世界有数のプロフェッショナルサービスファームであるKPMG。その日本におけるメンバーファームとして、ビジネストランスフォーメーション、テクノロジートランスフォーメーション、リスク&コンプライアンスを手掛けているのがKPMGコンサルティングです。
同社の戦略を担う組織であるStrategy & Operations(S&O)は、特定の業界に特化した企業戦略を構築するチームのSector Strategy(SS)、製品・サービス提供に係るオペレーション戦略の策定から実行までを担うOperation Strategy(OS)、CXからミドル・バックまで企業全体の変革を担うCorporate Transformation Strategy(CTS)という3つの専門家集団で構成されています。いずれもマネジャー以上が所属し、マネジャー未満はS&O内でプール制になる点が特長です。
今回のインタビューでは、Sector Strategyに所属する4つのチームをそれぞれリードするパートナー陣にお話を伺いました。第1弾は、金融チーム(SS-Financial Services)をリードする青木聡明パートナーにご登場頂きます。
青木様のこれまでのキャリアを紐解きつつ、同チームのプロジェクト内容や得られる経験、今後のビジョンなど、様々な魅力についてお話し頂きました。
※Sector Strategy(SS)は、2022年10月より、Strategy and Transformation(ST)に名称変更されました。
青木聡明様 プロフィール
大学卒業後、大手生命保険会社に入社。最初の2年を営業現場の企画、後半2年を営業職員の成績・給与・評価の仕組みづくりに携わり営業職員をどのように動かすのかを現場と制度の両面から学ぶ。
その後、外資系戦略コンサルティングファームに転職し戦略からオペレーションまで幅広いプロジェクトを経験。順風満帆・スピード昇進ということはなく四苦八苦しながらも経験を積む。もう一社別の戦略ファームを経て戦略コンサルタントとしてのキャリアを積み、2016年にKPMGコンサルティングに転職し今に至る。
戦略コンサルからKPMGを選んだ理由
[佐津川]
本日は宜しくお願い致します。まずは青木さんのバックグラウンドについてお伺いさせてください。新卒で生命保険会社にご入社とのことですが、そこからコンサル業界に移られたのにはどんな背景があったのでしょうか?
[青木様]
日本の大企業の多くがそうかと思いますが、4年ぐらい在籍していると、社内で自分がどのようなキャリアを歩めば成功するか分かってきます。
私は当時勤めていた生保で4年間リテール領域に携わっていました。つまり、保険を売ることがミッションのキャリアトラック。私自身そこは「なんか違うな」と思っていたので、まずは社内でキャリアを変えられるように勉強を始めました。
実際にスクールに通って中小企業診断士の勉強を始めると、自然と外部の環境に目が向くようになりました。その時、たまたまある外資系戦略ファームが未経験者(Non MBA)の中途採用を始めたと知って応募してみました。それまでコンサル業界なんて全く知らなかったし、そのファームの名前すら知りませんでした。ケース面接ってことが何かも知らずに受けたのですが(笑)、幸いなことにオファーを頂くことが出来ました。
しかし、受かった理由は正直、自分でも全然分かりませんでした。だから当時、面接して頂いたパートナーの方に「受かった理由を教えて欲しい」と直接コンタクトしました。「そんなやつ初めてだ」と言われましたが、私も受かった理由を聞かれたことは未だかつてないですね(笑)。
その時に言われたのは、「ポテンシャル採用だよ」と。「保険会社でやってきたことは正直期待してない。ただ、コンサルタントとしてやっていけるかはちゃんと見ているから、そこは安心していいよ」ということでした。その言葉に背中を押されて、コンサル業界に転身することを決めました。
[佐津川]
そうだったんですね!そこから一度別の戦略ファームに移られ、また最初のファームに戻られて再度ご活躍された後、KPMGコンサルティングにジョインされていますよね。
[青木様]
そうですね。最初の戦略ファームには長く居ましたので人間関係ができていたし、非常に良い会社だと今でも思っています。しかし、そこで昇進する中で、もう少し仕事の幅を広げて行きたいと思った時に悩んだ部分がありました。当時、そのファームではマネジャーからプラクティスに所属することになっていて、私はオペレーションのプラクティスというところに居ました。そこではある意味、特定のパートナーにコミットして仕事をしていく必要があります。
逆に言うとプラクティスの方針に従ってやっていけば良かったので、それはそれで楽だったんですけど、何か変化をつけないと成長はないなと。
そんなことを思っていたところ、たまたまKPMGが新しい戦略チームを立ち上げるという話を当時のリードパートナーから聞きました。何回かお会いする中で、「全くゼロからです。青木さん自由にやってください」と言われて、今まで自分がやってないようなことを本当に自由にできそうだったので、入社を決めました。
実際に入社してみたら、本当に何も無かったんです(笑)。お客様もいなければ、案件もなくて。「ここまでか!」と正直驚きましたが、逆にとてもワクワクしましたね。それが2016年のことです。
フワッとした議論からこそ面白いプロジェクトが始まる。SS-Financial Servicesの特長とは?
[佐津川]
ありがとうございます。では次に、青木さんのチームであるSS-Financial Servicesの概要やプロジェクト事例をお伺い出来ますでしょうか。
[青木様]
業界としては金融ビジネスに軸足を置きながらも、多様なクライアントに対して経営戦略立案やビジネスモデル変革のお手伝いをするチームです。
今ある具体的な案件としては、銀行の新規事業立ち上げ支援。銀行が様々な新規事業構想を具現化していくところに、FSのメンバー2人とS&Oのジュニアメンバー3人がずっと寄り添って支援しています。また、ある金融機関がプラットフォームビジネスを構想するにあたっての、フィージビリティを検証する案件もやっています。
金融以外だと、重厚長大な製造業子会社の成長戦略支援も手掛けています。今の売上を近々で倍にして、更にその倍にしたいと仰っているので、その道筋をいろいろ“妄想”するというプロジェクトです。
他にも直近では、別の製造業の事業ポートフォリオ見直し支援も行いました。事業評価の指標作りからお手伝いしています。また、その会社から個別にご依頼を頂いたのですが、子会社の技術市場動向調査のプロジェクトもやっています。
[佐津川]
いわゆる上流工程というか、戦略的な話がかなり多いですね。
[青木様]
そうですね。これもまだ中身は全然詰まっていないのですが、ある人材系企業のグループ中期計画の提案や、新しいビジネス構想も議論しています。経営層と議論して、ワークショップもやりながら、何ができるかを構想しているところです。
後は、素材系製造業の支援。同社が扱う素材の安定供給に加えて、原材料のフェアトレードをしっかりと行っていくことで供給元の国への社会貢献も果たしていけるようになれないか、というプロジェクトです。そのディスカッションを今日この後やる予定です。
このように金融に限らず、幅広い業界の会社さんに対して、フワっとした議論から始まって、その会社さんの未来を描いていくようなご支援が多いですね。特にここ半年は、ビジネスをどう伸ばしていくかという話が多いです。2年ぐらい前までは、業務改革の話ばかりだったんですけどね。はからずも、やっていることが変わってきました。
[上野]
意図したわけではないのですね?
[青木様]
そうですね。私たちはセクター(業界特化チーム)の皆さんとコラボレーションすることが多いんです。私のコネクションから案件になることもありますが、セクター側からの相談をもらって提案することが多いです。
私がセクターの皆さんにずっと言い続けてきたのは、何かフワッとした議論をしなきゃいけないとか、まだどうなるかよく分からないような段階から我々を呼んでくれ、ということ。RFPが出来上がってからでは遅いんです。早期の段階から呼んでもらえれば、そこから面白い案件が作れるし、お客様にとって本当にやらなければいけないことが提案できると思っています。
そう言い続けているうちに、まだ何も決まってないけどSSチームのパートナーを気軽に呼んで使っていいんだとか、ディスカッションだけど呼んでいいんだ、と思ってくれる方がだいぶ増えてきたんだろうと思います。
[上野]
そういうことなのですね。ありがとうございます。チームの雰囲気などはいかがでしょうか?青木さんのマネジメント方針も伺えればと思います。
[青木様]
私を入れて5名で、とてもフラットなチームだと思います。私以外は皆マネジャーで横並びになるのでヒエラルキーもありませんし、カジュアルな雰囲気ですね(笑)。
チーム内の交流としては、週に1回1時間ずつリモートでミーティングをしています。勉強会と称して、一人ひとりが興味あることを喋る会です。
コンサルタントとしてより高みを目指すには、お客様から来たものをデリバリーするだけでなく、自分の想いをお客様にぶつけて案件を作り、お客様に突然呼ばれてもディスカッションできるようにならないといけないと思っています。
この勉強会では、そういう意味合いも込めて喋ってもらっています。デリバリーは出来て当たり前。1人でお客様のところに行って、しかも意図していない質問が来てもその場で考えて答えられる。そういう人たちになってほしいと思っています。
[佐津川]
デリバリーだけでなく、決められたお題以外もその場でディスカッションできるようになって、コンサルタントとして一人前ということですね。
[青木様]
はい。色々なコンサルタントを見てきましたが、伸び悩む人は、やっぱりお題以外のことが話せない方が多い印象です。インターナルのミーティングでも同じで例えば私に「レビューしてください」とお願いされたとして、それに関してはその方のほうがよく調べて知っているはず。作った仮説に対して私はこう思うとか、そうじゃないとか、そういう議論をしたいんですけど、「お願いします」一点張りの方もいましたね(笑)。
とても優秀で早く昇進した方でも、お客様のところにディスカッションに行くと、資料の説明はできるんだけど、そこからの議論が全然出来なかったりします。
うちのメンバーにはそうなってほしくないので、お題はもちろんのことそれ以外の議論になっても戦える力を高める機会を提供したいと思っています。
特に経営に近い方が相手になるほど、議論の中身の抽象度は高まりますし、話題も多岐にわたりますし、そこが対応できないと相手として認めてもらえないので。
[佐津川]
ありがとうございます。KPMGコンサルティング、特に青木さんチームではどんなスキルを得られるとお考えでしょうか?
[青木様]
もちろん著名なVCやPEのような体制が整っているわけでないですが、その体制構築も含めて一緒にやっていきたいと思っていただけるような方であれば、おそらく非常に魅力的な環境ではないかと思います。
[佐津川]
そういう意味では、どんなバックグラウンドを持ってきた方をターゲットにされていますでしょうか?
[青木様]
本人の意思次第だと思いますが、1つ挙げるとすれば、まさに今申し上げたようなディスカッションのスキルですかね。ロジカルシンキングやドキュメンテーションなどのスキルは他のファームでも正直変わらないと思います。
よくわからない話やフワッとした話でもとりあえず議論できて、準備していなくてもその場で考えてその場で答えるスキルは、仮にKPMGを卒業した後でも役に立つ場面が多いと思います。
お客様の経営陣やCXOは、全然関係ない雑談を振ってくることも多いんです。そこも含めてちゃんと話せるっていうのは、コンサル業界以外に行ったとしても重要なスキルだと思いますね。
それを身に着けるためには、ある意味、打たれ強く、気にせず発言し続けるしかないんです。
お客様との会議であっても、社内の会議でも、メンバーにはどんどん喋って欲しいと思っています。
私も言いたいことはストレートに言ってしまう方ですし(笑)。
[上野]
メンバーが「自由に発言して良いんだ」と思える雰囲気や環境作りをされているということなんですね。
[青木様]
そうですね。最近とある本を読んだことがきっかけで、それをより一層意識しています。すごく分厚い本なんですけど、『Listen』という外国の本です。何が書いてあるかって「人の話を聞け」ということしか書いてない(笑)。
今まではこちらからメンバーに喋りかけることも多かったのですが、それを読んで聞くことの大切さを今一度認識しました。お薦めの本なので、ぜひ一度お読みください(笑)。
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