないように配慮されています。

合同会社デロイト トーマツ/コンサルティング 大川様
[眞砂様]
加えて、私が感じる当社の良さは「自由」であることです。事業会社では大なり小なり職務範囲に縛られることもありますが、ここでは新しいアイデアを気兼ねなく持ち込める環境があります。他部門の専門家を巻き込みながら、常に新しい仕事を生み出していける。自分の提案や発想を潰さずに育て、形にできる可能性があるのです。
こうした自律的な働き方ができることが、長く続けられる大きな理由でもあります。
[上野]
最後に、求める人材像と、貴社を志す候補者の方へのメッセージをお願いします!
[里様]
重要なのは「素直さ」と「折れない心」と「お客様のために働くこと」だと思います。具体的には、指摘を謙虚に受け止めて改善につなげる素直さと、困難に直面しても前向きに取り組める方です。これに加えて、お客様への貢献を第一に考えられる姿勢があれば、必ず成長できる環境が整っています。ケイパビリティを広げながら多様な知見やスキルを吸収できる当社は、将来のキャリアに不透明感があるからこそ、有力な選択肢になり得ると思います。
[眞砂様]
私は「医療やライフサイエンス領域が抱える、日本全体の課題を解決したい」という「志」を持つ方に来てほしいですね。私たちが扱うテーマには明確な答えがなく、成功の確証を得られない場合も多いです。しかし長期的な目標や軸を持つことで、困難な局面でも粘り強く取り組めますし、難解なことにも挑戦し続けられると信じています。
[大川様]
私たちInnovation CoEでは、R&Dや全社変革、新規事業という、まさにこれからの日本を創る3つの領域に取り組んでいます。こうした各領域において、お客様との積極的な議論を通じて長期的な信頼関係を築きながら、CxOの方々から信頼されるパートナーとして認められる存在を目指したいという熱意を秘めた仲間を求めています。
役職に関係なくメンバーとコミュニケーションできる非常にフラットな組織で、最先端の情報に触れながら、新たな価値を世の中に生み出すことができます。既存の常識を塗り替え、ライフサイエンス・ヘルスケア業界の未来を共に創っていきましょう!

左から、フォルトナ 水上、合同会社デロイト トーマツ/コンサルティング 眞砂様、大川様、里様、フォルトナ 上野